クソガキ、暴れます。

サイリウム

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原作開始前:迷宮編

19:メスガキ反省

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「びぇぇぇえええええ!!!!!」

「お、落ち着こう? 私何もしないからね?」

「にゅぇぇえええええ!!!!!」

「ちょっとだけ、ちょっとだけお話聞かないといけないだけだから、ね?」

「ぎゅぇぇえええええ!!!!!」

「ね? 泣くのやめようね? ほらお菓子あげるから。あま~いパン。ほしいでしょ?」

「ほしい。」

「うわ急、……何この子。」


ふぅ~、すっとしたぜぇ! やっぱ牢にぶち込まれた時はガチ泣きに限るな! ……いやマジでぶち込まれるとは思わなかった。あ、ふざけているように見えてちゃんと反省してますよ? ずっと正座してるし、思ってた以上の方にご迷惑かけちゃって……。


(いやほんと申し訳ございません。)


え、というかほんとにパンくれるの? 朝ごはん食べてなかったから腹ペコなんですよ。では早速いただきます! もぐもぐ……、思ったより美味しいですねコレ。感謝感謝。砂糖とかかなりの貴重品だろうに……。あ、やば。申し訳なさでまた泣きそうになって来た。ふざけよ。


「これお代っす。」

「あ、うん。ありがとう……、ってどこから出したの!? さっきボディチェックしたのに! 全部没収したでしょ!?」

「ひみちゅ。」


ダンジョンから町に戻ってきた瞬間。

待っていたのはサンサンと輝くきれいなお日様に、数十人もの衛兵さんたち。まだ誰も入れていないハズのダンジョンから人が出てきて、なおかつそれが5歳児だったら……。まぁ確保するのが大人ってわけで。

ただ私が武装してたり、魔物素材とか大量に持っていたせいで危険人物と判断。即確保からの牢屋入りとは、このリハクの目をもってしても……!


(んで思ってたよりも大事になっちゃって……。体に精神が引っ張られたのか、申し訳なさで泣きたくなってそのままガチ泣き。)


中身は成人してますけどね? 見た目は5歳児のほっぺぷにぷにれでぃですから、流石にこのまま牢に放り込むのは可哀想と判断してくれたのだろう。女の衛兵さんを一人、牢の前につけてくれました。ちなみに即座に取り上げられた【鋼の槍】とか魔物素材は彼女の横に置いてある感じだね。


(にしても……、どうしようか。)


やろうと思えば、速攻で脱獄とかはできる。今いるのは鉄格子の牢屋、私の腕力じゃこの鉄格子は破れないけど……、【オリンディクス】を使えば簡単に破れる。というか鉄格子じゃなくて牢屋の壁。石壁に私の相棒をぶつければ脱獄することなどたやすいだろう。


(けどまぁ、それをやるともっとややこしいことになるんだよね。さらにご迷惑かけることになっちゃうし。)


ゲーム内で主人公とかが捕まることがなかったので把握できてないのだが、前世の記憶を頼りにすれば脱獄は重罪だ。それまでの罪により大きなペナルティが追加される。この都市から離れるのならば別にそれでもいいのかもしれないけど……、最悪迷宮には10年弱ほどお世話になるつもりだった。レベリングとか金稼ぎで結構時間かかるし。

それを考えると、勝手に抜け出すってのは得策ではない。


(だからまぁここでゆっくりさせてもらう、ってのが最適……? なのか? ティアラちゃんわからぬ。)


迷惑料に“袖の下”とかした方がいいのだろうか、なんて考えながら貰ったパンを齧る。

こうなった以上、今後個人でダンジョンに入り続けることは難しいだろう。今はクソガキムーブで何とかなっている……? まぁ多分何とかなっているが。これを続ければ普通に嫌われて、最悪衛兵たちから狙われるようになってしまう。かといって真面目にやろうとすれば周りから止められて、私の目的であるレベリングをすることができない。

それに、可能であればダンジョンで資金稼ぎもしておきたいのだ。素材の売買は絶対に行いたい。


(もっと言えば、傭兵を長期間雇えるだけのお金が欲しいんだよね。)


今後この世界で引き起こされる大戦争。それに私が介入していくのは確かなんだけど……、帝国と王国。二つの国の中にも結構な陣営の数があって、主人公がどこに属するのかで私がすべき動きが変わってくる。本来のルートであれば王国側なんだけど……。ゲーム内じゃ帝国に属するってルートもあったからね。

