神様の巫女 〜妖と暮らす少女、少女を気に入る貴神〜

ぬん

文字の大きさ
5 / 32
プロローグ〜開幕〜

第四話

しおりを挟む

 その後、百足の侵入の話が瞬く間に広がったのは言うまでもない。彼らの食糧となる神々は宴の上々気分から一転し、安全性が保証されない環境下に不安が募り、最早神議どころではなくなった。挙句、これを機に守衛として僧正坊が野良の妖を雇っていた事が神々にバレてしまい、神々の疑念の目は、一気にその野良達へと白羽の矢が立った。
 神々から野良の信用性に対する追及を受けた僧正坊は、翌日、武神、高神を神議場の大宴の間に呼び出し、緊急対策会議を開いた。

「概要は恵那和から聞きました」
「そう大それたことではない」

 事の重大さを理解していないのか、それとも天狗は犠牲にならない他人事だからなのか、僧正坊の態度からは焦りが見られない。
 これを機に、宴でははぐらかされた野良の情報を聞き出そうと企んでいた天照だったが、彼の考えが読めない分、下手に話を切り出す事ができない。タイミングを見誤れば、天狗の面目を潰す行為と捉えられかねないからだ。
 しかし、だからと言って、面倒事を全て他人任せにするのが彼の性分が、神の無関与など許すとも考えられない。勝手に自滅してくれた手前、引導を握れると思っていたが、何を企んでいるのか読めない現状では、僧正坊の出方を見るしかない。

「聞けば、昨夜の宴の際にこちら側の守衛で百足討伐に当たっていた者はおらず、状況を正しく把握してる者はおらなんだ。神々の命に関わる大切の会議で、又聞きの情報を報告するわけにも行かぬ。そこで良い機会じゃ。紹介も兼ねて、例の野良どもに報告してもらう」
「‼︎」

 それは願ってもない状況だった。まさか僧正坊の方から場を作ってくれるとは考えもしなかった。何か企みがある事は間違いないが、天照にとってはこの際どうでも良かった。天狗側で首輪が付いていない野良を隠し飼いされ、情報のみを流されるよりも、直接見極めを行えるのだから。

「天照、お前にとっても願ってもないことだろう」
「え、あ。まあそうですね……、紹介をして下さるとは露も思わず」
「まあ儂が首輪付きでない者を飼い慣らしていることに不安を持つのは、至極当然のことじゃろう。主らは基本、安全性を考慮して教育を施した者以外は持たがらぬからのう」
「お気遣い痛み入ります」
「野良と直接交渉したのは太郎坊じゃ。我らの意向も含め、ここからは太郎坊と話せ」

 僧正坊に代わりに矢面に立ったのは、いつも彼の後ろに控える物静かな天狗。

「僧正坊様に代わりまして、ここからは太郎坊こと、私烏水がお話をさせて頂きます」

 太郎坊とは、僧正坊の右腕的存在である側近であることを示す天狗の階級。
 つまり、彼は天狗の中で最も実力を持つ者。それなのに体型は他の天狗よりも細身で、筋肉量も少なく、比較的弱そうに見える。
 抗争とは無縁そうな落ち着いた雰囲気な一方、神に劣らぬ容姿の持ち主である。それでいてなかなかのキレ者で、僧正坊の後ろ暗い出来事の処理は彼が担っており、密かに天照大御神も一目置いている人物である。それでいて、腹の底が知れないミステリアスな部分もあり、一部の女神達からは人気がある。昨日の宴会場で僧正坊に群がった女神の中の何人かは、この太郎坊目当てで役を引き受けた者も少なくない。
 独裁的な僧正坊が天狗筆頭であり続けても尚、天童との繋がりがまだ辛うじて敵対していないのは、間違いなく彼が上手く取り計らってくれているおかげである。

