兵器な少女

哀上

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24話 日常の再開

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24話 日常の再開
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 チュンチュン、チュンチュン、

 そんな小鳥の囀りが聞こえてきそうな、気持ちの良い朝だ。
 私は窓から差す柔らかな朝日でぼんやりと目を覚ます。
 そして隣に視線を向けると、ヴィーナの顔が私の真横にあった。

 気持ち良さそうな寝顔だ。
 可愛い。
 まさに、天使。

 ……あれ?

 頭がフリーズした。
 これが朝チュンってやつだろうか、なんて見当違いな方向へと思考が回る。
 しばらくして、当然の結論へと至る。

 そういえば、昨日一緒に寝たような……と。

 昨日の私は警察に空き巣に入られ荷物がすっからかんだった。
 だから、ヴィーナにパジャマを借りてヴィーナと同じ布団で寝ることになったんだった。
 一緒に寝たんだから、起きた時隣にいるのは当然だろう。

 なーんだ、びっくりして損した。
 何か、よろしくないことでも起こってしまったのかと。
 別に問題ないな、うん。

 でも、ヴィーナが私に抱きつくように寝てるせいで、その……体のいろんな所が押し付けられるように当たっている。
 昨日お風呂で裸を見たばかりで、感触からその姿が浮かんでしまって。
 逃げようにも抱きつかれているので逃走は至難の技だ。

 そりゃ、無理に外せば逃げられるだろうけど。
 こんな気持ち良さそうに寝ているヴィーナを起こすのは、どこか忍びないと言うか。

「んっ、……?」

 悪戦苦闘していたら、ヴィーナの瞳がパチリと開いた。
 まだ眠いのか目をしょぼしょぼさせている。
 どうやら、結局ヴィーナのことを起こしてしまったらしい。

「あ、おはよう。リーリアちゃん」

「ヴィーナ、おはよう」

 横でヴィーナが伸びをする。
 寝ている間に外れてしまったのか、パジャマのボタンがいくつかしまっていない。
 そんな状態で伸びなんてするから、ヴィーナの胸元が強調されて、

 ……

 そんなことを思っていたら、視線が合ってしまった。
 気まずい。
 別に私は悪くない、ヴィーナがそんなはだけた格好でそんなことするのがいけないと思う。

 私が気まずげに視線を逸らしていると、突然頬にキスされた。

「!? なに、突然?」

「ん? 挨拶だよ」

「え?」

「知らないの? 外国じゃ起きたらこうやって挨拶するんだよ」

 焦る私に、当然のこととでも言うようにヴィーナが告げる。
 そうなんだ。
 初めて知った。

 ……あれ?
 一瞬納得しかけたけど、ヴィーナもこの国の出身では?
 多分、他の国に行ったこともないよね?

 いや、詳しくは知らないけど。
 でも、戦時中の国で政治家の娘って考えたらねぇ。

「それ、どこの国の文化?」

「どこだっけ?」

 ヴィーナがそう言って、ニヤけながら惚ける。
 騙された。
 でも、私も釣られて笑ってしまう。

「ほら、リーリアちゃんも起きて。そろそろ起きないと遅れちゃうよ」

 いや、ヴィーナが抱きついてたから起きられなかったんだけどね。
 私は先に起きてたし。
 でも、そんな焦らなくても別に今日何か特別なことなんて……

 あ、
 ヴィーナが着替えてる所を見て、ハッとした。
 そういえば、私学生なんだった。

 昨日が初日だったけど、なんか学園以外での出来事が多すぎてそれが意識から抜け落ちていた。
 今何時だ?
 昨日帰ってくるの遅かったから……

 急がないと。
 遅刻は厳禁だ。
 寮生活1日目から遅刻なんて、同室のヴィーナも一緒に怒られてしまうかもしれない。

 急いで制服に着替える。
 荷物も大丈夫。
 よし、準備オッケ。

「リーリアちゃんも準備終わった?」

「うん」

「じゃあ、行こっか」

 そう言って、手を差し出された。
 私はその手を自然に取る。
 やっぱりコレ、私との移動の時はデフォなんだ。

 周りからもやたらと視線を感じる事になるし、結構恥ずかしいんだよ?
 教室の場所なんて当然把握出来てるし、そもそも別に手を繋がなくても迷子になんてなったりはしない。
 だから、必要なんて無いんだけど……

 でもまぁ、この手を無理にでも振り払いたいとは思わない。

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 教室に着いた。
 授業の準備しないと、たしか今日の一限目は国語だ。
 あ、国語かぁ。

「……マイケル」

 ため息が出る。
 結局分からないままだったんだよなぁ。
 今日もきっと昨日の続きだよね。

 どうしよう。

「だれ、それ?」

「誰って、」

 私が悩んでいると、ヴィーナに肩を叩かれた。
 そうだ、ヴィーナに教えてもらおう。
 振り返ると、何故か怒った顔をして腕組みしていた。

 え?
 何で?

