穢れた救世主は復讐する

大沢 雅紀

文字の大きさ
43 / 46

シェルター

しおりを挟む
「まさか、本当に君が参加してくれるとはな……」
正志は意外そうな視線をむける。その先には、ふてくされたような顔をした星美がいた。
「勘違いしないでよね。魔人類に協力するのは、大破滅から一人でも多くの人を救うためなんだからね。まだ私は君のハーレムに入るなんて決めてないんだからね」
腕を組んで睨みつけてくる星美。
「あ、ああ……わかったよ」
「いや~ツンデレ。いいものですなぁ」
たじたじになる正志を見て、麗奈は面白そうに茶化した。
「それで、シェルターとやらはどうなっているの?」
「あ、ああ。すでに建設が始まっている」
そういうと、正志は富士山の麓にあるシェルター建設現場に星美たちを連れて行った。
「シェルターというから、秘密基地みたいなものを想像していたけど、実際はただ穴をほっただけだよね」
星美はがっかりしたように言う。確かに彼女がいうとおり、深い穴の底には、人が一人入れる程度のスペースに区分けされている、蜂の巣のような区画しかなかった。
「仕方ないだろ。これくらい簡潔にしないと、とても百万人もの大人数を収容できないんだから」
それらの個室には、既に何体かの繭がある。桃井杏と最初に正志に従った女子生徒たちだった。
「彼女たちは何しているの?」
「繭の中で仮死状態になって、意識だけを仮想世界『エデン』に飛ばしている。そうして、大破滅が起こっている間をここで過ごしてもらうつもりだ」
正志はそう説明した。
「何年くらい地下にいることになるの?」
「そうだなぁ。現人類がほぼ絶滅して、人間に乱獲された生物の数が増えて、汚された地球環境が回復するまでだから、ざっと30年ぐらいかな」
それを聞いて、麗奈がちょっと顔をしかめた。
「30年もかぁ。出てきたらオバサンになっていそう」
「心配するな。繭に入っている間は一歳も年をとらないから」
それを聞いて、星美と麗奈もほっとする。
「キミたちには、ネットで呼びかけてなるべく多くの人を説得して、ここにつれてきてほしい。」
それを聞いて、二人は頷いた。
「わかったわ。私たちに任せて」
こうして、星美たちによる『悪魔教』の布教が始まるのだった。

ネットでは、ある動画が拡散され、話題になっていた。
「大破滅の真実」と題された動画は、魔人類たちに襲われた学校の生徒たちに直接送りつけられ、真実が伝えられる。
「魔人類たちが行っているソウルウイルス拡散は、これから起こる大破滅に対してのワクチン接種なのです」
動画には、誰もが知っているトップアイドルの笹宮星美が現れ、悲痛な表情でそう訴えかけていた。
動画が進むと、ある日突然老若男女関係なく大勢の人が怪物化し、人々に襲い掛かる映像が映し出される。怪物に襲われた人も、また新たな怪物になっていた。
「これは地球が人類を間引きするために作ったウイルスです。人体の精神プログラムに作用するコンピューターウイルスのようなものなので、物理的方法では検知できません」
星美の言葉に、視聴者たちは恐怖を煽られる。
「しかし、事前に魔人類たちに効果を薄められたソウルウイルスを注入された人は、怪物に襲われても免疫が作用して怪物化しません」
それを聞いて、襲われた生徒たちはほっとする。
「とはいえ、文明も秩序も崩壊するのですから、外の世界が危険なことにはかわりません。大破滅を避けたい方、今の生活を捨てて新しい世界に行きたいと思う方は、私たち悪魔教に連絡してください」
連絡先が表示され、動画が終わる。
それを見た者の反応はさまざまだった。
「やっぱり星美は『正志の女』だったんだ。私たちをだまそうとしているんだわ」
弓や『超人類』を無邪気に信奉している生徒たちは、この警告を嘘だと思って無視してしまう。
しかし、中には別の反応を示す者もいた。
「あの襲撃は、ワクチンだったんだ」
「どうせ今の世界に生きていても、いいことないしなぁ。学生時代はいじめや受験競争に苦しめられて、就職してもブラック企業でこき使われるだけの人生だろうし」
トップアイドルだった星美までが悪魔教に参加したことで、これまでためらっていた「負け組」の生徒たちも覚悟を決める。
かなりの人数の生徒たちが「悪魔教」に接触し、個人情報を連絡してきた。
そして、悪魔教に接触してから数日-
暗い顔をした少女が学校帰りの道を歩いていると、見知らぬ少女に声を掛けられた
「田村美晴さんですね」
「は、はい。あなたは……?」
眼鏡をかけた大人しそうなその少女は、黙って美晴に近づき、耳元でささやく。
「『信徒(サタニスト)』の山村理沙と申します。このままだまってついてきてください」
こうして一人ひとりひそかに接触して、富士山麓のシェルターに連れていく。
魔人類の襲撃で日本社会が混乱している中、ひそかに行方不明になる少年少女が増えていくのだった。


