穢れた救世主は復讐する

大沢 雅紀

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進化

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ぼんやりした意識で、白い世界を漂う正志。そうしているうちに、少しずつ情報が入ってくる。
 『もの』の名はサタン。彼の生きていた数万年前の記憶がインストールされていく。
 「あんたも……俺と同じだったのか」
サタンは、最初に現人類になった男だった。
 彼も旧人類から苛められ、排除されていた。そんなある日、彼は仲間から崖に突き落とされ、命を落としかける。
その時、最初の旧人類になった男から、旧人類を滅ぼし、現人類に進化するよう取引を持ちかけられた。今まさに正志がされているように。
 「俺が得た能力は『言語』だ」
 「言葉?」
 「そうだ。それまでは旧人類は誰も言葉を使えず、身振り手振りで意思疎通をしていた。『言葉』という、新たな精神プログラムをインストールされ、より効率的な情報伝達能力を得て、素質のある旧人類や自らの子供や孫に教え込んだ。今の現人類の直接の祖となるその一族は、言葉を得たことでまったく新しい情報伝達や、知識の共有・蓄積ができるようになった。その結果、戦いや生活を有利にすすめるようになり、ついには旧人類を滅ぼし今の人間社会を作った」
サタンの人生が終わるときには、旧人類はほとんど新人類に狩り尽され、滅亡しようとしていた。
 「それを俺に繰り返せと?」
 「そうだ。お前が得る能力は『精神端末化』だ」
 「テレパシー?」
 「それは一機能にすぎない。いわゆるメール機能だな。地球意識ガイアに精神を接続して、今まで死んで魂が地球に帰った者たちが積み上げた知識をダウンロードしたり、地球が開発したより優れた免疫プログラムや人体プログロムをダウンロードして、免疫力強化・身体強化をはかることもできる。また、自分の精神を他者の人体プログラムに接続して、任意のウイルスを感染させて操ることもできる。そして……」
サタン、そしてガイアの最終的に望む未来が提示される。
 「なるほど、人類は地球というホストコンピューターの端末になるわけだな」
 「そうだ。人類が生み出したコンピューターの概念が、次の人類の基本能力となるわけだ。こうなれば、人類は自然と調和して生き残れる」
すべてを丸く治めることができる結末に、正志も納得する。
 「確かにこれなら、人類を滅ぼせる。全知全能に近い能力だ」
 「今はただ、身をまかせろ。新しく生まれ変わるために」
 正志は静かに流れに身をゆだねた。

  二週間後。蛹の皮を破って起き上がる正志。すべての傷が完治していた。体を一から作り直したおかげで、筋骨隆々としたほぼ理想体に近いものとなった。人体プログラムは強化され、ほぼ2倍の力とすばやさになり、免疫系統も以前とは比べものにならなくなり、病気にたいする抵抗力が高まった。自分の体もより深いレベルでマニュアル操作できるようになり、怪我をした場合はその部分に治癒力を集中することで回復力も増強された。
 「次は能力の確認だ。意識を地球に接続しろ」
 精神を糸状にして、地面に這わせる。地球が張り巡らしている精神ネットワークに接続する。
 「この近くに大きい生物はいるか?」
 「500メートル先に大きい意識体がある。イノシシだ」
 「接続してソウルウイルスを注入し、「心臓停止』と命じてみろ」
  実行する正志。すると、遠くで意識体がガイアの元に帰った。近寄ってみると、イノシシは死んでいた。
 「食え。お前の体は栄養が必要だ」
サタンが命令する。
 実は目覚めたばかりで腹が減っていた。以前ではどうしていいかわからなかっただろう。しかし、素手で皮を引き裂き、生肉ごと食べる正志。以前なら吐き出していただろう生肉も、今はこの上なくおいしく感じられた。
 「うう・・胃がもたれる」食べ過ぎた正志。
 「胃に意識を集中させろ。効率よく消化してみろ」
 自分の内面のオートマされてた消化活動をマニュアル化する。寄生虫や食中毒の元となる細菌などもすべて消化した。
 全身に力がみなぎってくる。素手で動物を殺し、生肉をむさぼった事で、久しく忘れられていた人間本来の性能がよみがえってくる。
  今の正志は、本当の意味で原始人だった。
 「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
あまりの美味しさと、進化して喜びで正志は歓喜した。
 「どうやら、進化は成功したみたいだな」
 「ああ、今の俺は地球の生物の頂点に立っていると実感している」
 正志はふてぶてしく笑う。
 「では行け。現人類を滅ぼすために」
 「ああ、言われなくてもやってやる。あいつ等を服従させ、女と子供をつくりまくってやり、新たな人類を作ってやる」
 正志が言うと、サタンは笑いを浮かべて、正志の脳から消えていった。

 山を降りる途中の民家に忍び込み、服と金を奪う。
 騒ぎ立てた住人は精神ウイルス感染により記憶を失わせた。
 「まずは、支配におくべきは家族と奴等だな。今までのツケ、たっぷり払わせてやる」
  暗い笑いを浮かべながら、自宅に帰った。
 自宅までの道のり、正志は通行人の視線を集めていた。
 服は奪った物で普通だったが、体からは異臭が立ち昇り、汚れきっている。
 「なにあの人? ホームレス? 」
 「なんか怖い。こっち見ているよ」
 駅のホームで遠巻きに見ている学生たち。
(ふふ、以前だったらこうやって排除される事に傷ついていたが、今は何も感じない。以前は人間だっからこそ、仲間に入れずに孤独を感じていたんだが。もう俺は人間とは別の種になっているんだな。)
一人でニヤニヤと笑う正志。
 周囲は異質な存在に不気味に思い、側には誰も近づかなかった。
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