クソガキ、暴れます。

サイリウム

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原作開始前:大戦編

69:おっぱい!

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さて、黒騎士と戦ってたらなんか急にロリコン伯爵がやって来たわけなんだけど……。


(そもそもお前“私に近づかない”って約束してなかったっけ?)


今年の春過ぎ位に私がいた迷宮都市になんか攻め込んできたこの変態野郎は、あっけなく私に負けて接触禁止命令を喰らっていたはずだ。まぁそれを守ってたら最悪私、致命傷を負ってたから突っ込めないんだけどさ……。礼言ったら調子乗ってまた変なことしそうだし、言わないでおこう。

正直肩を並べて一緒に戦うなど死んでもごめんどころか、視界に入れることすら拒絶反応が出る相手ではある。しかし残念なことに、戦力としては使える。なんか黒騎士の攻撃一瞬だけど受け止めてたし、コイツは実力を示してしまっているのだ。さっきまでいたはずの王国の“上澄み”の人はすぐに死んじゃったし、この場にいる強者は伯爵含めた4人だけ。

だからまぁ、色々我慢して一緒に戦うしかない。


(それにしても……。)


あの黒騎士の力、明らかにだけど、人の範疇を越え始めている。いやもっと正確に言えば、神の領域に踏み込んでいると言っていい。あの赤黒い力に、『騎兵』では考えられないスペック、そしてその力に飲まれ狂乱状態に入っているという点。

私の知る、この世界における“理外”の化け物。神の力を無理矢理人間にぶち込んだ結果、人の体を保てなくなったあのバケモノたちにひどく似ている。今はまだ獣みたいな声を上げながら攻撃して来る人型のバケモノだが、いずれ人の肉体を破って巨大な生命体に進化してもおかしくはない。

原作開始まであと7年半ぐらいあるっていうのに、もう出てくるのかよ……。とにかく進化される前にさっさと倒すに限る。これ以上強く成られたらマジで手の付けようがない。


「しかし我が天使よ、良いのかな? 黒騎士はすでに人の手を離れているように思える。“秘匿”に重きを置く其方たちにとっては相対することも避けるべきだったのでは?」

「……お前人の心でも読めんの?」

「いや、そんな大それた異能など持っていないとも。ただ我が天使の考えそうなことを予測したまで、だ。」

「「「気持ち悪。」」」


こいつの性癖や背後関係を知らなければ“爽やかな笑み”と判断しそうな微笑みを浮かべながら、そう言う変態。オリアナさんもナディさんも抱いた思いは同じだったようで、全員口から同じ言葉が漏れ出てしまう。

ナチュラルに思考読むの気持ち悪すぎて、口からリバースしそうになるから辞めてもらえません?


(……まぁこいつの言った通り、もし目の前の黒騎士が『帝国の女神』の力を分け与えられた存在だった場合。ちょっとどころか、かなり不味い。)


王国の女神も帝国の女神も、基本人への興味はない。信仰という形で勝手に力を捧げてくれる“家畜”に思い入れなどないのだ。自分で世話をしなければ死んでしまう、というまでに貧弱であれば流石に手入れしていたのかもしれないが、この世界における人類は極論、“神の力無しでも生きていける”。

まぁつまり、家畜が自分で自分の世話をするので、放置可能。女神たちにとってはたまに自分のお気に入りを見つけて、たまに可愛がればそれでいいのだ。お気に入りが死んだとしても、代わりはいくらでもいるのだし。


(んで、問題なのはおそらくこいつ。黒騎士が……、帝国の女神のお気に入りか、“おもちゃ”のどっちかだ、ってことだ。)


女神にとっては爪の垢程度であろうが、自分の力を分け与えているのは確かだろう。そして力を分け与えている場合……、神とのパスが出来上がる。つまりアユティナ様同様、自身の信者を起点に世界を眺めることが出来る。

すなわちこれは、私経由でアユティナ様の存在が露見するということに他ならない。


(普通に、不味いよね。)


アユティナ様の傍に長くいさせてもらったおかげか、強く意識すればなんとなく“神の気配”ってのは理解できる。今のところ眼前の黒騎士から“神の力”らしきものは感じても、“神そのもの”は感じない。けれど自分のおもちゃが暴走していれば、少し気になり視界を共有し始めてもおかしくはない。

今の段階でバレてしまえば、正直人の手で出来ることはない。私もまだ発展途上だし、ここに居る人たちもまだ“人の限界”を越えられていない。そして私たちの陣営、“アユティナ様を信じる者”たちの敗北条件は、この世から信者が一人もいなくなること。

