クソガキ、暴れます。

サイリウム

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原作開始前:崩壊編

95:王女を手に入れた

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王都から西に遠く離れた場所に存在する、シニモテット子爵領。厳しい山岳に囲まれたこの最果ての地は、かつて教会に置いて“修行の地”としての役割が与えられていた。崖と崖の合間に建設され、行き来する道は崖を削り作った大人一人通れるか怪しい道のみ。

まともに人がやって来れない場所で教会の教えについて学びを深め、聖職者としての力量を高めていく、それがこの教会の存在意義であった。

けれど王都から遠く離れている僻地であり、食料の供給すら危うい場所。当初は信仰の深いものでにぎわっていたようだが、王都の近くに使徒の秘匿のため建てられた教会が完成したことにより、修行地の需要がそちらに移動。自然と王国教会からも、女神からも忘れされててしまった教会が、そこだった。


(崖を無理矢理切り開いて作った場所だから、真面な食料生産施設もない。存続自体は出来てるけど、食料の供給も物資の補給も、全部外部に依存することになる。僻地と言うこともあって……、王国教会から離れた施設でもあるんだよね。)


中央から見捨てられたのであれば自分たちで生きねばならない、“修行の地”に残った彼らは貴族に協力を願い出ることで、生き残ることを選択した。そして生まれたのが、教会の教えを守りながらも現地貴族の下部組織とも呼べる教会勢力。陸の孤島とも呼べる僻地という立地に、教会中央から忘れ去られたような場所。『死ぬほど生活しにくい』という点を除けば、人を隠すのにはとても便利な場所だった。


(だからこそ第二王女はここに隠され、十年近い時をここで過ごすことになる。“修行の地”というだけあって神官系の技能を高めるのにはもってこいだし、同時に近接戦闘の技術も独自の進化を遂げて継承されている。原作の初期ではレベルが足りず、培った技術を発揮できず負けてたみたいだけど……。)


まぁもう関係ない話だ。だって今、原作開始から7年前。……あ、いや。そろそろ6年前か。第二王女も私もまだ8,9歳。幼子で納められる技術などたかが知れてるからねー。しかも教会の人たち真面そうな人ばっかだったし。エレナのとこみたいに3歳からペガサスに乗ろう! とか、ティアラちゃんみたいに5歳で盗賊を殺しまわろう! みたいなことはしてないだろう。レベルも技術も中途半端って感じだろうねー。

っと、ティアラちゃんのせいでおそらく役目も何もなくなったヒロインさんの話は置いておくとして……。私達の話をしよう。原作のイベントから少し不安になった私は、第二王女の輸送をマンティスから引き受けた。貴族たちとの会議や交流が終わった後、すぐに出発して“修行の地”に向かったわけだが……。

姉妹ー、付いて来てるー?


「だ、大丈夫でーす!」

「ちょ、ちょっと意思疎通が完璧じゃないですけど、なんとか。」

「なるなる。んじゃまだ実戦レベルじゃない感じか。大丈夫大丈夫、ちょうどいい相手もいるだろうし、それで練習しながらいこうね!」


背後を飛ぶ二人の様子をタイタンの背で眺めながら、そう声を掛ける。

覚えてる? このペガサスたち。昔タイタンの群れにいた子で、何匹もぞろぞろ連れて行くわけにはいかなかったから子爵領に置いてきた子。実はさ。エレナが気を効かせて、一回子爵領に戻った時に王都まで連れてきてくれてたんだよね! しかも調教とか全部終わらせてる上に、エレナが直々に「姉妹と相性がよさそうな子」を選んで送ってくれたのがこの2頭のペガサス。

彼らを王都を出る前に受け取って、ソーレとルーナの習熟訓練を熟しながらここまでやって来たってわけ。


(まぁ二人は剣兵系列の上級職、『剣豪』だ。私みたいに職業の補正を受けてなんとなくペガサスの感情が解るとか、そういうのがない。全部独力で頑張らないといけない以上、慣れるまで時間が掛かるのは仕方ないだろう。)


ま、そういう訳で今行ってる場所は訓練には最適なんだよね。

“修行の地”は陸路で行くとめちゃ大変。なにせ近くの町から幾つか山を越えて、最後は崖の合間を縫っていかなきゃならない。とっても時間が掛かるんだけど、空路なら一直線で何とかなる場所だ。それに、崖の合間を縫って飛ぶのは結構な技術と愛馬との連携が必要となってくる。王都からここに来るまでの訓練、その総決算と考えれば最適な場所だ。

