黒の悪魔が死ぬまで。

曖 みいあ

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第三章:来たる日に備えて

武術家は戦闘狂

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「さぁ、遠慮はいりませんヨ!

思いっきりドウゾ!


あ、ちなみに僕は、

ちょっぴり手加減して蹴りましたけどネ。」



ヤマトは終始笑顔で、

最後は、内緒話をする子供みたいに

コソコソと、派手男に語りかけた。



(あの豪快な蹴りが、手加減したもの…。)


本当なら、ヤマトの実力は、相当なものだ。


(本当、なんだろうな…。)


出会ったばかりだけど、

付箋を読まなくても、不思議と、

”ヤマトは本当のことを言っている”

そう、思えた。




「ふざけんのも大概にしろよ…!」


派手男は、怒りを隠すこと無くつぶやき


「戦う前に、一撃ドウゾだぁ?

お前ら卑怯者の言う事なんて、知らねーよ!

俺はもう、勝手にやらせてもらう。



勅令するーーナナ、滑り寄れ。」




ーービュン!!



派手男の勅令。


勅令と同時に、
オーバーのヘビが現れ、

怒ったように、激しく宙を舞った。





「いいですネ!

アナタ、やっぱり強い人の気配がスル!」


派手男の怒りに任せた勅令を前にしても

ヤマトは相変わらず、のんきな反応を見せた。





(ヤマト…大丈夫、なのか…?)


俺は、さっき受けたダメージ的に

今ヤマトに加勢することは、たぶん難しい。



何も出来ない、もどかしい気持ちで、

それでも何か出来ないか、と

ひとまず、派手男の付箋を読んでみる。



すると

【何が一撃だ。】

【もう手加減はしない。】

【一撃どころか、一気に片付けてやる。】


派手男の、容赦ない怒りが見て取れた。



「ヤマトっ!ヤツの攻撃は…っ!」


俺が、今読んだことを、

少し離れたヤマトに伝えようと、声を張り上げた時



「シオンっ!

ありがたいデスが、

僕の戦いに、口出しは無用デス!」


俺より、さらに大きなヤマトの声で

俺の助言は、見事に遮られた。



ヤマトの付箋には


【強い人との1対1!】

【山を出た甲斐があったネ!】

【チカラ…だったっけ?】

【僕の武術、通用するカナ?】


と、書かれていて。




文字だけでも、

戦いを楽しんでいることが、伝わってきた。




それに…


(チカラを…知らない…?)






「あくまで正々堂々のフリ、か?


俺は、そんなの関係ねーぞっ!!」


派手男は、激しく左手を振り下ろし。



ーーグォン!!


怒るヘビの周りに、

真っ黄色の、太い紐が現れて。



まるで、大蛇のように

ウネウネとトグロを巻いて、積み重なっていく。




「これが、”チカラ”…

圧倒的なパワーを感じマス!」



ヤマトは、嬉しそうにつぶやき



「まずは、一撃…。」


そう言って、静かに目を閉じた。







「…っ!おいっ!」


「バカがっ!」


俺と派手男が、同時に口を開いた瞬間




ーーギュン!!





「ぐっ!」

「ヤマトっ!!」


無抵抗なヤマトは、一瞬で

あの大蛇のような紐に巻き付かれて、


思いっきり、
その頑丈そうな身体全体を、締め上げられた。




「ははは!

ほんとに何もせず
ただ捕まるなんて、バカなやつだなーおい!


おいバカ!

一撃ってさー、
こういう締め上げてるやつは、どうなんだ?

まだ一撃ってことで、いいんだよなぁ?」



派手男は、まるで楽しむように

左手を、優雅に振ってみせて。




「ぐはっ!!」


そんな派手男の指示で、
締め付けが強くなったのか、



ヤマトの口からは

さっきより大きなうめき声と、少しの、血が。




(まずい…!内蔵にも、ダメージが…!)



俺が、何とか加勢しようと

身体に力を入れ、
立ち上がろうとした、その時






「一撃の定義、デスカ…っ。

こんな技は、初めてなので…
考えたことが、ありませんデシタ…っ。


この世界は、
まだまだ面白いことが、沢山…ですネ。


貴重な一撃、アリガトウ…っ!」



ヤマトは苦しそうに、

でも、ハッキリと声を出した後




「ヤァッ!!」


さっきまでの低音とは違った

少し高い声で、掛け声をしたかと思うと



ーードガァ!!



彼の、唯一、

締め上げかれていなかった…


頭で。


思いっきり、
大蛇のような紐に、頭突きを食らわせた。





『キュゥゥゥウ!!!』


紐のダメージが、
オーバーにも伝わったのだろう。


派手男の隣、オーバーのヘビが、
独特な鳴き声で、苦しそうに悶え


「ナナっ!!」


派手男の意識が逸れた、その瞬間




「まだまだ、デスっ!

ヤァッ!!」


緩んだ締め付けを見逃すことなく


ヤマトは、出会った時に見せた、
あの見事な蹴りを、また、紐にお見舞いした。



ーードンッ!!


離れている俺にも伝わる、

地響きのような衝撃。



その衝撃と共に消えていく紐を、悔しそうに睨んで


「くっそ!!!」


派手男は、思いっきり地団駄を踏んだ。








「ハァハァ…。

これが、チカラを使った実戦…!

内蔵が、ボロボロになってしまいマシタ…!」


口から、少し血を流したまま

ヤマトは、笑顔で、
でも苦しそうな呼吸のまま話す。




「でも…

勝負は、まだまだこれからですネ。


次は、僕からいきますヨっ!」



「おいっ!そんな身体でっ!」


俺の静止も虚しく、

ヤマトは口から血を流したまま、

嬉しそうに、派手男に突っ込んでいく。



「ちっ!

作戦も、練らせてくれねーのかよっ!

勅令するーーナナ、滑り寄れ!」



派手男の勅令と同時に、

また、あの黄色い紐が現れた。




さっきの大蛇サイズより、
一回り小さく感じる質量だが、

その分、素早いようで。



さらに、その本数も、1本ではない。


(3…いや、4本か?

速すぎて、目で追いきれないっ…!)



遠くから見ている俺でも、こんな状態だ。


近くで戦っているヤマトには、
とてもじゃないが、対応出来ないスピード…



だと、思ったが。


「ヤァッ!タァッ!!」


生き物のように、
それぞれが別の動きをする紐を

ギリギリで見極め、的確に

蹴りや、殴打を入れているのが見えた。




「まるで、山でしてきた修行デス!

他にも何か、無いんデスカっ?

チカラって、すごいんですよネっ!?」



ボロボロの身体で、

血を吐きながら、


それでも楽しそうに、目を輝かせながら、


ヤマトは子供みたいに、派手男に問いかける。




「こいつ、舐めやがって…。


そんなにお望みならなー…

俺のとっておきの技、見せてやンよっ!!」



そう言った派手男の周りを

今日1番の、濃い、黄色のモヤが包み込む。




(ハッタリじゃない、本気だ…!)



俺は、一気に変わった

ピリ付いた空気に、息をのみ…



「ハイっ!!

よろしくお願いしマスっ!!!」



ヤマトは、嬉しそうに

何故かその場で、深々とお辞儀をしていた。
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