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学園で王子に溺愛される
しおりを挟む私はたまに優しいと言われる。
それは、私に何かしらの褒め言葉を言おうとして、でも、私にいいところがなさ過ぎて、とりあえず言っとこうと思って出た「優しい」だ。
だから、私は、優しいって言われたって嬉しくない。
☆ ◯ ☆
私は貴族の中では家柄があまり良くない方で、そんな私は、残念なことに能力も大したことなかった。
宮殿中の貴族の息子娘たちが通う学園で、私は最も落ちこぼれていた。
あまりの成績の悪さに、私との婚約が予定されていた、ライドからは一方的に婚約破棄されてしまった。
そんな私は今、学園中から可哀想だと思われている…。
「ねえ、あの子、知ってる?」
「ああいう人が宮殿の隅で人知れず暮らす婆さんになるのかしらね?」
「醜いこと…」
知らんこっちゃない。
私は最近裁縫にハマっててそれが楽しいから別に寂しくないもん!
将来だってなんとかして見せるもん! 具体的な計画とかはないけどね!
ところでなんですけど、私は最近裁縫技術を生かしてぬいぐるみを作り始めた。
自分で作ったぬいぐるみ、可愛すぎる。
ベッドがぬいぐるみで埋まったら、全然自分が床で寝るのでオッケーだわほんと。
しかも、私は世の中に貢献も始めた。
ぬいぐるみの修理のサービスを始めた。
学園では落ちこぼれなので誰も相手になんかしてくれないけど、小さい子とその親なら相手にしてくれるし、大体ぬいぐるみが壊れて悲しんでるのって小さい子だからね。
まあとにかくそういうわけで私は、自分の部屋の前に看板を構えて、ぬいぐるみの修理も請け負うようになったってことですわ。
そんな私は、ぬいぐるみに関して敏感になった。
どう敏感になったのかと言うと、壊れたり、修理した形跡がわかるようになった。
私が修理する時は、なるべく修理した時の縫い目が見えないようにしている分、そこまでこだわってない人がやったぬいぐるみの修理跡はすぐわかる。
多分普通にぬいぐるみを可愛がってる分には違和感ないんだろうけどね。
そんな私が…その能力を生かすきっかけが、まさか学園で起こるとは想定していなかった。。
けど起こった。
まず、私は基本的に学園でいい思いをしていないので、大人しく下を向いて歩いている。
で、そしたらぬいぐるみが落ちているのに気がついた。
そのぬいぐるみは、トカゲのぬいぐるみだった。太めのトカゲで可愛い系。
ていうか、イグアナっぽい。
陸に住んでるイグアナかな。それとも海に潜るイグアナかな?
謎のところでどっちか気になったりしつつ、私はそのぬいぐるみを拾ってみた。
うーん。柔らかい。
そして誰かの手作りっぽい。
なぜかっていうと、縫い慣れてない人が縫った縫い目が全体的に存在している。そして、修理跡がある。
うーん。これは誰のだろう。
私は推理することにした。
ひとまずトカゲは、学園の落とし物コーナーに届けておこう。
もっとも、あんまり機能してないコーナーだけどね。
それでもって、私はぬいぐるみの状態を完全に記憶した。
さて、推理を始めましょう。
まず、持ち主は男性の可能性が高い。
ぬいぐるみが手作りということは、自分で作ったか、誰かから贈られたかなんじゃないかなって思う。まあこれはちょっと確証が低いかな。
まあでもそうだと仮定すると、自分でトカゲのぬいぐるみを作る女性も、トカゲのぬいぐるみをプレゼントされる女性も、相当少ないと思うから、持ち主は男性。
偏見だけどね。
ワンチャン私とか嫌がらせで誰かから贈られそうで泣く。
というわけで、とりあえず男性と仮定。
そして、トカゲと言えば、ドラゴンに近い。
むしろ魔法を使えるようになったトカゲがドラゴンだとも言われている。
と、なると、ドラゴンと関係の深い人が持ち主なのではないでしょうか!