あ。ちなみにオリアナさんとモヒカンズさんは最寄りの村でお留守番です。『今のお前なら私がお守りせずとも何とかなるだろ。ただしやり過ぎるなよ? 色々と。』というお小言だけを頂いて、三人で飛び出してきたって感じだね。


「にしても、昔みたいに視界に入れただけで逃げ出す、ってことが無くなって本当に良かったよ。二人は知らないと思うけど、昔すごくてね? みんな私を見ただけで逃げてくの。近くに主人がいた子なら耐えてたんだけどさ、野生の子とかバケモノを見る様な目で……。」

「あー(どうりで)」

「そうなんですね(まだこの子たちティアラ様のこと怖がってます……)」

「ブ。」


ん? どしたのタイタン。あぁ、見えて来たのね。ありがとう。

彼の言う方向性を見てみれば、崖の合間に作られた教会の様な建物が見えてくる。まだちょっと遠すぎて詳細は視認できないけど……。ちゃんと人が住んでる痕跡はあるね。洗濯物干してるし、米粒みたいなものが動いてる。王女もあそこにいるのだろう。


「どうしますティアラ様。もしよろしければ先行して到着の報を届けてきますが。」

「あーいや、それは後。とりあえず一旦Uターンして足場探すよ。そこでいったん休憩。」

「? 了解です。」


そう言ってくれるソーレに応えながら、反転し三人と三頭が足を付けられるような場所を探す。

崖を登り切った先に降り立った私たちは愛馬に休息と水分補給などをさせながら、顔を合わせる。


「とりあえず考えてるのが二つあってね? もう色々面倒だから突撃して第二王女だけ拉致。その後王都に戻る。んでもう一つはどうせ襲い掛かってくるだろう山賊を先に潰してから、丁寧にご訪問する。どっちがいい?」

「「後者で。」」


あら即答。いいの? 前者の方がすぐ終わるし、簡単だよ?


「いやそんなのしちゃったら絶対オリアナ様に怒られますし……。」

「『お前ら何で止めなかったんだ? それでも副官志望か?』って言われてボコボコにされます。」

「そっか。んじゃしゃあない。真面目にするとしますか……、タイタン。ちょっといいかい?」

「ブ?」


彼に声を掛け、細かい動きをするから合体してくれと頼む。本人、いや本馬からすればちょっと疲れるのが合体形態。緊急時では無ければ普段通りで行きたいと何度か聞いたが、今のこの子は多少のワガママも聞いてくれる。これ見よがしなため息と共に、その体を私の体に溶かしてくれる。瞬時私の背に現れるのは、真っ黒な翼。そしてこの形態を始めてみたのであろう姉妹のペガサスたちからの、驚愕の視線。


「うっし。んじゃ付いて来て? これでもティアラちゃん故郷では“盗賊スレイヤー”として有名でね……。あいつらが隠れそうな場所とか、目印とか。すぐわかるのよ。ここまでくる間に幾つか見つけちゃったし、あちらさんの本拠地訪問にでも行きましょうか。」

「「はッ!!!」」





 ◇◆◇◆◇





さて、話は変わるが……。実は盗賊たちの間にも、“専用ジョブ”という者が存在している。

原作主人公であるウィレムが転職可能である下級職『英雄』、上級職『勇者』のように、盗賊たちは下級職の『斧兵』、『剣兵』、『槍兵』を経由して、上級職『大盗賊』に到達することが出来るのだ。まぁ基本的にそこまで行く盗賊はごくまれであるし、適性がなければ専用ジョブになることは不可能。そもそも盗賊の平均寿命がとてつもなく低いため、『大盗賊』が大陸に片手で数えるほどしか、存在していない。

そして、その中の一人がここ。シニモテット子爵領に居を構えていた。


「こりゃ好機だぞ……!」

「そうなんですかお頭?」


“修行の地”から少し離れた山に拠点を持つ『大盗賊』のヌシグスは、小さなろうそくだけが頼りである真っ暗な洞窟の中で、思わず声を上げてしまった。何せ王都で起きた詳細な出来事を、彼の持つ伝手で入手することが出来たからである。