「もしかして、リーリアちゃんの彼氏? でも、居ないって言ってたよね。好きな人とか?」

「いや、違うけど?」

 一体、何がどうなってそんな話になったのだろうか?
 というか、ヴィーナは私に彼氏がいたら何か不満でもあるのか?

 私みたいなお子様に、彼氏はまだ早いとか?
 そんなの心外である。
 確かに、作るつもりはないけど。

「じゃあ、誰?」

「昨日、国語の授業に出てきた小説の」

「あぁ、なるほど」

 よく分からないけど、ヴィーナの機嫌は治ってくれたようだ。
 勘違いが恥ずかしかったのか、少し頬が赤い。

「ヴィーナってマイケルのこと知ってる?」

「え?」

 私の問いに、今度はヴィーナがハテナ見たいな顔をする。
 どうも意思疎通がうまく行ってくれない。
 今まで私がいた所とは違って前提の共通認識がないせいもあるのだろうけど、少々もどかしい所がある。

「昨日の授業がよく分からなくて」

 知っておかないと、また置いて行かれてしまう。
 別に成績とかはどうでも良いのだ。
 しかし、昨日の出来事から私がしばらく学生なのは確定だろう。

 嫌だよ?
 色々と庇ってもらって、引き続きヴィーナと同じ学園に通えることになったのに。
 成績足らないから退学ですなんて。

 いや、退学になるのかは知らないけど。
 でも留年とかはあるだろうし、とにかく最低限は出来ないと困るのだ。

「そんなの、読めば分かるよ」

「はぁ、天才はこれだから」

 博士もそうだ。
 説明が下手くそなのだ。
 何故分からないのか、それを分かってくれない。

「天才って、教科書の小説だから誰でも分かるようになってるんだよ」

「むぅ」

 まぁ、よくよく考えてみれば昨日の授業でも分からなそうにしてたのは私ぐらいか。
 誰でもねぇ。
 私には、人の気持ちがいまいち理解出来ないのだ。

 それが文に書かれたものとなれば、よりいっそう。
 合理から外れた行動を取るマイケルが、私には頭の抜けた少年にしか見えない。
 その行動を理解するのに頭を使うことすら、どうも忌避感を感じてしまう。

「仕方ないなぁ。授業までの間、ちょっとだけ教えてあげる」

「ありがとう」

 さすが、ヴィーナ。
 さすが、天使。

 昨日授業でやった部分を読み返す。
 分からなかったら質問するつもりで読み始めて、……あれ?
 一通り読み切ってしまった。

「どこが分からないの?」

「いや、昨日は分からなかったきがするんだけど」

 なんか、理解出来る?
 どうして?

「昨日中途半端な所からだったし、初めての先生だったし、そう言うのじゃない?」

「そうかな?」

「うん。ね、読めば分かったでしょ? 私、別に天才とかじゃないから」

「ごめん」

「許す!」

 そう、なのかな?
 そう言うのじゃない気がする。
 なんかすっと頭に入ってきたと言うか……

 それに、何だろうこれ。
 読んでいて、面白いって感じる。
 本を読んでそんなこと、考えたこともなかったのに。

 頭が弱そうでウザかったマイケルに、何故か共感出来てしまう。

 マイケルは悩んでいるみたいだ。
 とある相手のことを常に考えてしまう。
 それって、何だろうかって。

 私もだ。
 私も、ヴィーナのことが気になっちゃう。
 一緒だ。

 これ、ちょっと続き気になるな。

「え!?」

「どうしたの? リーリアちゃん」

「い、いや。何でもない」

 マイケルの友達が、それは恋だよって。
 恋?
 恋って何だ?

 いや、知っている。
 子供作るってことでしょ?
 私、ヴィーナと子供作りたいの?

 いや、そんなわけ。
 女同士だし。
 でも、軍にも男同士でイチャイチャしてる人とか居たし……

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