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序章
誰がために彼は在る
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--祝福、それは陛下より賜りし無窮の力
神裔、彼らはその祝福を賜りし者
「生体兵器」、「歩く戦略兵器」とも称されるその強大さは、単独で一国の軍隊を蹂躙する程であり、まさしく帝国の国威と抑止力の一翼を担う存在である。--
あの赤髪がこんなお触れ通りの大層な力を秘めているのなら、野放しにしておこうなどということはまず不可能である。できることなら赤髪だけに赤紙でも突きつけて、無理矢理にでも軍に引き込みたいところなのである。しかしながら、旧体制の自由主義を最大限引き継ぐという陛下のご意向から、彼にそんな乱暴狼藉を働くこともまた不可能である。二つの権力の板挟みに胃を痛めながら今日もまた彼の元へ。今日は影浦?だったか、この前の警官の子は来られないらしい。
「今日こそあのお母ちゃん、ちゃんと話聞いてくれるやろか...」陰鬱な心持ちで病室の扉を叩く...
「邪魔すんでぇ」
冗談めいた言葉で胸の内をひた隠す。
「邪魔するなら帰ってくれよ...」
単身東京に連れて来られて以来一度たりとも通じることのなかったシャレが、今ここで初めて通じた。もっとも単なる偶然だった可能性は否定できないが...
「お前...このギャグ分かるんか!?」
上京して以来初めての胸の高鳴りについダル絡みをしてしまった。大阪人の悪癖である。このままでは話が横道に逸れてしまって良くない、気を取り直して見舞い人用の椅子に座るお母さんと挨拶を交わし本題である赤坂緋色の入隊交渉に取りかかる。
「それじゃあね、お母さん、今日から本題に入らさしてもらいます。今日のところは聞ける話だけゆっくり聞いてもろたらええんで、『ちょっと聞いてられへん...』とか『今日は帰ってください!』とか思ったったら全然仰ってもらったらええから...」恐る恐る会話を始める俺...
「...聞きます。あなたが国のために働く覚悟を持ってここに来てるのに...私だけ泣いてるだけなんてこと、できないから...」返答は意外にも積極的だった。けれど「交渉成立!もろたで!」などとはどうしてもなれなかった。
「今から彼女の息子を人を殺し殺される世界に引き摺り込むのだ。」という重苦しい責任感、それに伴う良心の呵責が俺を襲った。しかしそれと同時に、この交渉の勝ち筋が見え始めたことへの安堵感も確かにあった。諸々の感情が複雑に入り交じり、思考を阻害する。
「俺が今取ろうとしている行動は正しいのか?」
「俺は今から最大多数の最大幸福の論理を彼女の前で説けるのか?」
笑いの都大阪で培ったはずの軽快な口車は今、人生で最高級に重い...否、俺は日本を、人類文明を、この災禍から救い出すと誓った帝国軍人であろう。帝国の利益に資する行動を信念を持ってやり遂げなければならないのだろう。緋彩を軍に引き込むこともその一環だ。腹を括って重い口を開いた。
「...まず我々の言い分を、聞いて頂いて大丈夫でしょうか?」お母さんは黙って頷いた。
「...ありがとうございます。じゃあ、お話、始めさせてもらいます。
まず、息子さんなんですが、彼がものすっっごい強い力を秘めてる可能性が高いんです。なので、国の決まりでは彼は一生監視するか、軍人になってもらうことになってるんです。
それとですね、お母さんもご存知の通り、ここ最近の中国って、人類を皆殺しにしたがってる悪い人工知能に乗っ取られてるんです。奴らは自分が勝てると踏むとすぐ侵略を始める。だから軍としては、息子さんにぜひ入隊していただきたいんです...」長ったらしくも思いの丈を全てお母さんに打ち明けた。程なくしてお母さんは口を開いた。
「わかりました...けどね...ひとつ...約束して欲しいことがあるの。...この子を...緋彩を...何があっても生きて帰して...この子は未亡人の私に残されたただ1人の家族なの!自分の命より大事なの!この子のいない世界で、そんな世界で、私は生きていたくはない!!この子が死ぬことがこの国の存続につながるとしても、私にとって、そんな国に意味なんてないの!そんなのは勝利じゃないの!!戦果より!戦勝より!!この子が生きてることが大事なの!!!」泣きじゃくりながら彼女は言う。彼女の論理だって、母親としては何も間違っちゃいない。やはり正義はぶつかった。かくなる上は、こちらも帝国軍人としての、緋彩の上官になる者としての覚悟を示す他ない。彼女だって、ともすれば非国民と謗られかねない本音を俺にぶつけたのだ。意を決して正座をし、両手をつけてうそぶく。
「...息子さんは死なせません。必ず生きたままあなたのもとに帰します。八百万の神に誓います。ですからどうか...」果たせる保証などどこにもない約束だ。そのことを突かれれば確実に交渉決裂だ。俺は手を震わせながら額を床に押し付ける。
「考え得る最大の誠意や...折れてくれ...」神仏など信じない俺の初めての神頼みだった。その直後、彼女は言った。
「お顔、上げてください...」おそるおそる顔を上げる
「そうですよね、軍人さんですもん...あなたのお立場だって当然あるんでしょう?誠意だってお見せいただきました。最後にひとつ、確かめるこt」そのとき、轟音が響き、病院内に激震が走った。
第四話へ続く
神裔、彼らはその祝福を賜りし者
「生体兵器」、「歩く戦略兵器」とも称されるその強大さは、単独で一国の軍隊を蹂躙する程であり、まさしく帝国の国威と抑止力の一翼を担う存在である。--
あの赤髪がこんなお触れ通りの大層な力を秘めているのなら、野放しにしておこうなどということはまず不可能である。できることなら赤髪だけに赤紙でも突きつけて、無理矢理にでも軍に引き込みたいところなのである。しかしながら、旧体制の自由主義を最大限引き継ぐという陛下のご意向から、彼にそんな乱暴狼藉を働くこともまた不可能である。二つの権力の板挟みに胃を痛めながら今日もまた彼の元へ。今日は影浦?だったか、この前の警官の子は来られないらしい。
「今日こそあのお母ちゃん、ちゃんと話聞いてくれるやろか...」陰鬱な心持ちで病室の扉を叩く...