「あぁそうだ。五大臣の野郎どもが全滅しやがった。こりゃ儲け時だぞ……!」


領主の死亡、ただの戦死ならばまだよいが今回の“政争”によってその多くは処刑。そして一族全員が根切という処罰が下る家もあるだろう。一部の領は統治者を失い、治安が急激に悪化する。もちろんすぐに新領主がやって来て、整えていくだろうが……。


「そのわずかな時間で攻め切っちまえば、こっちのもんだ。そもそも貴族ってのは産まれが尊いんじゃなくて、持ってる力が尊いんだ。それに、ある程度の力を持っていればお貴族様も“受け入れ”てくださるだろうよ。」

「受け入れ……、って何ですかい?」

「強大な力を持ってる奴に爵位とかやって味方にする、ってことよ。早い話、上手く行けば俺は男爵様。お前は騎士様だぜ?」

「まじっすか!?」


彼の言う通り、何らかの理由で力を持たない貴族は盗賊などに爵位を与えることで懐柔するという手段を用いることが出来る。ヌシグスは盗賊ではあるが、『大盗賊』になるまで生き残れるほどの学があり、同時に嗅覚も鋭かった。もし攻め入る場所を間違えなければ、問題なく男爵あたりに滑り込むことが出来ただろう。

だが今彼が保有する戦力では……、少し足りなかった。


「狙い目はここからそこまで遠くない……、ここだな。この男爵領を狙う。元五大臣の領地で、代官が派遣されてた場所だ。けど他の領地との位置関係から、かなり細切れに分割して分け与えられるはずだ。つまり新しくやってくる貴族の保有戦力は、そこまで多くない。だがそれを考えても、ちと戦力が足らんな。」

「かき集めやすか?」

「それもいいが、こういうのは忠誠が大事だ。寄せ集めじゃ肝心なところでミスる。」


ヌシグスの盗賊としての名声は、かなり高い。事実彼が号令を掛ければ、すぐに千単位の兵を集めることが出来るだろう。彼子飼いの盗賊200名を合わせれば1200。十分な戦力だが……、もし貴族の私兵と正面衝突したとき、逃げ出されてしまう可能性がある。

解り易い勝利の印、盗賊でも理解できる“勝利の象徴”が必要だった。


「普通ならここで止まっちまうんだろうが……。全く俺は運がいい! 何せ解り易い神輿、“王族”が近くにいるんだからよ……!」

「王族ですかい? でもお頭、この辺りにそんなの……」

「それがな、居るんだよ。あの“修行の地”とやらにな。」


そう言いながら地図を広げる彼。そこには非常に詳細な情報が記されており、どうやら修行の地の内部情報まで確保している様だった。警護の交代時間までもが記されており、これを元に計画を実行すれば、確実に成功するといった代物。

最初は“修行の地”が保管しているお宝を奪うために用意したものだったようだが……、その調査の過程で王族がそこにいることを、彼は理解していたのである。


「ここにいる8つのガキ、桃髪の女がターゲットだ。ついでに溜め込んでる武器とかも全部貰ってくぞ。終わればウチの奴らは王国軍にも負けない精鋭装備、そして王女を担ぐことで兵も集まるし、かなり若いが妻にしちまえばもっと夢が広がる。全く、俺は運がいい……!」


そういいながら、笑いをかみ殺すヌシグス。

確かに彼は運が良いのだろう。彼の立てた計画は、ティアラがこの場に来ることを選択していなければ確実に成功していたもの。来年には王都で行われる諸侯会議に、男爵として参加していてもおかしくのないものだった。

けれど……。

彼の“後ろ”にいるのは、LUK0という埒外のバケモノ。もしかすれば近くの運気すら低下させているのではと噂になる程の女、ティアラである。

そんなバケモノが……、暗闇の中から。ヌシグスの隣に、すっと現れる。

首元で紡がれるのは、彼にとって“終わり”の合図。


「み・つ・け・た♡」










「と言うことで近くにいる盗賊のお頭っぽいの捕まえて来たけど。……いる?」

「え、あの。結構です。」

「~~ッ! ッッ! ~~~ッ!」


第二王女であるイザベル。彼女が朝起きて真っ先見た光景は、ソレ。

朝日と共にやって来たのは、背中から黒い翼を生やしたどこか見覚えがある少女と、その従者に見える剣を持ったペガサスナイト二人。三人とも年齢は若く、黒い翼の彼女が一番幼いようだが、身分は一番高い様だった。