ドラゴンと共に、国を守り繁栄させてきたあの国の王子なら、とてもドラゴンと関係が深いと言えるだろう。
さらに、今、この宮殿の学園で学んでいると来た。
まあ私もね、学園で醜いだの言われたりしますけど、落とし物を本人に教えてあげるくらいはしますよ。
そもそもその王子は、私に嫌なことなんか一回も言ったことないしね。
その王子の名前は、レオン。
レオンに私は話しかけに行った。
「ねえ、ぬいぐるみ落とさなかった? トカゲの」
レオンは間を置いてから、ゆっくりと答えた。
「僕はぬいぐるみを落としてなんかないね」
「えっ。そうなの?」
はい。勘が鋭い私は分かりましたよ。
多分トカゲのぬいぐるみはレオンのなのに、なぜかレオンが自分のじゃないフリをしている。
なぜだろう。
まあ私の決めつけが間違ってたら元も子もないけど、いやいや、私の勘は結構当たりなことが多いですよ!
というわけで、私は、トカゲのぬいぐるみの謎をもっと探ることにした。
まず、念のため、手作りのぬいぐるみを売っている場所を探してみた。
商店街に行ってみると、小さな雑貨屋がいくつか手作りのぬいぐるみを売っていたけど‥でもトカゲのぬいぐるみは売ってなかった。
少なくともこの街で買ったものではないのだろうと推測。
もちろん私が知らない店がどこかにあるのかもしれないけど…。
やっぱり第一印象の通り、誰かから贈られたものか、自分で作ったものでしょ。
レオンがぬいぐるみを自分で作るのと贈られるの、どっちの方が想像できるでしょうか!
私的には贈られる方ね。
よし、だとすれば送り主を予想してみよう。
レオンを尾行したら私が怪しすぎて連行されちゃうかもしれないから、それはやめるとして…。
とりあえずやってみるべきは、レオンの国の歴史を勉強することだろうか。
落ちこぼれ生徒の私は気楽で暇なんで、そういう歴史の調べものとかする時間はたくさんある。
早速、学園の図書館に行ってみた。
ドラゴンとともに繁栄した、レオンの生まれた国の歴史の本を何冊かとってくる。
読んでみると…色々なことが分かった。
まず、ドラゴンの中には、変身することで大きくなる種類がいて、そういう種類が変身する前は、イグアナっぽいトカゲのような見た目であること。
そのような種類のドラゴンの生態の研究をしたのが、今の国王、つまり、レオンのお父さんであること。
だとしたら…。
トカゲのぬいぐるみは、お父さんから贈られた物なんじゃないだろうか。
私は予想がたったので、ウザいキャラになる覚悟で、レオンに推理を披露することにした。
「ねえねえ、トカゲのぬいぐるみ、お父さんから贈られたものなんじゃないの?」
「トカゲ? そもそも僕はぬいぐるみを落としてないんだって」
「そうかあ」
「なんでそんなに、その落とし物のぬいぐるみが気になってるんだ?」
「暇だからかな」
私は答えた。
みんなから諦められた存在だから、学園では本当に暇。落とし物のぬいぐるみは退屈しのぎよ。
そもそもぬいぐるみが好きな私。そこそこ持ち主には興味があるから、退屈しのぎの第一候補ってわけ。
と、いう詳しい説明はしなかったから、レオンはよく分からなさそうな顔をしていた。
まあそれでいいのよ。
私とレオンは、お互いの気持ちをわかりあう友達とかになるのは良くない。
なぜって、この学園で私は劣等生なんだから。
「とにかく、僕はぬいぐるみのことについては何も知らないってことで。ごめん」
「わかった」
私はうなずいた。
今深掘りしようとしても絶対無理だろう。
もっと色んな情報を探さないと。
まず、トカゲのぬいぐるみに何か特別な意味がある可能性はないだろうか?
ドラゴンの変身前って考えたら、例えば、子どもむけのなんかの記念とか?
成長を願うお祝い事とか?