シェルター完成の目途がつき、悪魔教による布教の効果もあって、少しずつ収納する人数も増え始めていた。
「そろそろ、国民も弓たちの無力さに気づき始めたころだろう。大破滅も近い。いまなら女たちをシェルターに勧誘しても、案外誘いに乗る奴がいるかもしれない」
そう思った正志は、部下たちに気に入った女たちの誘拐を許可した。
「いいんですか?」
「ああ。悪魔教による信徒も増えているが、このままのペースだと我々の子を産むべき女たちが足りない。もはや、悠長に相手を説得している時間はない。同意できなければ力づくでも誘拐してきていい」
正志は、大魔王にふさわしく傲慢に言い放った。
「大破滅が始まったら、日本、いや世界規模で大混乱になる。その前に、自分の好きな女を確保しておけ」
そう言われた部下たちは、大喜びで知り合いや憧れていた女子の所へ走っていった。
「さて、俺はどうするかな」
親しい女はすでに悪魔教に入信している。少し考えた末、正志はある少女を迎えに富士山近くの街に行った。


正志は平凡なアパートのチャイムをならす。
「はーい。どなたですか?」
そんな明るい声と共に出てきた飯塚香は、正志を見て涙を流して抱き着いてた。
「待たせたな。迎えに来たぞ」
「正志さま……やっぱり生きていたんですね」
「ああ。俺たち魔人類は、使命を果たすまで何度でもよみがえる。たかだか『神』の僕である『高人類』たちなんかに、滅ぼされたりしないさ」
正志は抱き着いてきた香を、慰めながらつぶやく。
奥から出てきたパイロットは、そんな二人を見て複雑な顔をした。
「正志君。生きていたのか。君が娘を迎えに来たということは……」
「ああ。大破滅までもう時間がない。すでにシェルターは完成しつつある。俺たちの手下になった財閥や建設会社、ヤクザたちの手によってな」
それを聞くと、パイロットは正志に向かって深々と頭を下げた。
「……娘を頼む。新しい時代に生き残らせてくれ」
「ああ、娘はしっかりと預からせてもらう」
正志はパイロットの目をしっかりと見て、言い放つ。彼からは、娘のことを真剣に想っていることが伝わってきた。
「お父さん……」
「香。泣くんじゃない。この数か月、親子の時間を過ごせて本当に楽しかった。これが今生の別れとなるだろうが、新しい世界でも元気で生きて行ってくれ」
パイロットはそういって、香の頭を撫でる。
不憫に思った正志は、せめてもの慰めの言葉を投げかけた。
「今生の別れとは限らないぜ。あんたには調整したソウルウイルスを感染させているから、怪物化は避けられるだろう。俺たちが目覚めるのは30年後だ。それまで大破滅から生き残ることができれば、娘とも再会できるだろうぜ」
「ははは。ありがとう。せいぜい頑張ってみるさ。私は元自衛隊員だ。それなりに武器を調達する伝手も持っている。なんとかあがいて、大破滅に抗ってみせよう」
パイロットは苦笑して、手を差し出してきた。
「そういえば、あんた、名前は?」
「飯塚修だ」
「そうか。覚えておくよ。娘は任せろ。必ず、大破滅から守り通して見せる」
修と正志はがっしりと握手を交わすのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

見捨ててくれてありがとうございます。あとはご勝手に。

有賀冬馬
恋愛
「君のような女は俺の格を下げる」――そう言って、侯爵家嫡男の婚約者は、わたしを社交界で公然と捨てた。 選んだのは、華やかで高慢な伯爵令嬢。 涙に暮れるわたしを慰めてくれたのは、王国最強の騎士団副団長だった。 彼に守られ、真実の愛を知ったとき、地味で陰気だったわたしは、もういなかった。 やがて、彼は新妻の悪行によって失脚。復縁を求めて縋りつく元婚約者に、わたしは冷たく告げる。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

処理中です...