信者がいなくなればこの世界にアユティナ様を繋ぎとめる存在がいなくなり、これまでの3000年間と同じように、あの方がこの世界に干渉できない日々が始まってしまう。幸いなことにまだ原作主人公が残っているのはまだマシだが……、あいつのルート選択次第で勝手に世界が壊れるのを考えると、どっちみち死ねない。

つまり、私が今できることは。


「露見する前に、速攻で黒騎士を倒す。」


これに限る。


「……なんか策でもあんのか、ティアラ。」

「もちろんお婆ちゃん。ティアラちゃん様だぜ? 力の出所が解ったのならすぐよ。」


神の力を持っている存在は、それ相応の“耐性”を持っている。神本人なら物理魔法両方とも無効化、とか。黒騎士みたいなバケモノなら3~5割減、みたいな感じで。まぁそうなるとゲームにならないから突破方法が存在していて、神の力を宿した武器を使えば無視できたり、人の限界を超えた“最上級職”に到達すればどんな武器でも耐性を突破出来たりする。

主人公の上級職『勇者』のスキルだっけ? フィールド上にいる耐性持ちの効果を数ターン無効化するっていうのもあるんだけど……。


「今まともに耐性を貫けそうなのは、神器の【オリンディクス】だけ。……ということでオリアナさん。預けるね。」


そう言いながら、私の愛槍を渡す。ちょっと重いけど攻撃力は抜群だし、神器だから相手の耐性を越えてそのまま攻撃できる。もともと強い黒騎士がさらに強化されちゃったんだ、一番強い武器は、一番強い人の手元にあるべきだ。それに、オリアナさんなら信頼できるし、任せられる。


「……お前はどうする?」

「そりゃ神の力には、“神の力”でしょ。」


事情を話しているオリアナさんに、勝手に真相にたどり着いてそうな伯爵、そして何も知らないナディさんがいるが……。今はそういうのにこだわってる時間じゃない。相手に時間を渡してさらに進化されるのなんて嫌だし、相手の神に存在が露見するのなんてもっと嫌だ。

相手が神の力によって守られているのなら、こちらも“神の力”を以って打ち破るのみ。


(アユティナ様、お借りしますね。)


今も感じられる神との“パス”を強く意識し、そこから流れ出る力を全身へと回していく。私は、アユティナ様から直々に指名していただいた“使徒”だ。神の名において、邪神である帝国の女神の力に溺れた愚物を、滅殺するのに深い理由など必要ない。

空間を通し、神が手ずからお創りになった【鋼の槍】を出現させ、強く握り込む。そして槍を肉体の一部と認識し、全身を駆け抜ける神の力を流し込んでいく。

自然と私の纏う雰囲気は人を離れ、あちら側に近く成る。神のお力を一身に受けているせいか、肉体にも変化が訪れる。内臓が少しずつ改善されていき、肌の色も私が持つ病的な白さから、アユティナ様の健康的な日焼けした肌に。そして何よりも全身を巡り包み込んでくれるような、多幸感。

……今から戦闘じゃなきゃ、呑まれちゃいそうなほどだ。

 
「……よし、準備完了。攻撃は私とオリアナさんが務めます。伯爵とナディさんはサポートお願いしてもいいですか?」

「了解だ我が天使よ。大船に乗った気持ちでいたまえ。」

「お前、その肌に雰囲気……。あぁもういい! 終わったら全て話してもらうぞ!」


秒でなんか理解して突貫していった伯爵に、私の変貌に驚きながらも伯爵を追ってくれたナディさん。変態は変態だけどまぁ仕事はするだろうし、ナディさんも歴戦の戦士。嫌いな相手とでもまぁ何とかやってくれるだろう。
二人じゃちょっと足りないかもだけど、その部分は私の“射出”で埋める。

……さて、オリアナさん。いこっか。お婆ちゃんがメインアタッカーで、私がサブ。いい作戦でしょう?