「最初に状況についてです。侵入した百足ですが、昨日確認したところ、侵入後はすぐに野良が始末し、かつそこから12時間以上経過して行方不明者は今のところ確認されていませんので、数は一体で間違いはなさそうです。
次に、委託している野良についてですが、今回のことが起きた以上、神々の皆様も信用にたる存在か否か、より一層不信感が募ったことでしょう。その為、昨日の協議の結果、この場を借りて直接当人どもから事情聴取をし、今後は神々の皆様と情報を共有していく形で進めさせて頂きたく存じます」

 発言から察するに、この状況のお膳立てをした黒幕は烏水と見た。天照が尋ねたところで頑なに野良のことについて何も言おうとしなかったのには、何か企みがあってのことだったのだろう。それをあんなに余裕な態度で、僧正坊の首を縦に振らせられたのだ。何を考えてそうしたのかは分からないが、きっと彼以外にできる者はいないはずだ。

「神々、並びに天狗の御人に拝謁いたします」

 烏水に連れてこられた妖は2人。部屋の左右に対面して座る神と天狗の間に正座し、深々と頭を下げた。
 2人とも性別は女で、天狗達と同じ黒狩衣を纏っている。

「面を上げて名を答えよ」
「百足討伐に、百鬼村より参りました。用心棒・妖退治その他諸々の妖絡みの依頼を請け負う何でも屋 菫と申します」
「同じく七と申します」

 1人は菫色の長髪、菫色の紅を塗った妖。そしてもう1人は、蒼色の鋭い眼光を放つ瞳と犬歯を持つ白銀短髪の妖であり、二人の第一印象からは性格の粗暴さは感じられない。

「では早速」
「待て。現場にいた面をつけた妖も呼んでほしい」

 恵那和が烏水の進行に待ったをかけた。
 その発言を聞いた菫は、すぐに襲われた神が彼である事に気づいた。

「ああ。貴方様が。この度はこちらの不始末で危険な目に遭わせてしまい、大変申し訳ありませんでした」
「詫びは要らぬ。それより百足を斬れる4人の内の1人が彼女なのだろう?」
「丁度良い。当人から詳しく話を聞きたいものじゃ」

 恵那和の意見に天照も賛同した。
 しかし……

「恐れながら、それは致しかねます」
「何故じゃ?」
「申し訳ございません。こちらにも事情があります故」
「菫。お前も現場にいた者から話をした方が良かろうに」
「いいえ!」

 僧正坊までもが賛同を重ねたが、菫は頑として首を縦に振らない。それどころか、段々と彼女の語気が強まっている気がした。まるで、その面の妖を必死に庇っているかのようだ。

「ご心配なさらずとも、当人から色々話は聞いております。『側から見ていた神の言い分の方が正確だろうから、好きに言ってくれて構わない。異論はない』とのことです」
「それに、現場には私もおりました。今は人型ですが、依代は犬。あの時いた山犬の妖でございます。ご存知の通り、彼女は百足を殺せる数少ない人手でございます。現場での彼女の穴は埋めづらい。ご理解の程、頂きたく存じます」
「まあ、出ぬ者に固執しても時間の無駄じゃ。進めるぞ」

 上手く言い逃れをされた気もしなくはないものの、話はそのまま進む流れになった。
 その時、恵那和は微かに僧正坊の方から、小さく舌打ちのような音を聞いた気がした。しかし、聞こえていないのか、将又聞こえないフリをしたのか、誰も気に留める事なく、会議は滞りなく行われた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

二十五時の来訪者

木野もくば
ライト文芸
とある田舎町で会社員をしているカヤコは、深夜に聞こえる鳥のさえずりで目を覚ましてしまいます。 独特でおもしろい鳴き声が気になりベランダから外を眺めていると、ちょっとしたハプニングからの出会いがあって……。 夏が訪れる少し前の季節のなか、深夜一時からの時間がつむぐ、ほんのひと時の物語です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する 

namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。  転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。  しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。  凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。  詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。  それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。  「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」  前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。  痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。  そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。 これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

処理中です...