どう転がるか解らない未来に対応するためには、私一人の力では足りない。そもそもこの世界、『永遠のアルカディア』は戦略ゲーム、軍を動かすゲームだ。ある程度の味方。私の意思で動かせる手下がいる。


(一番いいのは信頼できる仲間を見つけること。手に入れるには原作で登場したキャラをスカウトしていけばいいんだけど……。)


前世の知識がある以上、彼らが何を求めていて、何をすれば仲間になってくれるかは把握できている。それにやろうと思えば今から原作開始前の10年間に起きる悲劇ってのも回避することができるだろう。でもそれをやってしまう、引き抜きすぎてしまうと……。


(主人公陣営の層が薄くなって、私の知らないところで死んでしまう可能性が出てくる。)


そのため引き抜くとしても最小限で。私個人で動かす戦力は、原作に関係しない兵力であることが望ましい。私がずっと主人公たちのそばについていればいい話ではあるかもしれないが、そうなるとあいつらがハッピーエンドに進むための暗躍ができなくなるから……。ま、どっちみち傭兵を雇う以外の方法はないのだ。


(傭兵って言っても人だ、長期間雇い続ければ情もわく。それに支払い能力と、勝ち戦に乗る能力、単純な力を見せつければ、傭兵団丸ごと吸収できるかもしれない。)


ま、そんなわけでダンジョンでレベリングしながら、金稼ぎもしたいんだよね~。


「というわけで衛兵のお姉ちゃん、何とかならないですかね?」

「というわけってどういうわけ!? というか貴女まだ何か隠してないでしょうね!」

「ポケットたたけばコインがひとつ。もっかいたたけばどんどん増える~。これでなんとかなりません? 迷惑料とか込みで……。」

「だからどこに隠してるのよ貴女!? というか賄賂! そういうの気にしてるんなら後でちゃんと謝りに行きましょうね!?」


うぅ、お姉ちゃんのやさしさが心にしみる……。でもすごく反応良くて遊んじゃいそうになっちゃう。……私なんか性格ヤバくなってね? まぁいいか(よくない)。え? どうやってお金出してるのかって? もちろん種も仕掛けもあるよ? でも教えたら(異端審問で)つかまっちゃうから教えな~い。……あ、もう捕まってた。

そんなやり取りをお姉さんとしていると、こちらに向かって来る足音が二つ。金属が擦れる音から片方は衛兵の誰か、もう一つは皮系の靴で、軽め。女性かな?


(鉄格子の間から頭だけ出して、っと。)


覗き込んでみてみれば、こちらにやってきたのは知らない衛兵さんと、ヤンキーな受付嬢。あ~。そっか。私が色々無視しちゃったからそっちにも迷惑かけちゃってるのか……。なんだろ、中身大人なくせに色々考えなさ過ぎたかも。


「マジでつかまってるじゃねぇかクソガキ……。」

「あ、受付嬢のお姉ちゃん素が出てる。」

「誰のせいだと?」


私? ごめんちゃい♡ あ、嘘です本気で反省してます……。

たぶん冒険者組合の人間に話を聞くために、この人は連れてこられたのだろう。いや朝早くからマジですみません……。後でちょっと魔物素材売った分から引き抜いてお渡ししますんで……。後はなんだろ、朝から飲んだくれてる奴の尻叩いてダンジョンに叩き込む仕事とか? とにかくなんでもお手伝いするので許して♡ 


「お前、よく生きてたな。というか二階層の魔物素材もあるじゃねぇか。」

「言ったでしょ? ティアラちゃん“つよつよ”だって!」

「……マジで全部自分でやったのか?」


ちょっと怖めなお顔、威圧するような眼でこちらを見てくる彼女。嘘を言ったら許さない、って感じだ。まぁそれもそうだろう。この人はそれが仕事なんだし。さすがにここでふざけるわけにはいかなそうだ。この人の目をしっかりと見ながら、“事実”を述べる。


「やったよ、そこの槍で。後はこのナイフでお腹割いて虫玉取り出したり、角取り出したり……。結構な人に迷惑かけちゃったからさ、これでも反省してる。でも私からすれば必要だったから……。」

「必要でも、そもそもダンジョンに入るなガキが。……っチ。マジみてぇだな。」





 ◇◆◇◆◇





ギルドの受付嬢、色々と面倒な仕事であるのは理解していたが……。今日ほど面倒な日はないだろう。


(出社すぐにこれだ、昨日に続き厄日か?)