「あぁ、そうだな。……呑まれるなよ。」

「もちろんッ!」


黒騎士目掛けて突貫するタイタンに飛び乗る。

先ほどと同様に赤黒い斬撃を絶えず放出している黒騎士だが、私の“空間”によって回収されることに気が付き始めたのだろう。理性を失っているというのに、戦い方が最適化されて行っている。私が回収しにくいような位置に飛ばしたり、込める魔力の量を増やしてサイズを変えたりと、さまざまだ。脳のリソースを的確に削ってきて嫌になるね。

と言ってもこっちだって負けていない。


「ッ! そこ!」

「『十字剛魔斬波』!」


敵の攻撃を的確に回避しながら少量といえど確実にダメージを与え続け、敵が空にもいることを意識させ続けるナディさんに、サイズが小さめの黒い斬撃であれば勝手に打ち消して私のサポートをしながら、的確に相手の意識を自分に向けさせている無駄に有能な伯爵。


(格段にやりやすくなって草なんだよねぇッ!)


黒騎士から回収した斬撃を相手に放ちながら、その合間を縫うように私もタイタンと主にその腹を抉っていく。いくら神の力を身に纏い敵の耐性を貫通していると言えども、そもそものATKが低い私じゃ限度がある。あまりダメージは与えられないが……、それでいい。

私の役割はサブで、そして全員に放たれる攻撃を回収して防ぐっていうタンクだ。

メインは……。


「全く神ってのは面倒ごとしか寄越さねぇよなぁ! オラァッ!!!」

「GAAA!!!!!」


【オリンディクス】を振り回しながら、ほぼ互角に黒騎士と戦うオリアナさん。確かに、私たちのサポートのおかげで互角を保てているというところはある。けれどそれ以上に、戦い方が上手い。私の愛槍の最大の強みである重さを上手く使いながら、確実に黒騎士にダメージを与えていく。

重さと高い攻撃力、そして神器であることか耐性を抜いての攻撃。流石に黒騎士もこれでは押し切られると判断したのだろう。先ほど私たちを吹き飛ばしたのと同じように、体内の魔力を一時押し固め、一気に爆発させようとするが……。

一度見た技を、何度も喰らうほど私たちは愚かではない。


「やれッ!」


オリアナさんの指示、攻撃を集中させろという号令に各々が動き出す。溜めの時間が必要ということは、その間は無防備になるということ。攻撃を集め、相手の集中力を削ぎながら技を失敗させ。同時にダメージも稼ぐ。そしてもし失敗したとしても、発動のタイミングは把握済み。


「もう全部もってけー! “射出”!!!」

「『蒼月』!」

「『剛魔大斬撃』!」


空間内に残った残弾を全て吐き出すように打ち込み、蒼い月がその肉体を穿ち、気味の悪い斬撃が肉体を切り刻む。そしてオリアナさんの、“ただのラッシュ”。小細工などせずにただ相手が動かなくなるまで殴った方が早いという様に、連撃を叩き込んでいく。


「GYAUッ! こ、ko、の恨ミッ!」

「はッ! ようやく痛みで正気に戻り始めたってか!」

「殺ス、コロしてやルゥゥゥ!!!!!」


黒騎士の全身から溢れようとする魔力。即座に後退を選択する私たちだったが……、オリアナさんは、引かない。ただ変わらず、槍を打ち込み続けるのみ。彼女の意思に反応し、【オリンディクス】の機構が、徐々に起動され始める。


「あク魔、悪魔さエ。イなケレバッ! この手デ、コノ手で!」


そう叫びながら、黒騎士を中心とした崩壊が、始まる。一瞬にして彼の体を中心とした魔力が半球状に放出され、その周囲を焼き尽くしていく。まるで自分ごと神の力によって消し飛ばし、人の身を捨てながら真のバケモノになるかの様な行為。

だが赤黒く染まったその半球の中で、真っ赤に染まった槍が、動く。


「はぁぁぁアアアアア!!!!!」


神によって与えられた加護でその身を消滅から守り、敵の眼前で神器を地面へと叩きつけ、その魔力すべてを吹き飛ばす。彼女の手に握られたのは、穂先だけでなくその槍全体が赤く染まった神の槍。敵対する神のしもべをこの世から消し去れと、強く輝くソレ。


「お前が何にキレてるのかは大体わかる。だがよぉ、それで自分の孫の首差し出せるほど私はクソ野郎じゃないんでね!!! ただの“敵”として、ここで倒すッ!」

「GAAA!!!!!」


怒りの叫びを上げながら、その身に残る神の力を全て彼の槍へ。赤黒く変色したその槍と。真っ赤に光り輝く神器が、激突する。神の力と神の力の激突、空気が揺れ、地面が揺れ、世界が叫ぶ。いかに武器の差はあれど、その力量は相手の方が上。オリアナさんといえど一人では押し負けてしまうだろう。

