神様の巫女 〜妖と暮らす少女、少女を気に入る貴神〜

ぬん

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プロローグ〜開幕〜

第二十一話

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 _____御殿にて

 百足乱入後、御殿内の空気は最悪を極めていた。
 百足の排除が完了したとは言え、すでに2度も侵入を許し、ついには犠牲者まで出している。安全確保の為に生き残った者達は皆、再度神議場に集められた。

 百足の侵入、野良との契約、神を見捨てて保身に走る行為、挙句の果てには神に秘匿に人間の娘とも契約を交わしていたこと。神が天狗への信用を堕とすには、十分過ぎる条件だった。もう何を言おうが、天狗には疑心暗鬼の目しか向けることができない。

 にも関わらず、僧正坊は決して非を認めなかった。それどころか、御殿内にいる妖達を全員呼びつけ、神々と天狗の前で全ての責任をなすりつけ、断罪し始めたのだ。

「貴様らに頼んだ儂が愚かじゃった。なんだ、今年の体たらくわ。舐めておるのか? 今まで一度も侵入させたことがないからと手を抜いたか!!」

 剣幕で目の前の妖達にブチギレる僧正坊。神々の前で彼らを怒鳴りつけることで体裁を保とうとしているようだった。
呼び出された妖達は黙って耐え忍んではいるが、子どもや気弱な女妖怪は今にも泣き出しそうだ。

「なんとか言ったらどうじゃ! 犠牲者が出たと言うのに貴様らでは話にならぬ!! 秋花はどこへ行きおった!? なぜ菫がおらん!!」
「そんなのこっちが聞きたいよ~……」
「何じゃと?!」
「いえ、何も」

 気弱に口答えをしたのは、神楽笛の付喪神 音子ねこ。妖達の中で最も臆病者な一方で、僧正坊に劣らない保身第一志向でもある。

「『あきは』……それが、あの人間の名前なのですか?」
「そうじゃ、天照」

 秋花の存在に気づいて以来、天照大御神の頭の中はもう彼女のことでいっぱいだった。

「なぜ人間と契約をしたのですか」
「気になるか? あの娘のことが」

 僧正坊の目論見どおり、ついに天照大神が秋花に興味を持ってしまった。先程までの怒りが嘘のように、期待と嬉しさに満ち溢れた満面の笑みで、彼は饒舌に話し始めた。

「なら、教えてやろう。あの娘のことを!」
「結構」
「!!」

 横から口を挟んだのは、天照大御神の隣に鎮座する恵那和だ。

「それはどういうことかな? 恵那和殿」
「実は昨日、例の人間と個人的に接触しまして。すでに彼女から直接、色々話を伺ったところでこれから大御神様にご報告をと思っていた次第です」
「ハッ! そんなはずがない。何のために菫が貴様ら神から秋花の存在を隠し通してきたと思うておるのじゃ」
「僧正坊様もすでにお察しのことと存じますが、先日百足に襲われた私を救ってくれたのが、例の人間の娘です。気配は誤魔化していましたが、会ってすぐ、私は彼女が人間だと分かりました。その上で礼がしたいと頼んだら、渋々会わせてくれましたよ。彼女の正体を他の誰にも話さないという条件付きでしたが」
「あの菫が許したと言うのか!」
「そこの妖達に聞けば分かること。何か不都合でもありましたか?」
「秋花とは何を話した!」
「礼と、他愛ない世間話を。妖が見えることと戦闘能力以外はごく普通の娘でした。彼女自身の話を色々聞きましたが、妖達と生活を共にするまでに至った経緯以外に、特段、大御神様にご報告することはないと私が判断致しました。それよりも、今後どうするかの方が先決です」

 恵那和は多少の嘘を交えて上手く話を丸め込んだ。彼はしっかりと覚えていたのだ、秋花からの忠告を。


_____『一利の裏に百害あり』


 秋花のことを知りたい。この場にいる神々全員がそう思っているはずだ。
 しかし、彼女の話を信じるのであれば、ここで僧正坊の話を素直に聞くのは危険な気がした恵那和は、利点で話を逸らさせたのだった。

「……分かった。娘のことは後で恵那和から聞こう」

 天照大御神も恵那和から何かを察し、これ以上の秋花についての追及は控えた。
 それに対し、再び僧正坊の様子が不穏なものとなった。

「フン! たかが数刻話した程度であの娘の何が分かる……」
「僧正坊様?」
「天照への報告が『妖と暮らし始めた経緯』のみ? 笑わせる。人間の分際で、闇市の遊廓で女妖を飼ったあの娘がただ妖と一緒に暮らしているだけな訳があるまい」
「「!!」」

 なんとかチャンスを物にしようと、僧正坊が本格的に傾城を覆しにかかる。
彼が放ったたった一文の情報で、この場にいる神々全員がざわめき始めた。

「僧正坊様はあの娘が闇市に出入りしていると言うのですか!?」
「そうじゃ。忘れもせぬ8年前、そこで儂は初めて秋花に出会った。当時、遊女が殺される連続事件が起きていた店の警護を担っていたのが、まだ幼子であった彼女だった。凶悪な妖を一撃で始末する彼女の手腕をそこで目の当たりにし、百足に通用するやもしれぬと睨んだ儂は、人間と知りながら彼女と契約するに至った」
「されど、人間が隠り世に関与することはこの世のご法度!」
「それは貴様ら神が勝手に決めただけのこと! 我々とは違い、己を守る術すら持たぬ人間を守る価値などない! にもかかわらず、人間どもの信仰心がなければ神らの存在を樹立できぬが故、そのような取り決めを決めたに過ぎぬ!」
「神の身勝手と申すか! そもそも生命の起源は神であれど、生命の繁栄を齎したのは人間じゃ。神であろうと妖であろうと、子孫繁栄を齎すには人間の存在が必要不可欠であり、彼らの存続は我らの存続にも直結するのじゃ。僧正坊様もそれは重々承知のはず!」
「黙れ! 貴様らに儂を責める権利があるのか? 闇市で見た光景を今ここで話しても良いのだぞ!」

 僧正坊の脅し文句に、一部の神達の背筋が伸びる。顔面が明らかに変わり、大御神や僧正坊から視線を逸らして同時に顔を伏せる者が何名か見受けられた。

(まさか、僧正坊の狙いは!)

 ここで漸く、大御神は僧正坊の長年の目論見を察した。しかし、気づいたのがあまりにも遅過ぎた。もう引き返す段階にない。

「ここにいる一部の神が、女妖と床を共にする姿を儂は何度も目撃したことがある。なんなら、鉢合わせて大御神には内密にと接待を受けた者もいたのう」

 そう言いながら、意味深く僧正坊は特定の神々に視線を向け始める。

「それこそ審議を問うてみるが良い。神に救われ、天狗と深い繋がりがある中立な立場に立つあの娘の口からなら、さぞ真実を聞けるに違いない!」
「僧正坊様」

 その時、隣で控えていた烏水が僧正坊に耳打ちし、急ぎ何かを伝える。

「良いタイミングじゃ。秋花が外から戻ってきたらしい。すぐに通せ」
「はっ!」
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