受付嬢にとって朝は地獄だ。眠い眼こすって舐められないようにメイクして、仕事場へ。冒険者のクソどもが駆け込んでくる前に昨日処理した依頼をボードに張り出して、それを受けるために声を上げるクズどもを捌かなきゃなんねぇ。

冒険者と名前はいいが、実質的にここは傭兵ギルドだ。護衛とかの金払いのいい依頼も来るし、そういうのは基本先着順。金がねぇ奴ほど朝から張り付いて仕事を取りに来る。まぁ色目使ってくるクソ野郎も朝っぱらから顔見せに来るので、その顔面に拳を叩き込むってのも私の仕事だな。

まぁとにかく、体だけデカくなったようなガキどもに仕事を割り振ってギルドからダンジョンやら仕事場に尻蹴って叩き飛ばすのが私の仕事だ。

今日の呼び出しは、ある意味その日常から抜け出せた、って考えれば結果的に良かったのかも知れないが……。


(どうするか。)


ギルドの受付嬢は、ただの受付じゃねぇ。ある程度の権限を認め、任せられている。まぁただの受付役もいないわけではないが、ある程度出世すればこの町のルールだったり、ギルドが何を求めているのかを理解し、動く必要が出てくるってもんだ。文字通り“ギルドの顔”として動かなきゃなんねぇ。

それに当てはめればこのガキは……、あたりだ。それもとびっきりの。

この年齢でそこまでできるのなら、成長すればどれだけの利益を叩き出すか。“ギルド”の人間としては、得難い人材って奴だろう。


(衛兵とギルドは繋がってるし、誰がダンジョンに入ったのかぐらいはこっちも把握してる。)


夜以外はダンジョンを開放し、その間出入口は衛兵で固めているため部外者が出入りすることはできない。だが夜はダンジョンを開けていないため、警備の数を減らしている。それを考えれば、突破し突入することも可能ではある。だが、それもかなり隠密に特化した奴が可能ってだけで、子供ができることでは決してない。

しかし目の前の“ティアラ”を名乗るガキは、それを突破しダンジョンに入り込みやがった。そして五体満足で帰って来た。しかも大量の魔物素材を片手に。ダンジョンてのは成人した男でも一階層で死んで帰ってこないってことがザラにある。そんな危険な場所を無傷で。

コイツ個人ではなく、協力者がいる可能性もないわけではないが……。“ギルド”としては良質な素材提供者が増えるだけなので、後ろに何がいようとも関係はない。厄介ごとを避けるためにも、即座に許可証を発行して放置するのが適切な判断と言える。

ここまでが、“ギルド”としての考えだ。


(……が、子供を食い物にできるほど私は堕ちてねぇ。)


このガキのこっちの顔を伺うような動き。場面場面で舐めた口を聞いてはいるが、確実にこっちの顔を伺ってやがる。んで決めるところは外さねぇ。

言ってしまえば年不相応な大人びた行動。いや違和感を持つほどに“賢しい”動きをしてやがる。……こいつの背景はしらねぇが、普通に親の愛情を受けた子はこうならねぇだろう。普通幼子ってのはいくら賢くても、こうも人の顔は見ねぇ。口調は子供っぽい所あるが……、『普通の奴が牢にぶち込まれてこんな態度取れる』か?

コイツが泣き止むところ、そこからの女衛兵との会話は隠れて聞いていた。“普通”の子供ならあそこまで言葉を紡ぐことはできないだろうし、所々に現れる温度の落差っても気になる。

まぁまとめると、色々とこいつはおかしい。

んで、こいつがこうなってしまった理由を考えてみると……。


(大人顔負けの力があるってなれば、閉じた村とかなら育児放棄されてもおかしくはない、か。)


それが何であれ、普通とは違う子ってのは排斥されるもんだ。それが閉じた村、村だけですべてが完結してる場所なら家族だけじゃなく、そこで住む全員で排斥が行われてもおかしくはねぇ。……こいつは、そうなってもおかしくないほどの“能力”を持っている。


(つまりこいつは、“一人で”生きる必要があった子供だ。“必要があった”って抜かしてるからな。)


昨日のギルドでの動きも、考えてみれば『こっちをどれだけ信用できるのか』って動きなのかもしれねぇ。いわゆる『イヤイヤ期』ってやつだ。反抗しても親が自分を守ってくれる存在なのかを確かめる、ってやつだったか? 育児したことがねぇせぇでそのあたり詳しくは知らないが、そう考えれば辻褄はあう。