だから、私たちがいる。


「我が天使が見ている故な!」

「助太刀します姉上ッ!」


伯爵とナディさんの攻撃が飛び、少し姿勢が崩れる黒騎士。

その隙を逃さず、無呼吸での連撃を打ち込むオリアナさん。そしてその間に、二人が全身の魔力を、自分たちの武器に流し込んでいく。すでに戦場に残るのは眼前の黒騎士のみ。後のことを考えず、今できる全力を、叩き込むのみ。

黒騎士の左右から、強者の全力が、叩き込まれる。


「叩き、込むッ! 『大蒼月』ッ!!!」

「『剛魔大斬波』ッ!!!」


それまで敵を抑え込んでいたオリアナが後ろに飛び去った瞬間、左右から黒騎士に襲い掛かるのは、澄んだ蒼の魔力と、強く濁った魔力の奔流。神の力に起因する耐性を持っていたとしても、決して無視できぬ攻撃。それまでの蓄積によって回避できず全身でそれを受けてしまった黒騎士は、声にならない叫びをあげる。

だが、まだ足りない。


だからこそ。私が。


「お婆ちゃんッ!」


そう叫んだ私の声に反応し、魔力の奔流に呑まれる黒騎士の元まで突っ込み。その全力を以って彼の肉体を上空へと打ち上げるオリアナさん。その遥か彼方上空には、すでに上昇し終わった、私が。


「いくよタイタン! ラストダイブだッ!」

「ブ!」


上空に打ち上げられた黒騎士を視認した瞬間、その背後に空間を開き、巨石を打ち上げる。さっき私が築いた城壁を木っ端微塵に破壊した巨石と、同じサイズのものだ。全身を岩に打ち付けられながら空へと上がってくる奴に向かって、“落ちる”。

両手で強く槍を握り、指し示すのは黒騎士の肉体。その切っ先の一点を中心とし、回転を始める。

速度、軌道修正、離脱のタイミング。そのすべては、タイタンに任せる。私がするべきことはただ一つ。アユティナ様から頂きこの体に巡る神の力を、全てこの槍に込めること。


「そのまま、貫くッ!!!!!」


回転速度をさらに上げ、人間ドリルになりながら、黒騎士へこの槍を、ぶち込む。

だが、これだけじゃ足りない。もっと、もっと力が要る。

タイタンッ! 限界を超えるぞ! もっと廻れッ!


「はぁぁぁあああああ!!!!!」


より回転速度を上げ、黒騎士を岩の中に押し込み、砕く。視界が真っ青な空から、白く暗い岩の中へ。

すでに人の身が耐えられる速度は超えている。全身に遠心力が伸し掛かり、骨という骨が砕けそうになる。だが、止まらない。止まれない。ただ、押し込むのみ。巨石を中を砕きながら進み、黒騎士をより押し込んでいく。徐々に弱まっていく速度を少しでも抑えるためにより回転速度を上げ、そして……。

そのまま、貫き切る。

視界が暗闇から青に戻った瞬間、見えるのは、私の祖母の姿。


「よくやった、後は任せろ。」


そう言いながら振るわれるのは、限界まで熱せられた【オリンディクス】。神器の名に相応しいすべてを破壊し新たな世界を切り開く一閃が、今。彼女の手から、解き放たれる。





「『開闢の一撃』」





神の槍が、すべてを貫いた。









 ◇◆◇◆◇







それから後は、まぁ色々あった。

オリアナさんは全回復の加護? のおかげでほぼ無傷みたいなもんだったけど、ナディさんは結構やられてたし、私もかなりボロボロだった。変色してた肌は神の力をお返ししたらすぐ治ったんだけど、それ以外の怪我がね。うん……。最後の巨石ドリルで無理に回転しすぎた結果、また全身骨折とかヤバい状態になってたみたいで。即、野戦病院行きでした。

んで担架に乗せられて空輸されそうになった時に、急に伯爵が『我が天使のために先んじて救護班を用意しておいた』とか言いながら速攻で治療してくれた。最悪後遺症残るかも、ってレベルだったから仕方なく治療受けたけど……。お前がすること為すこと全部裏があるだろうし、マジでもう近寄らんでくれる?

ナディさんずっと私の治療監視してたし、オリアナさんも伯爵が用意した救護班の持ち物漁って見つけた媚薬とか睡眠薬とか握りつぶしてたんだよ?