そんな風習があれば、それ関係のぬいぐるみかもしれない。
私はまた図書館に行って、今度はもっとマニアックそうな本を読んでみた。
すると予想は当たっていた。
どうやら、子どもが10歳くらいの時に、成長を願って親からトカゲのぬいぐるみが贈られるものらしい。それがあの国で、国王が始めた風習。
じゃあめっちゃ大切なものじゃん!
と思ったけど、ならレオンが自分のものではないフリをするのがおかしい。
あ、もしかしてほんとにレオンのじゃないのかな?
その可能性が出てきた…?
いや、やっぱりレオンのような気がするよ。
論理的に考えてない自覚はあるけど、暇つぶしなんだから、そんなノリでいいでしょ。
そして、レオンのだとしたら、親と喧嘩したのだろうか。
というかそもそも、留学のようなものと噂には聞いているが、レオンはなぜこの宮殿の学園に通っている…?
成績は素晴らしいらしいし、全然勉学ができないからよその国で鍛え直してこい! みたいな感じでもないと思うし。
どういうことなんだろう?
とても気になる。
親と仲が悪くなって、まさか、国を出るまでになった?
王子がそうなったら結構話題になると思うから、やっぱり本当に留学で来てるだけなのかな…。でも最近親と喧嘩したとか?
親って言っても国王夫妻なわけだからな…。
私が、「いやー仲良くいきましょうよ!」とか言えないよ絶対。
となると、全然ここからやることなくなってくるんですけど。
退屈しのぎ、ここでおしまいか…?
と思った私。
マニアックな本たちを閉じて、図書館の椅子でダラダラしていた。
だけど、なんとレオンの方から話しかけてきた。
「こんなところで、僕の国に関する本を読み漁っているとはね。しかも最近の本が多いじゃないか」
「あ、ま、まあね。だって気になるんだもん」
「すごいね。そんなに熱心に物事に取り組めるのに、どうして成績は悪いんだい?」
「うわ。意地悪なこと言ってきた」
「ごめんって。でもさ、その本たちを読んだってことは、色々予想が立ったんじゃないの?」
「立ってるよ。でも、レオンは何を言っても認めようとしないでしょ?」
「どうだろう。ここまで深掘りしてくる人がいるとは思ってなかったからなあ…」
「まだ深掘りはしてない! 今これは、深掘りする準備中」
「結構頑固なんだね」
「頑固なのはそっち! しかも私の推理によれば、親とも喧嘩中でしょ?」
「そ、それはまあ、色々あるんだよ」
「まあ国王夫妻が親ってなると、大変よね」
ふふん!
結局、親と喧嘩したことを認めたも同然ね!
それならトカゲのぬいぐるみだって、親から贈られたものだけどいらないから落としても探さなかったってことよね!
私の思ったそのまんまね。
「で、なんか僕のことを色々理解してる親友だぜ的な雰囲気なのはなんで?」
「親友!? あ、全然親友とかになってる気はなくて…ていうか、私友達もいないからまず親友だぜ的な雰囲気とかもわかんないし」
「友達がいないの?」
「まあいないよ。だってこの学園での私の扱い知ってるでしょ?」
「そういえば…なんだ。俺より全然大変な目に遭ってるじゃん」
「そうなのかな? まあそれはいいのよ。私が聞きたいのはね、親と仲直りしないの? ってこと」
「もしかして、仲直りしてほしいと思ってるの? 優しいね」
「優しくないよ。暇つぶしの延長戦がしたいだけ」
「それを優しいと言います」
「流石に言わないでしょ」
「いや言うね!」
「あ、そう。で、仲直りはしないの?」
「まだしない。ちなみに喧嘩したのは最近だからね」
「あ、そうなんだ。じゃあこの学園にいるのは…」
「全然家出とかじゃないから。社会勉強だね」
「なるほど…そんな短期間の喧嘩なら、仲直りすればいいのに…」
「まあ、そうかなー」
「トカゲのぬいぐるみ、とりあえず落とし物コーナーに届けてあるからね」
「ありがとう…まあ気が向いたら、取りに行くさ」
レオンは去っていった。
ふん。素直じゃない男の子ね!
