クソ親に捨てられたが、いつの間にか家族ができてました。

甘夏かん

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本編

 51話 鳴海美弥妃のその後

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「育て上げることはできない。この言葉僕、忘れてないから。なんでそんなこといきなり言ってきたかも知ってるから。もう母さんの元には二度と戻らないし顔も見せないから。」
そういうとマコトは部屋を出て行った。
「まっ、待ちなさい!マコト!どこに行くつもりなの!本当にお母さんを見捨てるの!?マコト!帰ってきなさい!マコト!」
と叫ぶが無情にも扉は閉まり、部屋には私と刑事との2人きりとなった。…いや正確には三人だ。よく見ると部屋の隅っこの方に存在感が希薄…と言うかほぼ空気な警官が1人ぽつんと佇んでいた。
「ええっと…あなたは〇〇市に住んでいて、専業主婦やっている鳴海美弥妃さんであってますかね?あ、私刑事課の三日月と言います。」
と目の前に座った刑事が質問を投げかけてくる。
「ええ。あ、あってますが。」
「まず聞くけど、なんでこの状況になったかの説明はできますか?」
と聞いてくる。私は
「えっと…病院で入院してる息子の面会をしようとしたら、職員が居場所を隠してきたからきつい口調で詰め寄って居場所を吐かせようとしたら、警備員が来て取り押さえられて、ここに連れてこられたって言う感じですかね?」
というと、
「OK、話の大筋は合っているので良しとしましょうか。」
とだいぶ上から目線で言われ、その態度にカチンと来て
「何よ!警察か刑事かは知らないけどあんたそんなに偉いわけ!?男だから女よりも上にいて当然ってわけ?調子に乗るんじゃないわよ!この三下!政府の犬!税金泥棒!」
と叫んだ。
「なるほど、性格は息子君の言っていた通りだな。いい観察眼をしているな。」
と刑事さんは自分の手帳を見ながら書類に何か書き込んでいる。
「ちょっと三日月さん…それ、自分の仕事なんで質問の方に専念してもらっても…?」
と三日月とか言う刑事に遠慮がちに話しかける警官がいたが、
「いや、結構。というか席を外してもいいぞ。こいつは俺1人で十分だ。と言うことで、退室してもらえるか?」
と言われ一瞬、「え?でも…」と顔をしたけれど
「で、では失礼します…」
と警官は退室し、空間内は完全に2人になった。
「さっきの発言を聞く限り、反省の色は一才見えないし、息子さんの意見も信用に値するな…」
と言いながらメモをパラパラしていた。
「反省って何?私は何もしていないっての!何回も言わせないでよ。」
と苛立ちを隠さずに言うと、三日月は、
「アンタわかってんのか!?アンタには脅迫とか諸々の罪が大小含めて10は超えてるんだぞ?今の所のアンタの扱いは凶悪犯そのものなんだよ。」
「何よ!アンタ人を狂人扱いして!アンタの方が頭おかしいだろ。」
「はぁ、もう反省色ないな。もうこれはだめだ。まあ、とりあえずは勾留だな。その後の処遇は覚悟しとけ。」
と言うと三日月は扉を開けると、先ほどの警官が出てきて私の手に手錠をかけようと手を伸ばしてきた。私はその手を払い除けると
「私は何にもしていない!私がここにいる理由はない!帰る!」
と言い、一つしかない入り口に走る。空気な警官を押し退けてそのまま出て行こうとしたが、
「公務執行妨害だバカたれ。」
と言う声がしたと思ったら私の足が急にもつれ、勢いそのまま転けた。
「いった…何が…」
と強かに打ったお腹がズキズキと痛む。見ると三日月の足が少し伸びている。どうやら足を引っ掛けられたようだ。
「はぁ…本当にどうしようもない母親だな。息子さんは相当苦労してるみたいだ。」
「アンタには関係ないでしょ!どうせアンタ独身でしょ!子供を持っての苦労も知らないでしょ!そんな奴が私の行動を否定するな!」
ジタバタと暴れ抵抗をするが、三日月は無言で手錠をかけた。
「アンタの言う通り確かに俺は独身だし、一人っ子だからその“子供を持っての苦労”とやらは確かに知らない。けどな、」
と三日月は遠くを見ながら私をつれて歩き出す、
「実の息子の名前で自分の理想が通らなかったからって実の息子の名前を勝手に改竄してまで理想を押し付けるような奴が親な訳無い。これだけは言えるな。」
「え…そ、その話…どこで…」
「息子さんだよ。あなた風に言うとマコト君かな?少なくとも彼は自分の本当の名前を知っているはずだぞ。」
「う、うそ…うそよ!なんでそんなこと知っているのよ!和弘さんと別れたのはあの子が1歳ぐらいの頃だしそんな事和弘さんにだって言ってないはず…どうして…」
「さあ、それは知らないが…そんなアンタにアドバイスだ、分かり切っていることがお前には抜けている。それを自覚して治さない限り、息子さんがあなたのことを気にかけることも再び振り向くこともないぞ。」
と言われる。ショックで何も考えられない私に三日月さんは、
「いい加減大人になれ。子供はお前の思い通りになるマリオネットじゃないからな。」
と言うと、勾留所に私を入れる。
「後は頼む。」
とついてきた警官に作業を引き継ぐと、
「じゃあな。」
とどっかに消えていった。
『(ああ~だいぶクサいこと言ったな…これあれだ、後々思い出したら死ぬほど悶える奴だな…)』
と三日月は一人頭を掻く。

・一方その頃のマコト(仮称)は…
「あ、そうそう和弘さん…あの話もうしちゃっていいですかね?」
「あの話…ああ、本名のことかい?いいと思うぞ?まあ混乱は避けられんと思うけどな…」
「まあその辺は…まあどうにかしてくれるでしょう。」
「学校にはどうしているんだい?」
「名前の変更書的なものをもらっています。月曜にでも提出しますよ。」
「そうか。…長かったな。」
「ええ、本当に。ようやくここまでこれましたよ。きっかけを作ってくれた美琴と機会をくださった和弘さんには本当に頭が上がりませんよ。」
「ははは、まあ将来君が立派になったらその時にでも美味しいものを食べさせてくれたらそれでいいよ。…どうしたんだい?…うん、わかった。じゃあ用事ができたからそろそろ電話を切るよ。じゃあこれからは本当の自由を楽しんで。青い春はこれからだぞ、マコト…いや、一樹(いつき)。」
「分かりました。和弘さんもお元気で。」
そう言うと僕は電話を切りベランダの窓を開ける。夏に近づいてはいるがまだ夜は涼しい。窓からは涼しい夜風が入り込んで僕の頬を撫でた。
“これからは本当の自由”
この言葉が僕の本当に望んでいたものでゴールかもしれないし、違うのかもわからない。けど、僕はようやく、母さんの呪縛から解放されたのだ。
「ここでマコトの物語は終わる。16年間ありがとう、マコト。ゆっくり休んでほしい。ここからは僕の物語だ。」
そう言うと僕はスマホを立ち上げる。7月10日、僕の誕生日。この日から新たな物語が始まる。ここからはマコトの物語ではない。一樹の物語だ。
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