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蛇足②
旅路 8
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「あのー、お客さん?」
ぼーっと焚き火を眺めたまま、どの程度時間が過ぎただろうか。
軽いトリップ状態にあったらしい。
人に声をかけられ、急に意識が覚醒した。
さっきまでぼんやりと炎しか捉えてなかった視界は広がり。
周囲の環境音も、耳に入る。
トリップってのはちょっと言い過ぎな気もしたが。
自然の中ってのは案外音の多いもので。
それを気にも留めず、ただ焚き火を眺めることだけに集中していた状態。
これをトリップと言わずになんというのか。
まぁ、んな話はどうでもいいのだ。
声を掛けられた方へ振り返ると商人が1人。
なんの用だろう。
「だ、大丈夫なのか?」
「ん? おう」
どうやら心配させてしまったらしい。
ずっと焚き火眺めてたからな。
後半の方は酒もつまみも無しに、ただひたすらボケーっと。
この様子だと。
既に、何回か声かけられてるのかも。
問題はない……はず。
ちょっと熱でもある様に意識がぼんやりしているけど。
いつもの症状。
前世から、長いこと焚き火のそばにいると似たような状態になるのだ。
なので大丈夫だと思われる。
「夕食の準備が終わったんで、声かけたのだが」
なるほど?
改めて見ると、商人の手には深めのお椀。
木のスプーンが添えてある。
俺の分の食事ということだろう。
「ありがとうございます」
軽く頭を下げ、食事を受け取る。
商人はと言えば。
俺に渡すなりそそくさと焚き火の側を離れていった。
目で軽く追ってみた感じ。
どうやら、他の人は集まって食べてるらしい。
簡易的ではあるが。
椅子と机まで用意されていた。
少し、会話が聞こえてくる。
1人焚き火の前にいたせいだろうか?
完全に孤立したっぽい。
まぁ、どうせこの旅の間だけの短い関係なので良しとしよう。
商人を視線で追ったついでに、周囲を見渡す。
いつの間にか日も傾き日没まで半刻もないぐらいの時間帯。
焚き火から少し離れた場所にはテントが完成していた。
それ以外の細かい物も含め。
俺が1人くだらないこと考えてる間に、ほぼ設営は完了してたらしい。
渡された食事に関しても。
これ、調理は目の前の焚き火でやっていたと思うが。
わざわざ調理のためだけに、他に火種用意するなんて面倒だし。
する訳ない。
視界には間違いなく入ってはいたはずなんだけど。
全然気づかなかった。
いや、トリップって怖いね。
……
改めて、商人から受け取ったお椀に視線を落とす。
スープだろうか?
少しどろっとしていて、すいとんの様な練り物が一つ。
他には、小さめの具材がいくつか浮いている。
夕飯といっても大した物じゃない。
軽食だ。
この世界、宿でさえそんな感じのとこが多いからね。
馬車となれば尚更。
そもそも運ぶのにも無駄に場所取っちゃうし。
最低限。
こんなものだ。
あるだけありがたいと思った方がいい。
道中で美味い飯を食いたければ、貴族が使うような高い馬車を予約するか。
もしくは自分で用意するしかないな。
「いただきます」
まずは汁だけをすくって口をつける。
あっつい。
そして、見た目通りとろみのついたスープだ。
このとろみ……
つけたってよりはついたって感じだな。
木の実と、細かく刻まれた肉が入ってるらしい。
この肉は塩漬けだろうか?
しょっぱい。
ただ、味付けはそれだけなのだろう。
薄味のスープに。
結構いいアクセントになっている。
塩と後は素材の味で勝負って感じ。
本当に、ザ素朴って味がする。
だが、これはこれでなかなかいい物がある。
店で食べるのとは違う。
こういう食事特有の良さがあるのだ。
キャンプの料理なんてね。
究極言って仕舞えば、これでいいのだ。
周囲の自然。
温かい飯。
パチパチと燃える炎。
これだけでなんと素晴らしい。
練り物の方にも口をつける。
食感としては見た目通りすいとんに近い物がある。
……ただ。
これ蕎麦がきか?
すいとんよりはそっちに近い気がする。
この世界にも前世のパンに近い食べ物は存在する。
脱穀が足りないせいか、小麦っぽいだけで小麦じゃないのかは知らないが。
俺の様な庶民が食べるものは前世の白いものと結構味も違う。
それでも、まぁパンだろうなって味だ。
その経験から行くと、これは単純な小麦粉じゃない。
いくつか混ぜ物がしてる気がする。
風味が明らかに違うのだ。
といっても、別に蕎麦の風味がする訳でもないのだけど……
食べたことないから知らないが。
もしかしたら、これアワやヒエに近いのかもしれない。
証拠はない。
単なる偏見から来た、素人の予想である。
ほら、なんか安い感じしない?
歴史の授業なんかで。
貧しい農民が食べてたってイメージ。
ちなみに味は悪くなかった。
これはアワやヒエに案外ポテンシャルがあったってことでいいのだろうか?