やっぱり男子は子供っぽいわ。同い年じゃなくてどこかで時間スキップしてんじゃないの?
とはいえ、私と違って、家柄も最上級で優秀な男の子でも、喧嘩とか悩んだりとかしてるんだな。
そこになんとなく親近感が湧いてきたのだった。
それからしばらくして、レオンが私に報告しにきてくれた。
「トカゲのぬいぐるみ、回収した」
「そんな、大していらないけど取りに行こうかなって感じの景品みたいな言い方しないの」
「してないし。まあいいのさ、親の機嫌をうまく取るのも僕のやらなきゃいけないことの一個ってことだ」
「仲直りできたんだ」
「まあとりあえずしたという扱いで」
「素直じゃなさすぎる」
「はいはい。まあとにかく、色々突っ込んでくれてありがとうな。そこはほんと優しくて助かった」
「優しい…」
「優しいって言われて嫌がるタイプか。仲間かもしれないな」
「えっ」
「本当に優しい人は優しいっていちいち言われるの嫌いだと思うから。俺は本当に優しくはなれてないけど、まずは優しいって言われてもいちいち喜ばないことにした」
「私があんまり喜んでないのそんな理由じゃないし、今レオンが言ったこと全然意味わかんない」
「あ、そう。まあいい。とにかく、多分気づいてないだろうけど、僕はこの学園ではぼっちなんだ」
「えっ」
「よその国の主の息子だから、変に関わりたくないのか分からないけど、全然馴染めてない」
「そうなの?」
「ぼっちから見たら気づかなかったかもしれないけど、俺もぼっちってことだな」
「そうなのかー」
「というわけで、これを機に友達にならないか?」
私はちゃんと、レオンの顔を見てみた。
普通にイケメンすぎる。ちょっと中性的。
友達…。
なってみるか!
だって私はみんなから諦められている。
婚約破棄もされた。
だから全然、よその国から来たイケメンでも強気で友達扱いしちゃうもんね!
だから私は、
「うん! 友達でよろしく!」
と返したのだった。
こうしてレオンと友達になった私。
レオンは私の裁縫技術に興味津々だった。
「す、すげー。ぬいぐるみって、こうやって作るんだ」
「そうよ。まあ本に書いてあったやり方をやってるだけだけどね」
「もしかしたらこの技術なら、父さんが保管している古のドラゴンのぬいぐるみも復元できるかもしれないな」
「古のドラゴンのぬいぐるみを復元!? ど、どういうこと?」
「ぬいぐるみを送る風習は、父さんが始めたものなんだ。けど、そのきっかけは、僕たちの国には、古くから伝わるドラゴンのぬいぐるみがたくさんあるからで、実際、ドラゴンは自分がモデルのぬいぐるみを見せるとその持ち主と良好な関係を結ぶ傾向があるんだ」
「じゃあ結構実用性があるってことね!」
「うん。ただ古のドラゴンのぬいぐるみは、壊れていて形が崩れているものも多い。それを復元すれば父さんはめちゃくちゃ喜ぶこと間違いなしだと思う」
「なるほどね。で、レオンも喜ぶの?」
「僕は…まあ喜ぶよ」
「微妙に素直じゃないですねえ」
そういうところが子供っぽいのよねー。
ていうわけで、友達同士だけど、どっちかと言ったら、私がお姉さんポジションかな。
私は、ふふん、と、心の中でだけニヤついた。
さらに、私は言った。
「レオンが喜ぶなら、私、本気でぬいぐるみの復元に取り掛かるけど」
「本当に!? なら父さんに頼んで、すぐにぬいぐるみをこっちまで送ってもらうよ。いやー、楽しみだね」
「これ、復元できなかったら怒られたりする…?」
「全然しないよ。ていうか、父さんは、流石に無理だったか。がはは、みたいなタイプだから」
「なんとなくわかった」
そしてその数日後。
レオンが復元してほしい壊れたぬいぐるみを持ってきてくれた。
「届いたよ」
「おー。結構形は崩れてないんだね」
「うん。ただ、おそらくここに翼がついていて、その翼が完全にない」
「な、なるほど」
「でも翼の形はわかってる。モデルになったドラゴンがわかってるからね」
「ふむふむ」
「こんな感じ」
レオンは本を見せてくれた。
なるほど、予想以上に大きな翼だ。これをふにゃふにゃさせずにドラゴンのぬいぐるみにつけるのには、割と工夫が必要そうだ。
うーん。まずは、ぬいぐるみの中に木の骨組みを入れることを想定しないとね。
あんまり太い骨組みだと固いぬいぐるみになってしまう。
とはいえ、中で折れたりしないようにしないといけないから、あんまり細くてもなあ…。
うん。結構じっくり考えて骨組みを用意しないとね。
というわけで私が木材の切れ端を集めて、せっせと自分の席で弄っていたら、レオンが、
「え、ぬいぐるみを作ろうと、本当にしてるの?」
と疑ってきた。
だからつい、
「してるよ! まあ見ててごらんよ」
と偉い職人みたいな返し方をしちゃった。
これはまずい。
かなりハードルを上げすぎたか?