一人で生き残るためには金が要る、身を守るためには力が要る。だからダンジョンに潜る。理解できる話だ。

だが、まだ子供なこいつは、どこかで親を求めてるんだろう。


(……となると、ただ許可するだけじゃダメだな。)


“ギルド”としてこいつを迎え入れる方が利益を得られる以上、私がそれに反することは出来ねぇ。受付嬢は替えの利く仕事、私が役目を果たしていないと知られれば、どうなるか考えたくもない。この町は欲望にまみれた場所だ。ダンジョンという巨大な金を生む場所がある限り、欲はどんどんと溢れていく。

ちっとギルドから目をやれば歓楽街やら何やらがずらりと並ぶ町だ。上の意向に従わなかった理由でそっちに飛ばされる可能性も0じゃねぇ。


(保護者がいるな。ダンジョンにもついていける強めの奴で、こいつの性根を叩き直してくれる奴。)


頭に入れている冒険者の名簿をざっと確認しなおし、暇しててなおかつ人間的に問題のない奴を探す。

強く成ればなるほどどっかが歪み始めるのが冒険者だが……、ちょうどいい奴がいた。こいつと同性だし、年寄りだが十二分に戦えて、優秀。酒癖は悪いが、子供の前で飲むようなやつじゃねぇ。ちと今はふさぎ込んでるが……。


(時間経過で立ち直るだろと思ってた婆だが、ちょうどいい。このクソガキ任せれば背筋も伸びんだろ。両方にいい影響を与えてくれるはずだ。)


「おいガキ。……いやティアラ。さっさと出ろ。」

「え! いいの!?」

「あぁ。どうせ厳重注意で終わる程度の罪状だ、年も年だしな。それに成果出して帰ってきた以上、認めてやるのがギルドってもん。今からお前の許可証作りに行くぞ。」

「まじ!? やった! わーい!」


衛兵に牢屋から出してもらい、年相応に喜び始めるガキ。そしてかる~く槍や素材を担ぎやがった。それお前ぐらいの年で持てる重さか? というかその槍よく見たら【鋼の槍】だし……。子供の持てる武器じゃねぇぞ? 重さ的にも値段的にも。お貴族様ご用達のランクだぜ?

……まぁいい。成果上げて無傷で帰ってきて、こいつが笑ってるなら“ギルド”としても“私”としても問題はねぇ。これに懲りて“ルール”さえ守れるようになれば花丸くれてやる。


「あぁそうだ、忘れてた。」


両手を握り締め、こいつの頭を挟み込み、グリグリと押し込んでいく。

悪いことしたクソガキには、仕置きをしておかねぇとなぁ?


「もう二度と面倒かけるなよガキィ!」

「いだ! いだだだ! われる! 頭っ!」

「あと外で仕事してるときに、口調で揶揄ったら殺す。わかったか? わかったよなぁ! こっちは仕事で応対してやってるんだからよぉ! それ相応の態度を示せよなぁ!」

「ひゃ、ひゃい! わかった! わかったれふ!」


大声を上げて痛みを訴える彼女。……腕つかんでむりやり引き離すとかしてくるかと思ったが、ちゃんと受け入れてやがる。どこかちょっと楽しそうにしている節もあるし……。いや、いい大人がそのあたりを掘り返すべきじゃねぇな。


「ならいい。……許可証作ったらお前の面倒見てくれそうなやつに連れてくから。そいつに面倒見てもらえ。」

「え、だれ? 気になる。」

「オリアナの婆さん。」

「……マ?」

「? 知ってんのか?」


確かにあの婆さんは有名な奴だが……、お前が知ってるようなやつか? 昔は王国の百人隊の長やってたみたいだが、偉いとは言っても百人隊長は腐るほどいるし、今は親族全滅のショックで飲んだくれてるだけの婆だぞ? 有名なのも酒に強くて酒場の奴らを飲み比べでつぶした後に、店主さえ酔いつぶしたっていう悪い方向でだ。

まぁ酒絡まなければ、人格面は問題ねぇし。力量自体もしっかりしてる奴だからちょうどいいかと思ったんだが……。


「やった! めちゃ助かるぅ! 行こうぜギャルのチャン姉! はよ行こ!」

「うるせぇぞクソガキ。あと名前で呼べバカ。……セルザだ。」

「あいあい! セルちゃんね!」


……また調子乗り始めやがった。もっかいぶち込むか? とりあえずもっかいグリグリしとこ。


「あだだだだッ!!!!!」



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