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第十話
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【side ユージーン】
王城を目の前に一度ローラと別れる。脱出時に備えて裏口に回ってくれるローラ。相変わらずできた相棒だ。聖剣を鞘から引き抜き、臨戦態勢のまま王城へと足を踏み入れた。
「ゆ、勇者様?!剣をお納めください!ここは王城ですよ!」
「お待ちください!せめて正規の手順を踏んでから......」
「......ぅるせぇ」
「は?今なんと」
「うるせえっつってんだよこの公僕共が!!そっちがその気ならこっちも好きにさせてもらう!第二王子と巫女はどこだ?!」
オロオロとするばかりで一向に有益なことを話さない門兵たちに怒りが募り、側にあった守護竜の像を真っ二つに切り倒した。
「あいつらはどこだ?早く言わねえと次はお前らがこうなるぞ」
俺は元々貴族なわけじゃない。勇者としての功績が認められる前は下級騎士で、身分もただの庶民だった。騎士になってからと言うものの努力してお行儀良く振る舞ってはいるが、本来は輩もビックリの柄の悪さだ。騎士になったのも、庶民街の悪ガキを締め上げてまわっていた所をスカウトされたのだ。
「ひ、ひいっ!命だけはっ!」
「西側の庭園です!今日はガーデンパーティーをするって!」
「そうか、助かったよ。命は大切にな。あとこの手紙を王妃殿下にお渡ししろ。いいな?」
「「は、はいぃぃぃ!!」」
ポンと二人の肩を叩いてから、西に向かって一直線に走り出す。とにかく時間が惜しい。今この瞬間もアシェルに何かが起こっているかと思うと城ごと消してしまいそうだった。余計な壁はひたすら切って、壊して、庭園を目指した。
大きな爆発音と共に庭園に辿り着くと、呆気にとられた令嬢たちとその奥にまるでもう女王にでもなったかのように踏ん反り返った巫女と目があった。
「ジーン!?来てくれたのね!やだあたしったら、あなたが来るって知ってたらもっといいドレスを......」
「アシェルはどこだ?」
「ジ、ジーン?どうしちゃったの?」
「もう一度だけ聞く。アシェルは、俺のアシェルはどこだ?」
どっかりと座り込んだ巫女の首に聖剣を突き立てる。今まで自分に絡むだけだったから放っておいたが、アシェルに手を出すのなら容赦はしない。
「誰よアシェルって!知らないわよ!」
「しらばっくれるか。それなら言うまでお前の指を切り落としてやる。指の次は耳、鼻、目を抉り取って......」
「わかった、わかったわよ!魔王なら地下牢よ!でも、」
ニタリと悪魔のように笑った巫女は生毛立つような気味の悪い声で囁いた。
「変わった趣味をお持ちの殿方を数名向かわせたから今頃......んふ」
怒りで血が沸騰しそうだった。目の前の売女を今にも殺しそうになる。すんでのところで聖剣を地面に突き立てた。
「覚えてろよ?これ以上好きにできると思うなよアバズレが」
「何よ何よ!あたしの方があなたにふさわしいのに!」
幼子のように喚き続ける巫女を文字通り捨て置き、再び真っ直ぐ地下牢を目指す。
そこにいたのはもう“勇者ユージーン”ではなかった。
*
そもそも着の身着のまま連れてこられたのだ。ユージーンが用意してくれた着心地の良いシャツもトラウザーズも簡単に脱がされてしまった。魔力欠乏症のせいかそれとも。寒くて寒くて震えが止まらない。幼い頃からどんな危機も自分で解決してきた。でも、それができたのは全て膨大な魔力があってこそだ。魔力が無ければ私はカーラやカルムよりもずっと軟弱なのだ。
「見ろよ、こいつそこらの女よりも色白だ」
「この髪と目が無けりゃあなぁ、娼館にも高値で売れるぜ?」
「マニアに売ればそこそこになんだろ」
「石にしちまうのは勿体ねえなぁ」
大の男四人を相手に下履き一枚ではどうすることも出来ない。手首の手錠を持ってずるずると引き摺られると、壁から飛び出たフックに引っ掛けられてしまう。ぴんと背伸びしてギリギリ届く高さのせいで内腿がプルプルと震えてしまう。しかし、今力を抜いたら肩に体重がかかって最悪外れてしまう。
「ぅっく、は、離せっ」
「ははっ、やめとけやめとけ!」
「暴れても無駄だぞー、魔王様」
抵抗なんてろくに出来ないとは分かっていても、血が滲むほど必死に腕を揺らす。この手錠さえ外せれば下級騎士四人程度どうにでも出来るのに。
「うはぁ、肌柔らか!マジで女みてえ」
「俺もう娼館の女抱けねえかも......」
「っゃ、めろ!ッ、う、さわ、るなっ」
さわさわと体を這いずり回る手が気持ち悪くて身を捩る。男たちが触れたところから黒く汚れていくようで、頭の中が恐怖で埋め尽くされた。
怖い、怖い、怖い。
これ以上ユージーンと離れたところに行きたくない。これ以上汚れたら、ユージーンの隣にいることができなくなる。たとえ魔石になっても、ユージーンと離れたくない。
「じゃあ、そろそろ?」
「ご開帳と行きますか?」
「いや、いやだっ、......ユージーンっ、ユージーン!」
下卑だ笑い声と共にあっさりと下履きを剥かれ、誰にも許したことのない秘部が晒された。守ることも隠すことも出来なくて、情けなくも私のソコは恐怖にふるりと震えた。
絶望的な状況にどんどん血の気が引いていく。
どうしたらいい。
こんな地下牢にいたのでは地上にいる人間に気付いては貰えない。気付いたところで、魔王の私など誰も助けてはくれないだろう。ユージーンも、見つけてはくれない。
今ここで汚されたら、私はもうユージーンが生き返らせてくれた“アシェル”ではいられなくなってしまう。そんな気がした。
「ギャハハッ、こいつよりにもよって勇者様の名前呼んでるぜ!」
「誰かこいつの顎押さえてろ」
また口内を犯されるのかと警戒していると、男の一人が懐から繊細な意匠の小瓶を取り出した。
「おいおい、気合入ってんな!」
「まあ、俺は優しいからな。魔王様も楽しい方がいいでしょう?」
トプンと瓶の中の桃色の液体を目の前で揺らされるが、これが一体なんなのか私には分からなかった。しかし、彼らの物言いからきっとあまり良くないものだろうとは察せられた。左右からがっしりと押さえつけられてもしっかりと口を閉じる。
「おいっ!口開けろ、オラ!」
「ったく、手間かけんじゃねえ!」
「っぐ、ぅ、ぅう」
何度も腹を殴られ、その度に吊り上げられた肩が軋んで悲鳴をあげた。
「まあまあ、こう言う時はな」
「っひぃ、っぁ、......ぅぐっ、ごほ、っ、」
晒された後孔をぐるりと撫ぜられてあまりの気持ち悪さに声を上げてしまい、その拍子に瓶ごと口に突っ込まれる。胸焼けするほど甘ったるい液体が喉に直接注ぎ込まれ、嚥下するまで顎を固定された。
「っ、なにを、っ!」
「何って、なあ?」
「ただの媚薬だよ!び・や・く」
「び、やく……?」
「ああそうだ、かなーり強力だがな!ギャハハッ!」
視界がぐにゃりと滲んで、嘲笑う彼らの姿も捉えられなくなっていく。舌先はピリピリと痺れ、肌はジンジンと熱を持って赤く染まっていった。すっかり媚薬は全身に回り、私は既に呼吸すら苦しかった。
「じゃあそろそろ、下準備も済んだということで!」
「一緒に気持ちよくなろうなぁ?魔王ちゃん」
「ゃ、ぅ、……やらっ、」
「かんわいー!もう呂律回らなくなってら」
「いただきまーす!」
もう無理だと諦めかけたその瞬間、けたたましい爆発音と共に暗い地下牢に日光が注ぎ込んだ。
………地下牢に、日光……?
「アシェルー!いますかー?!アシェルー!!」
この声は、まさか。
「……、……ジーン、ユージーン!私はここだ!」
「ぉ、おいっ!何が起こってる?!」
「知るかよ!早く逃げねぇと、」
助けに来てくれた。私を、探してくれた。いつだって彼は暗いところにいる私を温かい光で照らしてくれる。
四人の下級騎士たちが狼狽しているのを傍目に、私は何度もユージーンの名前を読んだ。
「っ、そこか!…………アシェル!」
太陽の光を背負って現れたのは、他でもない私がこの世で唯一愛する人だった。
「っはあ、……やっと見つけた、アシェル」
歪んだ視界の先で格子越しに美しい金髪が揺れる。ああどうして、もっとよく彼を見たいのに。涙で視界が更に滲んでしまう。
鉄格子の向こうのユージーンと目が合うと、ヒュッと息を呑んだような音が聞こえた。
「ッ、……!……っすぐ助けます」
焦ったようなユージーンの声と共に、メキリと金属がねじ切れる音がした。そう、ユージーンが腕力だけで鉄格子をこじ開けたのだ。
「おいテメェら、俺の大切な人に手ェ出すたぁ、覚悟はできてんだろうなぁ?あ“ぁ“?!」
ゆらりと怒気を纏って牢内に足を踏み入れたユージーンは、下級騎士四人を見事に一太刀で切り倒すと、薬のせいで意識が朦朧とし出した私の元へと駆け寄った。
聖剣で手錠を斬り落とすと、力なく倒れる私をユージーンはがしりと抱き止めてくれた。ユージーンの触れたところから甘く切ない痺れが私を苛む。
「ぁ、んんぅ、ゆ、じーん」
「アシェル!あぁ、遅くなってすみません」
私よりもずっと苦しそうな声で謝ると、ユージーンは裸の私に外套を巻き、横抱きにして暗い地下から連れ出した。
王城を目の前に一度ローラと別れる。脱出時に備えて裏口に回ってくれるローラ。相変わらずできた相棒だ。聖剣を鞘から引き抜き、臨戦態勢のまま王城へと足を踏み入れた。
「ゆ、勇者様?!剣をお納めください!ここは王城ですよ!」
「お待ちください!せめて正規の手順を踏んでから......」
「......ぅるせぇ」
「は?今なんと」
「うるせえっつってんだよこの公僕共が!!そっちがその気ならこっちも好きにさせてもらう!第二王子と巫女はどこだ?!」
オロオロとするばかりで一向に有益なことを話さない門兵たちに怒りが募り、側にあった守護竜の像を真っ二つに切り倒した。
「あいつらはどこだ?早く言わねえと次はお前らがこうなるぞ」
俺は元々貴族なわけじゃない。勇者としての功績が認められる前は下級騎士で、身分もただの庶民だった。騎士になってからと言うものの努力してお行儀良く振る舞ってはいるが、本来は輩もビックリの柄の悪さだ。騎士になったのも、庶民街の悪ガキを締め上げてまわっていた所をスカウトされたのだ。
「ひ、ひいっ!命だけはっ!」
「西側の庭園です!今日はガーデンパーティーをするって!」
「そうか、助かったよ。命は大切にな。あとこの手紙を王妃殿下にお渡ししろ。いいな?」
「「は、はいぃぃぃ!!」」
ポンと二人の肩を叩いてから、西に向かって一直線に走り出す。とにかく時間が惜しい。今この瞬間もアシェルに何かが起こっているかと思うと城ごと消してしまいそうだった。余計な壁はひたすら切って、壊して、庭園を目指した。
大きな爆発音と共に庭園に辿り着くと、呆気にとられた令嬢たちとその奥にまるでもう女王にでもなったかのように踏ん反り返った巫女と目があった。
「ジーン!?来てくれたのね!やだあたしったら、あなたが来るって知ってたらもっといいドレスを......」
「アシェルはどこだ?」
「ジ、ジーン?どうしちゃったの?」
「もう一度だけ聞く。アシェルは、俺のアシェルはどこだ?」
どっかりと座り込んだ巫女の首に聖剣を突き立てる。今まで自分に絡むだけだったから放っておいたが、アシェルに手を出すのなら容赦はしない。
「誰よアシェルって!知らないわよ!」
「しらばっくれるか。それなら言うまでお前の指を切り落としてやる。指の次は耳、鼻、目を抉り取って......」
「わかった、わかったわよ!魔王なら地下牢よ!でも、」
ニタリと悪魔のように笑った巫女は生毛立つような気味の悪い声で囁いた。
「変わった趣味をお持ちの殿方を数名向かわせたから今頃......んふ」
怒りで血が沸騰しそうだった。目の前の売女を今にも殺しそうになる。すんでのところで聖剣を地面に突き立てた。
「覚えてろよ?これ以上好きにできると思うなよアバズレが」
「何よ何よ!あたしの方があなたにふさわしいのに!」
幼子のように喚き続ける巫女を文字通り捨て置き、再び真っ直ぐ地下牢を目指す。
そこにいたのはもう“勇者ユージーン”ではなかった。
*
そもそも着の身着のまま連れてこられたのだ。ユージーンが用意してくれた着心地の良いシャツもトラウザーズも簡単に脱がされてしまった。魔力欠乏症のせいかそれとも。寒くて寒くて震えが止まらない。幼い頃からどんな危機も自分で解決してきた。でも、それができたのは全て膨大な魔力があってこそだ。魔力が無ければ私はカーラやカルムよりもずっと軟弱なのだ。
「見ろよ、こいつそこらの女よりも色白だ」
「この髪と目が無けりゃあなぁ、娼館にも高値で売れるぜ?」
「マニアに売ればそこそこになんだろ」
「石にしちまうのは勿体ねえなぁ」
大の男四人を相手に下履き一枚ではどうすることも出来ない。手首の手錠を持ってずるずると引き摺られると、壁から飛び出たフックに引っ掛けられてしまう。ぴんと背伸びしてギリギリ届く高さのせいで内腿がプルプルと震えてしまう。しかし、今力を抜いたら肩に体重がかかって最悪外れてしまう。
「ぅっく、は、離せっ」
「ははっ、やめとけやめとけ!」
「暴れても無駄だぞー、魔王様」
抵抗なんてろくに出来ないとは分かっていても、血が滲むほど必死に腕を揺らす。この手錠さえ外せれば下級騎士四人程度どうにでも出来るのに。
「うはぁ、肌柔らか!マジで女みてえ」
「俺もう娼館の女抱けねえかも......」
「っゃ、めろ!ッ、う、さわ、るなっ」
さわさわと体を這いずり回る手が気持ち悪くて身を捩る。男たちが触れたところから黒く汚れていくようで、頭の中が恐怖で埋め尽くされた。
怖い、怖い、怖い。
これ以上ユージーンと離れたところに行きたくない。これ以上汚れたら、ユージーンの隣にいることができなくなる。たとえ魔石になっても、ユージーンと離れたくない。
「じゃあ、そろそろ?」
「ご開帳と行きますか?」
「いや、いやだっ、......ユージーンっ、ユージーン!」
下卑だ笑い声と共にあっさりと下履きを剥かれ、誰にも許したことのない秘部が晒された。守ることも隠すことも出来なくて、情けなくも私のソコは恐怖にふるりと震えた。
絶望的な状況にどんどん血の気が引いていく。
どうしたらいい。
こんな地下牢にいたのでは地上にいる人間に気付いては貰えない。気付いたところで、魔王の私など誰も助けてはくれないだろう。ユージーンも、見つけてはくれない。
今ここで汚されたら、私はもうユージーンが生き返らせてくれた“アシェル”ではいられなくなってしまう。そんな気がした。
「ギャハハッ、こいつよりにもよって勇者様の名前呼んでるぜ!」
「誰かこいつの顎押さえてろ」
また口内を犯されるのかと警戒していると、男の一人が懐から繊細な意匠の小瓶を取り出した。
「おいおい、気合入ってんな!」
「まあ、俺は優しいからな。魔王様も楽しい方がいいでしょう?」
トプンと瓶の中の桃色の液体を目の前で揺らされるが、これが一体なんなのか私には分からなかった。しかし、彼らの物言いからきっとあまり良くないものだろうとは察せられた。左右からがっしりと押さえつけられてもしっかりと口を閉じる。
「おいっ!口開けろ、オラ!」
「ったく、手間かけんじゃねえ!」
「っぐ、ぅ、ぅう」
何度も腹を殴られ、その度に吊り上げられた肩が軋んで悲鳴をあげた。
「まあまあ、こう言う時はな」
「っひぃ、っぁ、......ぅぐっ、ごほ、っ、」
晒された後孔をぐるりと撫ぜられてあまりの気持ち悪さに声を上げてしまい、その拍子に瓶ごと口に突っ込まれる。胸焼けするほど甘ったるい液体が喉に直接注ぎ込まれ、嚥下するまで顎を固定された。
「っ、なにを、っ!」
「何って、なあ?」
「ただの媚薬だよ!び・や・く」
「び、やく……?」
「ああそうだ、かなーり強力だがな!ギャハハッ!」
視界がぐにゃりと滲んで、嘲笑う彼らの姿も捉えられなくなっていく。舌先はピリピリと痺れ、肌はジンジンと熱を持って赤く染まっていった。すっかり媚薬は全身に回り、私は既に呼吸すら苦しかった。
「じゃあそろそろ、下準備も済んだということで!」
「一緒に気持ちよくなろうなぁ?魔王ちゃん」
「ゃ、ぅ、……やらっ、」
「かんわいー!もう呂律回らなくなってら」
「いただきまーす!」
もう無理だと諦めかけたその瞬間、けたたましい爆発音と共に暗い地下牢に日光が注ぎ込んだ。
………地下牢に、日光……?
「アシェルー!いますかー?!アシェルー!!」
この声は、まさか。
「……、……ジーン、ユージーン!私はここだ!」
「ぉ、おいっ!何が起こってる?!」
「知るかよ!早く逃げねぇと、」
助けに来てくれた。私を、探してくれた。いつだって彼は暗いところにいる私を温かい光で照らしてくれる。
四人の下級騎士たちが狼狽しているのを傍目に、私は何度もユージーンの名前を読んだ。
「っ、そこか!…………アシェル!」
太陽の光を背負って現れたのは、他でもない私がこの世で唯一愛する人だった。
「っはあ、……やっと見つけた、アシェル」
歪んだ視界の先で格子越しに美しい金髪が揺れる。ああどうして、もっとよく彼を見たいのに。涙で視界が更に滲んでしまう。
鉄格子の向こうのユージーンと目が合うと、ヒュッと息を呑んだような音が聞こえた。
「ッ、……!……っすぐ助けます」
焦ったようなユージーンの声と共に、メキリと金属がねじ切れる音がした。そう、ユージーンが腕力だけで鉄格子をこじ開けたのだ。
「おいテメェら、俺の大切な人に手ェ出すたぁ、覚悟はできてんだろうなぁ?あ“ぁ“?!」
ゆらりと怒気を纏って牢内に足を踏み入れたユージーンは、下級騎士四人を見事に一太刀で切り倒すと、薬のせいで意識が朦朧とし出した私の元へと駆け寄った。
聖剣で手錠を斬り落とすと、力なく倒れる私をユージーンはがしりと抱き止めてくれた。ユージーンの触れたところから甘く切ない痺れが私を苛む。
「ぁ、んんぅ、ゆ、じーん」
「アシェル!あぁ、遅くなってすみません」
私よりもずっと苦しそうな声で謝ると、ユージーンは裸の私に外套を巻き、横抱きにして暗い地下から連れ出した。
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