これで軟弱でしおれている翼が出来上がったら、結構まずいぞ。
まずいので、より気合いを入れることにした。
まあ、私は気合いを入れたところで、パフォーマンスが上がるような人ではない。
手が震えて下がるような人だ。
だから、ゆっくり、すごい遅く翼の骨組みを作った。
「おおー、なるほど、まずは化石っぽい物から作るのか」
「化石じゃなくて骨でいいでしょ。絶滅した動物じゃないんだから」
「まあそうか」
今のところ感心してくれてる。
よし、じゃあもうこのまま集中モードに入っちゃいますよ!
やがて、骨組みが完成し、そこに綿と布を巻いていった。
そして、私の一番得意な所。縫い目が目立たない丈夫な縫い方を施す。
「できたよ」
「神過ぎる。すごい。翼がついてる。これで完成か!」
「いやいや、まだ細かい所を修復していきますよ」
「あ、そうなの? レベル高いなー。父さんもどう考えても喜ぶよ」
「そう言ってくれると、安心できるなあ…」
私は役に立てたのが嬉しかった。
学園で、別に立場がよくなったわけではない。
レオンの影響力は、ほんとは国王の息子だから絶対にあるのに、この学園に限れば本当に小さいみたいだ。
レオンに尊敬されても、周りからの評価は諦められた存在のまま。
それが気持ちいい。
実はすごい人に、実はしっかり認められている。
これ、いい展開。
心の中で調子に乗れる展開。
なので私は内心久々にすごく幸せを感じていた。
よかった。
学園でこんな気持ちになることあるんだ。
ほんとに感動だよ。
だけどそんな私が…机に嫌がらせの落書きを受けてしまう。
実はレオンと仲良くしているのを、誰かにひがまれていたのかもしれない。
わからないけど、色々悪口が机に書いてあって、一気につらい気持ちになってしまった。
「許せないな。そんな幼稚な嫌がらせ。必ず誰がやったか突き止めて謝らせないと。いや、まずは父さんに報告して、学園に動いてもらうよう要請をお願いしよう」
「うわ、おおごとだ…」
「でもそれくらいやらないとダメだと思うね。反省もしないよ。簡単には。だって机に悪口書くことを、実際にやっちゃってる人ってことだもん」
「そ、そうか。じゃあ…レオンのお力、借ります。レオンのお父さんのお力も、借ります」
「任せて!」
ということで、レオンのお父さんの圧力で学園に動いてもらったんだけど、なんと犯人がわからなかった。
そんな…。でも確かに、あれから悪口が机に追加で書かれることもなく、犯人は動きをやめて潜めてるっぽいから、どうしようもないのかも。
レオン「僕が自力で突き止めてみせる」
レオンがそう言った。
でも、レオンだって、具体的な作戦が思い浮かんでいるわけじゃないだろう。
ていうか、私を馬鹿にしそうな人が多すぎて、本当に誰がやったのかわからない。
悔しい。
でもレオンが本気でなんとかしようとしてくれてるのは、人生で初めての感覚だった。
味方? 友達? 信頼?
わかんないけど、心が安定する。
だから私自身でも犯人に近づいて、心置きなくレオンにお礼を言えるようにしなくちゃ。
そう考えていたら、思いついた。
ぬいぐるみを仕掛けよう。
私は机にぬいぐるみを置いて、そのぬいぐるみに細い糸を通して、レオンと離れた物陰に潜んでいた。
「糸はほとんどピンと張ってるの。そしてちょっとでも机が動いたらぬいぐるみが倒れるのよ」
「ちょっとでも机が動いたらここにいてもわかるのか」
「そうよ。そろそろ相手も油断して、ぱっと見誰も居なさそうなら、また机になんか書いて来そうじゃない?」
「可能性あるなあ。とはいえ、こんな狭いところで待つのでいいの?」
「仕方ないじゃん。良さそうな場所ここしかなかったんだから」
とはいえ近いから緊張するけどね!
ていうかこんなに近くで見ても美しいレオンの顔は凄すぎてなんなの?
いや理想的なイケメンですと言われたら、まあそれはそうなんだけど、感想としてはそんな感じよね。
で、そんなことに気を取られていたから、糸が引かれてびっくりした。
「わっ、だ、誰かがぬいぐるみを倒した!」
私がそう声を出している間に、レオンはもう動き出していた。早い。真剣な表情なのがわかる。
私はレオンを追った。
「誰だ!」
レオンが強くそう言って、そして私の席にいたのは…。
「が、学園長!?」
ここに来て、説明してなかったね、学園長のこと。
と言っても、みんながイメージする学園長のまんまだよ。
おじいさんの中では若い方って感じ。
で、なんで学園長が私の机で悪口を…?
流石に信じられなさすぎる。
だって学園長って学園で一番偉い人。
大人の見本って立ち位置じゃん。
完璧超人じゃないのはそりゃそうだけど…。
そんなに私のことが嫌いだったとは…。それに、レオンのお父さんが圧力をかけても何も進まないはずだわ。
ていうか、嫌いだとしても、そこまでするのはなんのために…。
私は不思議がっていたが、学園長は開き直っていた。
「私の立場として、仕方ないことなんです。あなたには、正体不明の悪口を書く人がいて、学園としても対処できないから、退学してもらう。そういうストーリーしかないんですよ」
「どういうことだ?」
レオンが怒りながら訊いた。
「だって、私の役目はレオン様に優等生でいてもらうことなのですよ。それなのに、劣等生と仲良くしていたら、強制的に縁を切らせるしかないでしょう。なのに、レオン様のお父様が言うんですよ。悪口の真相を突き止めろって。だからもう訳がわからなくて、でもこのストーリーは進めるしかないんです」
「ふざけんな! とんだ最悪のお節介だな。僕の父さんが正しい。そもそも、僕はお前みたいな人から見た優等生になんかなりたくないね」
こうしてレオンは私を庇ってくれた。
嬉しかったけど、なんか申し訳ない。
私が劣等生って部分は本当だから。
なのにレオンは続けた。
「僕はね、最近優しい友達ができたんだよ。だから邪魔すんなってこと!」
そんな風に大きい声で言ってくれるレオンだから、私はもちろんレオンに恋に落ちていた。
☆ ◯ ☆
10年後。
レオンは国王になり、私は国王の妻になっていた。
昔諦められていた存在だった頃を思い出して思う。
諦められていたのもそれはそれで気楽でよかったわね!
注目されるのほんと緊張するし。
でも思う。
今の方が幸せだってね。
「なんて私と結婚してくれたの?」
私はしつこいモード10段階中10になって、たまにレオンに尋ねる。
レオンはいつも、
「優しいからだよ。君の人生は、本当に優しい人が、優しいとちゃんと自分でも認められるようになるストーリーってわけだね」
そんな風に答える。
私はそれが嬉しい。
嬉しいと思えるのも嬉しい。
もう、優しいって言われるのは嫌じゃない。
8
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