そんな翼の彼女が口に縄をかまされ両手両足を縛った盗賊らしきものを転がし、言葉にならない叫びをあげる彼を黙らすために蹴りをぶち込んでいる姿。そしてその対応を任されてしまったこの“修行の地”の主である、大侍祭様。

一応イザベルのここでの身分は“ただのシスター”であり、名も村にいたころと同じ“ベル”。けれどその身が隠されている存在でいることは確かである。彼女は物陰に隠れながらも、その様子を伺っていた。


「あ、あの。公爵様……、でよろしいんですよね?」

「うん、そう。新任だけどね。でも堅苦しいの嫌いだから、ティアラちゃんって呼んで? 一応手土産いるかな、って思ってさ。食料品も持ってきたんだけど、ちょっと面白味に欠ける気がしてね? 近くにちょうどいい盗賊たちの巣があったから攻め滅ぼしてきたの。でも200くらいいたからさー、首全部並べたら失礼じゃん? だから頭領だけ生け捕りにしてきた。」

「そ、そうでしたか……。」

「でも要らないのならいいや、捨てちゃお。」


彼女はそう言った瞬間、軽くその盗賊を蹴り上げ……、腹にその足裏を当てることで、崖に向かって蹴り飛ばす。

声にならない叫び声と共に落ちていくソレ。だんだんと小さくなっていく声は、十秒後には聞こえなくなってしまった。おそらく落下しきり、死んでしまったのだろう。ティアラからすれば“空間”に放り込んだだけなのだが、それ以外の者からすれば恐怖でしかなかった。


「っと。そうそう忘れてた。これマンティスちゃんからの書状ね、実はちょっと政争の方が上手く行ってさ、五大臣とか全部消去出来たし、無事フェルナンド様が次期王に収まることになった。国王陛下も正気に戻ったし、もうかくまう必要はないなってことでね?」

「い、頂きます。……確かに、マンティス殿の文字、そして符号。……事実、なのですね。」

「そ。というわけでそこで隠れてるベル。帰るよ~! あ、それともこう言った方がいい? 久しぶり、って。」

「あ、あなた……、なの?」


ティアラからの呼びかけを受け、ゆっくりと物陰から顔を出すイザベル。

彼女の脳裏にいまだ焼き付いているのは、村で見たティアラの姿。自分をさらうためにやって来た者たちを瞬く間に倒してしまい、そして消えたティアラ。もちろんそれ以前の村にいた彼女のことも覚えているが、どうしてもそのイメージが消えない。不埒者たちが苦しみながら死ぬ姿と、血の匂い。

強い苦手意識を持っているわけではなかったが……、何も感じていないように盗賊を崖へと叩き落したその姿が、過去の地の匂いと繋がり、少し声が震えてしまう。


「そうそう、ティアラちゃん。……あ、そう言えば村にいたころはもうちょっと大人しめにしてたっけ? まぁいいや、こっちが素なんで慣れてねー。」

「う、うん。」

「んじゃ早速帰ろう! って言いたいところだけど……、どうする? 別に緊急性はないし、寄り道OK。せっかくだからあの村にも寄って行こうと思うんだけどさ。来るかい?」

「村って……、あの!? 行く! 行きたい!」

「そりゃよかった。んじゃ手早く荷物纏めてね? あと従者とか連れて行くんならその選出とかも。護衛関連はこっちで受け持つから問題なし。んじゃ、そんな感じで~。」





ーーーーーーーーーーーーーーーーーー





〇ティアラ
案の定王女誘拐しようとしてた奴いたから、来て正解だったと一安心。あとこの盗賊の頭領君原作の奴じゃないな、というかどっちかというかコイツの隣にいた奴の方がその面影会ったような……。まぁいいや。どうせ盗賊全員殺すんだし。治安維持~。
よし、やることやったし故郷に帰るか!

〇イザベル第二王女
原作主人公(ウィレム)に会えると知り、すごく嬉しい。お互いに一目ぼれの様な状態で、別れた時は一生もう会えないと思っていたところに、迎えが来たのだからそりゃ喜ぶ。なんか難しい言葉を回していた自身の知るティアラとも、故郷で比較的大人しめだったティアラとも違うからちょっと困惑。

〇ヌシグス
すぐしぬ。

〇待ってる人
亜空間を形成し、時間を停止させることで超速でヘイカから教わった領地経営と帝王学、母親から教わった花嫁修業を終わらせた。もちろん分身も出来るようになっている。有り余る魔力と共に、“誰か”を待ち構えているようだ。


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