(今回の救援で接触禁止命令の違反は目をつむってあげるから、もう消えてもろて。……まぁ治してもらったのは感謝してあげるけどさ。)


とまぁ私に関してはこんなもんで全身包帯でぐるぐる巻きになったくらい。魔法による治療なので数週間もせずに復帰可能、なので黒騎士討伐後について話しておこう。

オリアナさんの『開闢の一撃』によって両断された黒騎士は、真っ二つになった肉体を地面に転がした後、砂のようにその体を溶かしてしまった。ゲームでは女神の力に耐えきれずバケモノになった存在が撃破された後は単に消滅しただけなんだけど……、それが現実になったが故に砂になったのだろうか? なんか嫌な感じがするけど、私たちにはどうすることもできない。

一応少しだけ周囲を確認して、神らしき存在が飛来してこないか警戒したけど、何も起きなかった。故に運よく相手がこちらを発見できる前に殺し切れたとみて間違いなさそうではあるんだけど……、やっぱり不安。

まぁちょっと解らないことが多すぎるので、そのあたりは放置しておくことになった。


(んで、肝心の戦争なんだけど……。別動隊を指揮してくれていたユリアンお婆ちゃんが無事皇帝を確保。そのまま停戦交渉に入ることになったんだって。)


帝国側というか、皇帝も戦死者のことについては理解していたみたいで、帝国十将の内8人が死亡、2人が撤退となった今。もう戦うことはできないと判断したようだった。それに加え大量の兵士を失った帝国と比べると、上澄みの強者は失ったが、兵数を残している王国。帝国側からすれば、これ以上戦っても損害しか生み出さないってわけね。

聞いた話、王国軍の上層部はそのまま進撃するつもりだったみたいだけど……。


(ユリアンお婆ちゃんがそういうのを無視して、勝手に停戦結んじゃったんだっけ?)


ご存じの通り、もともと王国は戦争出来るような状態ではなかった。

兵の士気は最悪だし、間者入り放題だからまぁどう足掻いても負ける。しかも王国側の強者が私たちを除いて全滅したせいで、まともな強者もいない。しかも後方の五大臣たちがお互いの脚を引っ張り合っているせいで、今後まともな補給が来るかも怪しい。攻め込んだとしても十中八九一つの街すら落とせず全滅するというのが、お婆ちゃんの予想だった。

だからこそ先に講和して、後で王国本隊を説得する方針にユリアンお婆ちゃんはシフト。今後10年間の停戦と多額の賠償金でまとめることになったそうだ。


「んでその賠償金を使って本隊のクズ共賄賂を握らせて黙らせながら、今回一緒に戦った貴族連合の諸侯たちに分配、って感じみたいだね。まだ支払い自体はされてないみたいだけど、ユリアンお婆ちゃんが『払わんかったらお前んちに“悪魔”ぶち込むぞ?』って脅したらしいから、多分ちゃんと払ってくれるみたい。」


ちなみにそんなお婆ちゃんから『もし帝国が支払いを渋ったときは、お小遣い上げるから帝都の横の周囲に火を放ってきてくれる?』と頼まれちゃったので、その時は動くつもりだ。

なお王国本隊がユリアンお婆ちゃんの言うことを聞かず勝手に進軍した場合は放置し、賄賂用にもらう分を帝国に『ごめんなさいね、お詫びに賠償金減らすわ』と言うことにするそうな。


『というかユリアンお婆ちゃんさ、そういうのって完全に越権行為な気がするけど……。大丈夫なの?』

『あら、難しい言葉知ってるのね。その通りよ、バレたらまずいわ。けどね……『五大臣の誰々さんの指示でやりました』って言えばまた勝手に足を引っ張り合って責任問題なんて勝手に消えちゃうわ。それに処刑されそうになっても王都は私のホームみたいなものだしね。逃げ出すのも簡単よ。その後は気楽な隠居生活ね。最後の御奉公としては十分すぎるくらい働いたでしょう。』

『Oh……、すごい。』



ま、そんな感じで無事戦争も終結。


後は後片付けして、帰るだけなんだけど……。


「というわけで姉上にティアラ? そろそろ答えて頂くぞ?」

「あ、あはは……。どうしよ。」


王国軍陣地、その天馬騎士団の区画の中にある一つの天幕にて。ナディさんに詰められる私とオリアナさん。既に人払いはしてもらってるみたいだけど……。これ答えないといけない奴?


