24 / 32
プロローグ〜開幕〜
第二十三話
しおりを挟む着実に追い詰めていく燈火に、ついに烏水達は本性を現し始めた。
「……裏切ったな、秋花」
「おや? それは認めたってことかにゃ?」
「黙れ!」
余裕がなくなった烏水を楽しそうに揶揄う燈火。
「バカなことを! 僧正坊様の恩を仇で返すなんて、今のお前はどうかしている!」
「兄者」
感情的に物申す烏水に対し、秋花は至って冷静だった。
「魔が刺したわけじゃない。もう、潮時です。ここで手を打たないと、天狗達は間違いなく壊れてしまいます」
「人間のお前に天狗の世の何を理解しているというのだ! 裏切り者の燈火を手引し、僧正坊様を憚った罪、いくらお前とて看過できぬ!」
「秋花が手引をしたんじゃない。私から手を組まないか声をかけたんだ。要するに、反撃の狼煙の準備をしていたのは、我々だけじゃなかったんだ」
「燈火ァ、貴様ぁああぁああぁああ!!」
怒号を上げ、まさに天狗面のように険しい表情で僧正坊は燈火と秋花を睨みつけた。
「秋花!! よくも! 長年可愛がってやったというのに! 依頼者に楯突くとは、これは契約違反ではないか!!」
「それは違うよ、僧正坊」
彼に待ったをかけたのは菫だった。
「私達はまだお前の依頼は実行中だよ。8年前、私達に百足討伐の依頼をする時、お前は『百足を根絶やしにしてほしい』と言った。百足の正体は、お前の体液を摂取した人間の少女達。百足の根絶やしには、僧正坊の体液を摂取させないようにすることが必要不可欠。その手伝いを四郎達は手伝ってくれると言った。お前の願いの為に、お前を葬る必要があるだけのこと。貴様の依頼を反故にしたわけじゃない。依頼の仕上げに来てやったんだ」
「何じゃと!!」
「僧正坊様」
そこでついに、天照大御神が動き出した。
「妾の預かり知らん事が多えようで。ようも暴れてくれたようじゃのう?」
「!!」
最早説明するまでも、一見するだけで誰もが分かる。
大御神の顔は怒りが満ち溢れ、感情的になるあまり、口調もつい出雲弁に変わっている。
その怒りが自分に向けられたものではないと承知していても、不要に言葉を溢しただけで無差別に殺されてしまいそうなほどの殺気だ。
「知らぬ。儂は知らぬぞ! 百足が元は人間の娘? そんなことあるはずが」
「どうして私が百足を斬ることができたか教えて差しあげましょうか」
「申してみよ、娘」
すると秋花は、腰に差していた自分の刀を刀身を剥き出しにして僧正坊の前に放り投げなた。
「その刀、実は妖刀でも何でもないただの刀です」
「なに!?」
「元は人間なのです。貴方の妖力によって、神通力や妖力に対する防御力が増しただけ。ご存知の通り、神や妖の肉体はただの刀では倒せません。しかし、元の肉体が人である百足ならば、その道理からは外れます。要するに、人が手がけたただの武器でなければ百足は倒せない。逆に言えばただの武器を持てば誰でも殺せます」
「なら何故たった3名しか殺せぬと偽りを」
「これを知った時点で貴方に裏があることは知っていました。依頼を切られないようにするための仕込みです。希少性を付ければ我々に継続的に依頼すると……菫が」
「やっだ! 私が言ってた? 天才?」
「天野様から聞いたって」
「違うんかい」
天野は、秋花達が棲まう山の神であり、百足退治にと僧正坊に彼らを斡旋した張本人である。
「いや~。私も自分の立場を揺るがしかねない、危険な賭けに身を投じているものなので。何せ、人間をこちらの問題に巻き込む上、貴方を追い詰めるには人間と私の関係性の開示が必然となります。生半可な詰め方で逃すなどあってはならない。私にも神として守るものがありますので。秋花達を切り捨て、見て見ぬふりをすることも考えましたが、それよりも彼らを山車に使う代わりに貴方の首を晒す方が、咎めよりもお釣りがくる。失敗をしないだけでいいのであれば、徹底的に追い詰めれば良いこと。だから知恵を貸したまで」
子どもの容姿に、幼さ溢れるあどけない笑みとは裏腹に、発言の内容には容赦がない。
「名も知れぬ一介の神が出しゃばりおって!」
「その一介の神にまんまと誘われ、甘い汁を飲み続けようと目論んだのは紛れもなく僧正坊様ではありませんか」
「刃が神使でなければ、主のような下等神仏に耳を貸しなどせぬわ!」
そう僧正坊が罵声しながら天野を指差した瞬間、彼の顔の真横に刀が壁に突き刺さった。刀の刃は僧正坊の頬を掠め、一本戦の細い傷から一筋の血が滴った。
「は?」
こんなに殺意が満ちた一投であったのにも関わらず、あまりに一瞬の出来事で、誰も反応することができなかった。
彼に容赦なく刀を投げたのは、天野の後ろに控えていた男。彼こそが天上界最強の神使いの名を恣に、名も知られぬ天野への絶対忠誠を誓う鉄壁の守り人、刃。
「往生際の悪い糞爺だなぁ」
「こらこら刃。口を慎みなさい」