まぁ、ただの勘だ。
冷静に考えれば外れてる可能性の方が高いんだけどね。
ぼーっと焚き火を眺めたまま、どの程度時間が過ぎただろうか。
軽いトリップ状態にあったらしい。
人に声をかけられ、急に意識が覚醒した。
さっきまでぼんやりと炎しか捉えてなかった視界は広がり。
周囲の環境音も、耳に入る。
トリップってのはちょっと言い過ぎな気もしたが。
自然の中ってのは案外音の多いもので。
それを気にも留めず、ただ焚き火を眺めることだけに集中していた状態。
これをトリップと言わずになんというのか。
まぁ、んな話はどうでもいいのだ。
声を掛けられた方へ振り返ると商人が1人。
なんの用だろう。
「だ、大丈夫なのか?」
「ん? おう」
どうやら心配させてしまったらしい。
ずっと焚き火眺めてたからな。
後半の方は酒もつまみも無しに、ただひたすらボケーっと。
この様子だと。
既に、何回か声かけられてるのかも。
問題はない……はず。
ちょっと熱でもある様に意識がぼんやりしているけど。
いつもの症状。
前世から、長いこと焚き火のそばにいると似たような状態になるのだ。
なので大丈夫だと思われる。
「夕食の準備が終わったんで、声かけたのだが」
なるほど?
改めて見ると、商人の手には深めのお椀。
木のスプーンが添えてある。
俺の分の食事ということだろう。
「ありがとうございます」
軽く頭を下げ、食事を受け取る。
商人はと言えば。
俺に渡すなりそそくさと焚き火の側を離れていった。
目で軽く追ってみた感じ。
どうやら、他の人は集まって食べてるらしい。
簡易的ではあるが。
椅子と机まで用意されていた。
少し、会話が聞こえてくる。
1人焚き火の前にいたせいだろうか?
完全に孤立したっぽい。
まぁ、どうせこの旅の間だけの短い関係なので良しとしよう。
商人を視線で追ったついでに、周囲を見渡す。
いつの間にか日も傾き日没まで半刻もないぐらいの時間帯。
焚き火から少し離れた場所にはテントが完成していた。
それ以外の細かい物も含め。
俺が1人くだらないこと考えてる間に、ほぼ設営は完了してたらしい。
渡された食事に関しても。
これ、調理は目の前の焚き火でやっていたと思うが。
わざわざ調理のためだけに、他に火種用意するなんて面倒だし。
する訳ない。
視界には間違いなく入ってはいたはずなんだけど。
全然気づかなかった。
いや、トリップって怖いね。
……
改めて、商人から受け取ったお椀に視線を落とす。
スープだろうか?
少しどろっとしていて、すいとんの様な練り物が一つ。
他には、小さめの具材がいくつか浮いている。
夕飯といっても大した物じゃない。
軽食だ。
この世界、宿でさえそんな感じのとこが多いからね。
馬車となれば尚更。
そもそも運ぶのにも無駄に場所取っちゃうし。
最低限。
こんなものだ。
あるだけありがたいと思った方がいい。
道中で美味い飯を食いたければ、貴族が使うような高い馬車を予約するか。
もしくは自分で用意するしかないな。
「いただきます」
まずは汁だけをすくって口をつける。
あっつい。
そして、見た目通りとろみのついたスープだ。
このとろみ……
つけたってよりはついたって感じだな。
木の実と、細かく刻まれた肉が入ってるらしい。
この肉は塩漬けだろうか?
しょっぱい。
ただ、味付けはそれだけなのだろう。
薄味のスープに。
結構いいアクセントになっている。
塩と後は素材の味で勝負って感じ。
本当に、ザ素朴って味がする。
だが、これはこれでなかなかいい物がある。
店で食べるのとは違う。
こういう食事特有の良さがあるのだ。
キャンプの料理なんてね。
究極言って仕舞えば、これでいいのだ。
周囲の自然。
温かい飯。
パチパチと燃える炎。
これだけでなんと素晴らしい。
練り物の方にも口をつける。
食感としては見た目通りすいとんに近い物がある。
……ただ。
これ蕎麦がきか?
すいとんよりはそっちに近い気がする。
この世界にも前世のパンに近い食べ物は存在する。
脱穀が足りないせいか、小麦っぽいだけで小麦じゃないのかは知らないが。
俺の様な庶民が食べるものは前世の白いものと結構味も違う。
それでも、まぁパンだろうなって味だ。
その経験から行くと、これは単純な小麦粉じゃない。
いくつか混ぜ物がしてる気がする。
風味が明らかに違うのだ。
といっても、別に蕎麦の風味がする訳でもないのだけど……
食べたことないから知らないが。
もしかしたら、これアワやヒエに近いのかもしれない。
証拠はない。
単なる偏見から来た、素人の予想である。
ほら、なんか安い感じしない?
歴史の授業なんかで。
貧しい農民が食べてたってイメージ。
ちなみに味は悪くなかった。
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