「あぁそうとも。人払いはしているが、周囲は我が騎士団で固めているから逃げられん。戦後処理などで忙しかった故すぐに聞き出すことはできなかったが……。ティアラ、お前の力の出所や、“神”といった言葉。どういうことか説明してもらおうか。」

「え、えっと。それは……。」

「……話せないのなら話せないでいい。だが少し、いやかなり寂しいのだぞ? 姉上とお前が何かしら隠していることは前々から理解していた。だがそんなに私は信用できないか?」


少し怒りながらも、言葉通りに寂しさ感じさせる声色で話すナディさん。そう言われちゃうと滅茶苦茶弱いんだけど……、正直まだ巻き込んでいいのかって問題で、結構ヤバいのが相手になると言いますか……。最悪すぐにそれと戦う必要が出てくると言いますか……。

お、オリアナさん? 助け……、あ。自分で決めろって顔してる。ぴえん。あ、ナディなら大丈夫だろうし、話しても即座に敵対することはない。それにここで話して拒絶されてそれっきり、ということにもならないだろう。むしろここで話さない方がナディにとって負荷になるかもしれない。だからこそ最後の判断、巻き込むか巻き込まないかは、自分で決めろっていう意味ね。

うにぃ、厳しいお婆ちゃんだ。……仕方ない、言うか。


「まぁ早い話……。信仰してる神様が違うの。」

「…………帝国の神か?」

「ううん、どっちも違う。また別の神様。そうだ、直接見てもらった方が早いかな。ナディさん、ちょっと待ってくれる?」


そう言いながら、アユティナ様にそちらに行ってもいいかとお伺いしようとした時……。外から声が聞こえてくる。天馬騎士団の姉ちゃんたちがやって来た誰かを静止しようと動いているようだが、止められていない。足音がより、大きくなっていく。

そして勝手に天幕に入って来たのは……。


「やぁ我が天使。ご機嫌いかがかな?」

「“射出”」

「おぉ、強烈なラブコールだな。」

「違うわ死ね。」


一気に気分が最悪になったわお前のせいで。あとナチュラルに回避するな。というかこの前の接触禁止命令はどうなったんだよクソ野郎。は? 危機を救ったから無効? んなわけあるかボケ。ちょっと表出ろ、まだ包帯取れてないけど、んなもん知るか! ぶっ殺してやる!!!


「レディのお誘いは断らないのが私の信条だったのだが……、申し訳ないが次の機会にしていただけるかな? それで我が天使よ、今日はメッセンジャーとしてここに参ったのだ。」

「メッセンジャー?」

「あぁ、そうとも。先の宰相を務めていたマンティス殿からのものだ。」


あー、どうせ黒騎士とかいっぱい殺しちゃったからその褒章とかでしょどうせ? 私そういうの受け取らないって決めてるの。というか明らかに王国の女神のおもちゃになってる国王と会うのはまずいし……。だから私は“受け取らない”し、“受け取ってもない”し、“内容を見てもない”からね。

さぁ帰った帰った! 今日は見逃してやるからどっけ行け。あっかんべーッ!


「な、なんとも愛らしい……! っと失礼。しかしだな我が天使よ、これはそれとは別件……。」


変態クソロリコンがそう続けようとした時。また外から足音と話声が聞こえてくる。

すでに伯爵がここにきてしまった以上、私たちの密談は強制終了されてしまっている。故に天馬騎士団の姉ちゃんが顔をちらりと見せ『新しく客人来ちゃったんですけど通しちゃっていいですかね? あとさっきこのクソ変態止められなくてごめんなさい』と言いに来てくれる。

まぁこの変態無駄に強いし、ということでナディさんは特にお咎めもなく。とりあえず人払いの継続を再度伝え、連れてくるように指示。

そして数秒後、やって来たのは……。


「ご歓談中、申し訳ございません。失礼いたします。」


鈴の様な女性の声に、柔らかい笑みを浮かべたクリーム色の髪の女性。そして一番目を引くのは、色々と心配になるレベルのたわわに実った胸部装甲。思わず声が出そうになってしまうが……、それよりも先に“恐怖”が出てくる。この存在が身に纏っているのは、王国のいたるところで見ることが出来る、真っ白な服。“王国教会”での身分を証明する、司祭服だ。


「王都の教会から参りました。助祭のメメロと申します。本日はティアラ様に、大司教様のお言葉をお届けに参ったのですが……。どなたがティアラ様でしょうか?」


あ、スッ



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