「天野はすっこんでろ。主の威厳は俺の威厳に関わんだよ。ウチの主人を罵倒する暇があったら、尻尾巻いて少しでも逃げりゃどうだ? 俺は、逃げねぇ動物を一発で仕留めるより、逃げ回る対象物をじわじわ追い詰める方が好きなんだよ」
元々キレ症な刃の堪忍袋は、主人を罵倒されてとうの昔に限界を迎えていた。今にも僧正坊に斬りかからんとする彼を諌めようとするものは、誰一人としていない。
「小童どもが! 儂を誰だと思うておる。天狗の頂点に立つ僧正坊じゃ! 儂がその気になれば貴様らを傀儡にすることなど造作もないこと。儂に逆らったことを、とくと後悔するが良い!」
「ご自慢の術ならここら先は使えないよ~?」
「そんな脅しが」
「脅しじゃないよ。貴方が私が術を使えないと思い込んでいたように、私もそう思い込んでいた。しかし、やはり私は異能を持って生まれた。……ようやく分かったんだ、私の異能が。使い道のない、役に立たない、持っていても意味がない力。でも、これは私が生まれてきた目的を示す何よりの標だ。さあ~? どんな異能かな?」
「まさか……そんな、馬鹿な!」
「私の異能は、『術の無効化』今日この瞬間のためだけに生まれてきた、貴方を倒すための力だ」
「それは良い。彼の術を御せる方法があるのなら、こちらも本調子を出せると言うもの」
戦の火蓋は切れられた。
僧正坊の服従の呪いを制御できることで、神々にはもう天狗に下手に出る必要がなくなった。大手を振るって、名実ともに天狗達に一矢報いることができる。
「手を貸そう、烏合よ。神々も積年の恨みを晴らすべく、主らの反逆に肖ろうではないか」
「出合え!! ここにいる皆、殺してしまえ!!!!」
長年溜めた鬱憤が爆発するように、神々は容赦なく襲い始める。一方で天狗達も僧正坊の命令の下に、漆黒の翼を広げ神や秋花達に刃を向ける。今まで過ごした時間など存在しないかのように、命令というだけで躊躇いなく斬りかかる。
しかし、それは秋花達とて同じこと。
乱闘が始まる中、それを掻い潜って秋花がまっすぐに狙いを定めたのは……
「兄者ーーーーー!!!!!!」
キンッ!!
「秋花! お前!!」
妖刀で容赦なく烏水に斬りかかる秋花。彼女の師を務めただけあって、不意をつかれても烏水は反射で刀を構え、僧正坊の盾となった。
『私が僧正坊の術の無効化を狙う。その間、秋花には烏水の足止めを頼みたい。異能の力を無効化できれば、烏水の目も覚めるはずだ』
『もし、失敗したら?』
『君が来る最後の年をわざわざ選んだんだ。二度目があるとは元々考えていないさ。それに、秋花は生きることに興味ないでしょ?』
『失礼な』
『適当に生きている君だから、気兼ねなくこんなことを頼めるんだ。最高の兄妹喧嘩を頼むよ』
『……生死を問わないのであれば、依頼として引き受けます』
それが、あの鍾乳洞で四郎と交わした契約の全て。
「貴方の相手は私です。本気でかかってきて下さい」
「いくらお前だろうと、僧正坊様に渾名すものは叩きのめす。それが側近である私の役目だ!」
0
あなたにおすすめの小説
二十五時の来訪者
木野もくば
ライト文芸
とある田舎町で会社員をしているカヤコは、深夜に聞こえる鳥のさえずりで目を覚ましてしまいます。
独特でおもしろい鳴き声が気になりベランダから外を眺めていると、ちょっとしたハプニングからの出会いがあって……。
夏が訪れる少し前の季節のなか、深夜一時からの時間がつむぐ、ほんのひと時の物語です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する
namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。
転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。
しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。
凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。
詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。
それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。
「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」
前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。
痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。
そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。
これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる