悪役令息に転生したので、断罪後の生活のために研究を頑張ったら、旦那様に溺愛されました

犬派だんぜん

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番外編

6. 弟の願い 1 (アルベルト視点)

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 私の4歳年上の兄上は、とても綺麗だ。

 私が2歳までは一緒にこの屋敷に住んでいたらしいのだが、私は覚えていない。
 私が5歳の時、学園に通うために、療養先の領地から王都に戻っていらっしゃった兄上に初めて会ったときは衝撃だった。こんなに綺麗な人がいるのかと思った。

「ははうえ、あにうえは、みつかいさまですか?」
「御使い様ではありませんよ」
「でも、とてもきれいです」

 家族なので一目惚れというのはおかしいが、とにかく綺麗で、少しでも近づきたいと思ったが、兄上はつれなかった。

「あにうえ、ここでなにをしているのですか?」
「アルベルト、ここへ来るのはきんしされているでしょう?」
「でも、あにうえとあそびたいです」

 兄上の邪魔をしないようにと、私は温室と調薬小屋に立ち入ることを禁止されていた。
 けれど、兄上は屋敷にいるときはいつも温室か調薬小屋にいて、会いに行かなければ食事のとき以外は会えない。調薬小屋には絶対に入れてもらえないから、兄上が温室にいる時にはこっそり会いに行っていた。
 けれど、ある時から、兄上が温室の中から鍵をかけて入れないようにしてしまった。

「あにうえは、わたしがきらいですか?」
「ここにはあぶないものもあるから、ひとりで来てはダメですよ」
「はい……」

 ひとりでなければ温室へは行けない。ひとりで行ったら温室には入れてもらえない。温室では遊んでもらえないのだ。
 落ち込んだけど、でも、こんなことで諦めてはいられない。

「あにうえ、きょうはなにをされたのですか」
「アルベルト、お食事中です。大人しくなさい」
「でもいましか、あにうえとはなせないのです。あにうえ、なにをされたのですか?」
「ちょうやくです」
「ちょうやくってなんですか?」
「薬を作ることよ。リヒターは薬学が好きなようですね」
「はい」
「あにうえ、くすりがつくれるんですか。すごいです」

 食事の時、部屋の前でばったり会った時、とにかくチャンスがあれば、兄上に話しかけ、まとわりついていた。

「アルベルト、リヒターは第二王子殿下の妃になるための勉強が忙しいのです。邪魔をしてはいけません」
「だったら、おうちにいるあいだはおはなししたいです。おきさきさまになったら、もうあえないのでしょう。ははうえ、おねがいします」
「リヒターがダメと言ったら止めるのですよ。いいですか?」
「はい!」

 兄上と仲良くなるためなら、泣き落としだってなんだってした。
 お陰で私が学園に入るころには、質問すればなんでも答えてくれるようになった。
 今思うと迷惑だっただろうけれど、兄上は邪険にせずに相手をしてくれた。

「兄上、このまほうじんのいみが分からないので、教えてください」
「アルベルト、こっちは分かりますか?」
「はい」
「こことここが一緒でしょう。こちらを基にして付け加えているのです」
「なるほど」
「基となるものをまず覚えて、そこにどういう修飾がつけられているかを考えると分かりやすいです」

 兄上はとても頭がいい。綺麗なうえに頭がいいって、子どものころに思った御使い様というのも、あながち間違っていないような気がする。
 けれど兄上は、父上や母上、妹のアマリアとはほとんど話さない。私だけに話してくれるのは、嬉しくもあり、少し心配でもある。子どものころに父上や母上と何かあったのかもしれない。
 兄上と家族を結ぶのは自分なのだと、それから余計に兄上に話しかけるようになった。話しかける口実として勉強を教えてもらっていたので、おかげで私の学園の成績はトップクラスだ。


 兄上が最終学年になって、兄上の婚約者である第二王子が、男爵子息をおそばにおかれるようになった。兄上という婚約者がありながら、あのピンク頭のどこがいいんだ。

「兄上、その……」
「アルベルト、どうしました?」
「殿下の……」
「殿下がどうかされた?ああ、もしかして男爵子息のことですか。学園を卒業されるまではお好きになさればいいと思っています」

 兄上はすべてご存じで、その上でどうでもよさそうだ。
 兄上にとって、殿下との婚約は、貴族としての義務でしかないのかもしれない。今も目の前の調薬のほうが大切そうだ。学園に入学して薬学の授業が始まってからは、
 私も調薬小屋を使わせてもらえるようになった。といっても薬学の授業では基本的な物しか作らないので、兄上が片手間に作れてしまうようなものばかりだ。

 兄上と話すようになって分かったが、兄上は人に対する興味が薄い。兄上が誰かに愛を囁く場面が想像つかない。殿下とは白い結婚になるのかもしれない。

 そう思っていたが、兄上の卒業パーティーで、まさか殿下が婚約破棄を宣言されるとは思っていなかった。
 そして、父上は兄上を領地に謹慎させるという。今回のことをうやむやに終わらせないためだと分かっているが、それでも悔しい。後1年は屋敷で一緒に暮らせると思っていたのに。

「兄上、あの男爵子息のせいで……」
「アルベルト、アルベルトに負担をかけて申し訳ないけど、私には王都よりも領のほうが合っているから」
「いえ、兄上は悪くないのですから」

 兄上、領地に行くのがそんなに嬉しいんですか。ずいぶんと晴れ晴れとしたお顔ですね。
 兄上と会えなくなるなんて、あの男爵子息、許すまじ。


 第二王子殿下は、卒業パーティーでの振る舞いを理由に王位継承権を剥奪され、伯爵家の養子になられた。
 これで、兄上に非がなかったと周知されたのだ。よかったよかった。また兄上と一緒に暮らせる。

 けれど父上が兄上を王都に呼び戻そうとなさらない。
 それを聞いた時に、兄上が子どものころ領地に出された理由を聞かされた。

「リヒターは私たちをきっと恨んでいる」
「そうだったんですか。でも多分兄上は恨んでなどいないと思いますよ」

 兄上は恨んでなどいない。あの兄上が、人に興味の薄い兄上が、誰かを恨むほどの強い感情を持つと思えない。
 けれどそれが人への興味を失わせた原因なのだろう。私がまとわりついて、兄上は迷惑だったのだろうか。

 一度だけ、兄上に母上が嫌いなのかと聞いたことがある。その時の答えは、どう接していいか分からない、だった。
 兄上も母上に気を遣っていらっしゃるが、母上もまた兄上にものすごく気を遣っていらっしゃる。今回の婚約破棄の後も、もし兄上が家を継ぐことを望んだら譲るようにと、父上には内緒で言われた。あの兄上が当主の座など望まれるとは思わないが、望まれるならもちろんお返しする。
 きっと母上には負い目があって、兄上に遠慮していらっしゃる。子どものころからとにかく兄上の邪魔をしないようにと言われて来た。王子妃になれば好きなことはできなくなるから、公爵家にいる間は好きなことを存分にできるように邪魔をしてはならない、と言い聞かされていたのだ。
 ちなみに妹のアマリアは母上に影響されたのか、兄上には話しかけようとしない。ただ、たまに遠くから兄上をうっとりと眺めているので、憧れはあるのだろう。

「父上、兄上をどうなさるおつもりですか?このままおひとりで領地に住まわせるのですか?」
「アルベルト、お前には申し訳ないが、私はリヒターにやりたいことをして自由に生きてほしいと思っている。たとえあの子が公爵家を捨てても」
「父上……」

 たしかに兄上は公爵家の長子とはいえ、跡取りでもなく、婚約破棄のこともあり、さらに薬師として公爵家の後ろ盾などなくとも生きていける腕もあって、普通の貴族の子息よりは自由にできる環境が整っている。
 でも父上、そんなこと言わないでください。兄上が嬉々として出て行く姿が目に浮かびます。そんなことになったら、会えなくなるじゃないですか。

「あの子には、王都で貴族として生きるよりも、領地で好きなことをしているほうが合っているだろう」
「旦那様、それではまたリヒターがひとりになってしまいます」
「そうだな。誰かあの子を領地で見守ってくれる相手を探すか」

 母上、ナイスアシスト。
 けれど兄上を見守ってくれる人など、見つかるだろうか。
 調薬小屋から出てこない兄上に理解にある人でなければならないが、研究者ではお互い好き放題して周りが大変そうだ。

 父上が兄上を王都に呼び戻して、茶会が開かれているが、心配した通り上手くいかない。
 まず、兄上が全く興味を持たない。父上のいい人に決めてくださいと言って、調薬小屋に籠ってしまう。領地には兄上用の調薬小屋がないので急ぎ作らせているそうだが、久しぶりに調薬できると張り切って籠っているのだ。
 それに学園を卒業する年齢には相手が決まっているのが普通だ。決まっていない人は、焦って相手を探している人で、そこに兄上という超優良物件が出てきたのて、このチャンスを逃がさないようにと必死だ。そんな熱意あるアピールは、むしろ兄上には逆効果にしかならない。

 兄上が王都にいてくださるのは嬉しいが、だんだん領地に帰りたいという気持ちが見え隠れするようになった。
 そろそろ領地の屋敷にも兄上専用の調薬小屋が出来上がるようだから、引き延ばせてそこまでかも知れない。

「アルベルト、どうした。ため息ばっかりついて」
「ちょっと兄上のことで」
「ああ、婚約者を探していらっしゃるんだったな」
「上手くいっていないのか?申し込みが殺到していると噂になっているが」
「兄上の研究を見守ってくださる方がいいんだが、なかなか……」

 ジェイムスとカールは学園で仲の良い友人だ。ふたりともいずれ私の側近になることを期待されている。

「土壌改良の研究をなさってるんだったよな。研究者同士とか?」
「申し込んでくる研究者は、自分はこういう研究がしたいという方ばかりだそうだ」
「あー、公爵家の後ろ盾で研究できるとなれば売り込むか」
「まあ後見しても良いと思える研究もあったらしいから、それはそれでいいんだが、兄上を任せるのはな……」
「リヒター様の理想が高いのか」
「違う。兄上は自分で相手を探したりしないだろうからと父上が必死なんだ」
「婚約破棄されたばかりだものな……」

 いや、そうじゃない。傷心とかそういうことじゃないが、違うと言えない。
 兄上が調薬小屋に籠っても見守ってくれて、でも度が過ぎると連れ出してくれるような人が見つかって欲しい。
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