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第11話「祭り」

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 日曜日の朝。

 俺は玄関の方からガチャリと音が聞こえてきたため、目が覚めた。でも、きっと気のせいだろうと思い、またすぐに横になった。
 隣ではアリナが今も俺に抱きついている。うん、幸せ。

 そして、再び目を閉じようとした時だった。

「おーい、翔~、まだ寝てるのか?」

 カズだ……!
俺は完全に目が覚めた。

 やばい……。この状況を見られてしまったらまずい。

「アリナ! 起きて!」

「んん~! まだ眠い~」

 俺はアリナの肩を揺さぶるが、アリナは一向に起きようとしない。
 カズの足音が徐々に近づいてきて――

 ガチャッ

 寝室のドアがゆっくりと開く。

「おーい、翔~、起き――」

 終わった……。

「これは違うんだ! あの何というか……」

「なんで浮気現場がバレたみたいな反応してるの?」

 あれ……?
 予想していたリアクションと違ったな。当然と言えば当然……なのか?
 カズにとっては、恋人同士が同棲していたらこういう状況になるというのも当然の出来事?

 それにしたって、カズのメンタルの強さは異常だな。

「んんっ? ふぁ~」

 ここでようやくアリナ、起床。
 眠たそうに眼を擦りながら俺とカズの顔を交互に見る。

「……ええ?! なんでここに和也さんが?!」

「いや、俺もドアを開けたら二人が抱き合いながら横になっているのを見たときはびっくりしたよ」

「あ! すいません!」

「いやいや、大丈夫だよ。勝手に入った俺が悪いんだし」

 カズも内心は驚いていたのか。
 つまり、無理して顔を作って見せていたのか。

 *****

 俺とアリナはカズを連れてリビングに行った。

「はい、これで許してくれ、カズ」

 俺は冷蔵庫に入っていた甘いお菓子をお茶と共にカズに差し出した。

「あははっ、なんで謝るんだよ。恋人同士なら普通なんじゃないか?」

 カズ、そうだとしてもな。お前の目が笑っていなくて怖いんだよ。

「いいから、いいから」

「二人とも本当にラブラブなんだな~。今、気づいたけど二人が着てるパジャマ、ペアルックじゃん!」

「あ、うん。昨日買ったんだよ」

「いいね! 二人とも似合ってるよ」

 やっぱりこいつはすごい奴だな。
 ……というか、カズはなんでうちに来たんだ?

「それで、なんか用があるから来たんだよな?」

「あ、そうそう。今日、三人で遊びに行かないか?」

「遊びにか。俺はいいけど、アリナは――」

 俺がアリナに遊びに行くかどうか尋ねようとすると、アリナは食い気味に答えてくる。

「私も行きます!」

「お、オッケー。じゃあ、すぐに支度しようか」

 俺とアリナはカズを待たせないように急いで支度準備を行った。

 俺たちは支度を終えると、戸締りをしっかりとして、家を出た。

「それで、どこに行くんだ?」

「今日から近くで祭りが開催されるんだよ」

「なるほど、祭りか。俺、夏祭りにしか行ったことないから楽しみだな」

 俺たち三人は徒歩で祭り会場へと向かった。
 普段ならアリナと手を繋ぐか腕を組むかのどちらかをしている場面だが、今日はカズに申し訳なさがあるので三人並んで歩いた。

 *****

「よし、着いたぞ~」

 祭り会場には、多くの屋台などが建ち並んでいた。
 ご当地グルメを販売している店もあれば、金魚すくい、ヨーヨー釣り、輪投げなどをして遊ぶことができる所もあった。

 隣を見てみると、アリナが目をキラキラさせながら屋台やその他の店を眺めている。

「アリナ、祭りに来るのは初めて?」

「はい! ずっと行きたかったんです!」

「今まではなんで行かなかったの?」

「特に理由はないんですけど、行く機会がなかったんですよ」

 なるほど。
 それなら、アリナが思う存分楽しめるようにしてやらないとな!

 やっぱり、祭りと言えば花火か?
 何時からなんだろう?

「なあ、カズ。花火って何時から?」

「確か……7時だったと思うよ」

「オッケー、それまで適当に屋台とか色んなとこ行ってみるか」

「そうだな。まだ時間も結構あるしな」

 俺たち三人は7時になるまで屋台等に行ってみることになった。
 よく考えたら、今日は何も口にしてない。腹も空いているからちょうどいいかもしれない。

 祭り会場には焼き鳥や焼きそばなどの香ばしくて良い香りが漂っており、それがより俺たちの腹を空かせてくる。

 俺たちはとりあえず、祭りと言えば定番の焼き鳥を買う。

「アリナ、はいどうぞ」

「ありがとう!」

 アリナは焼き鳥を口に運ぶ。
 アリナは、「ん~」と、とても幸せに満ちているような表情で焼き鳥を頬張る。

 俺はそんなアリナを笑みを浮かべながら見ていると、カズが話しかけてくる。

「翔は幸せ者だな。俺も彼女欲しいいいいいいい!」

「何言ってるんだ、カズ? お前なら作ろうと思えばすぐ作れるだろう」

「んー、なんて言うかこの人だっ! ってなる人があんまりいないんだよなぁ」

「なるほどな。それでも、すぐに見つかると思うぞ?」

「根拠はあるのか?」

「親友としての勘」

「ははっ、なんだそりゃ」

 俺たちが色々食べながら話しているうちに日も落ち、時間も七時に近づいてきていた。

「それじゃあ、花火がよく見えるとこまで移動しようか」

 カズは俺とアリナを連れて花火が良く見えるという場所へと連れて行った。
 そこに着くと、大勢の人が花火が上がるのを待っていた。
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