「邪魔すんでぇ」
冗談めいた言葉で胸の内をひた隠す。
「邪魔するなら帰ってくれよ...」
単身東京に連れて来られて以来一度たりとも通じることのなかったシャレが、今ここで初めて通じた。もっとも単なる偶然だった可能性は否定できないが...
「お前...このギャグ分かるんか!?」
上京して以来初めての胸の高鳴りについダル絡みをしてしまった。大阪人の悪癖である。このままでは話が横道に逸れてしまって良くない、気を取り直して見舞い人用の椅子に座るお母さんと挨拶を交わし本題である赤坂緋色の入隊交渉に取りかかる。
「それじゃあね、お母さん、今日から本題に入らさしてもらいます。今日のところは聞ける話だけゆっくり聞いてもろたらええんで、『ちょっと聞いてられへん...』とか『今日は帰ってください!』とか思ったったら全然仰ってもらったらええから...」恐る恐る会話を始める俺...
「...聞きます。あなたが国のために働く覚悟を持ってここに来てるのに...私だけ泣いてるだけなんてこと、できないから...」返答は意外にも積極的だった。けれど「交渉成立!もろたで!」などとはどうしてもなれなかった。
「今から彼女の息子を人を殺し殺される世界に引き摺り込むのだ。」という重苦しい責任感、それに伴う良心の呵責が俺を襲った。しかしそれと同時に、この交渉の勝ち筋が見え始めたことへの安堵感も確かにあった。諸々の感情が複雑に入り交じり、思考を阻害する。
「俺が今取ろうとしている行動は正しいのか?」
「俺は今から最大多数の最大幸福の論理を彼女の前で説けるのか?」
笑いの都大阪で培ったはずの軽快な口車は今、人生で最高級に重い...否、俺は日本を、人類文明を、この災禍から救い出すと誓った帝国軍人であろう。帝国の利益に資する行動を信念を持ってやり遂げなければならないのだろう。緋彩を軍に引き込むこともその一環だ。腹を括って重い口を開いた。
「...まず我々の言い分を、聞いて頂いて大丈夫でしょうか?」お母さんは黙って頷いた。
「...ありがとうございます。じゃあ、お話、始めさせてもらいます。
まず、息子さんなんですが、彼がものすっっごい強い力を秘めてる可能性が高いんです。なので、国の決まりでは彼は一生監視するか、軍人になってもらうことになってるんです。
それとですね、お母さんもご存知の通り、ここ最近の中国って、人類を皆殺しにしたがってる悪い人工知能に乗っ取られてるんです。奴らは自分が勝てると踏むとすぐ侵略を始める。だから軍としては、息子さんにぜひ入隊していただきたいんです...」長ったらしくも思いの丈を全てお母さんに打ち明けた。程なくしてお母さんは口を開いた。
「わかりました...けどね...ひとつ...約束して欲しいことがあるの。...この子を...緋彩を...何があっても生きて帰して...この子は未亡人の私に残されたただ1人の家族なの!自分の命より大事なの!この子のいない世界で、そんな世界で、私は生きていたくはない!!この子が死ぬことがこの国の存続につながるとしても、私にとって、そんな国に意味なんてないの!そんなのは勝利じゃないの!!戦果より!戦勝より!!この子が生きてることが大事なの!!!」泣きじゃくりながら彼女は言う。彼女の論理だって、母親としては何も間違っちゃいない。やはり正義はぶつかった。かくなる上は、こちらも帝国軍人としての、緋彩の上官になる者としての覚悟を示す他ない。彼女だって、ともすれば非国民と謗られかねない本音を俺にぶつけたのだ。意を決して正座をし、両手をつけてうそぶく。
「...息子さんは死なせません。必ず生きたままあなたのもとに帰します。八百万の神に誓います。ですからどうか...」果たせる保証などどこにもない約束だ。そのことを突かれれば確実に交渉決裂だ。俺は手を震わせながら額を床に押し付ける。
「考え得る最大の誠意や...折れてくれ...」神仏など信じない俺の初めての神頼みだった。その直後、彼女は言った。
「お顔、上げてください...」おそるおそる顔を上げる
「そうですよね、軍人さんですもん...あなたのお立場だって当然あるんでしょう?誠意だってお見せいただきました。最後にひとつ、確かめるこt」そのとき、轟音が響き、病院内に激震が走った。
第四話へ続く
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