女子高生 薫の時代

いしかわさん

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第7章

明かされる事実

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 病室の窓から桜がひらひら舞っていく様子が見える。優しそうに微笑む女が見える。女が私の頬にキスをした。
「あなたは私の宝物よ。ずーっとずーっと」
 そう言いながら女は私のこめかみを指でなぞった。私はそれが心地よくて今にも眠ってしまいそうだ。まどろんでいると突然、ドアを開く音がした。
「もう、もう少し静かに入ってこれないものかしらねぇ。びっくしちゃうよね。しょうがないねパパは」
「やっと、名前が決まったよ」
「ほんとう。なになに教えて」
「いやぁ考えたよ。こんなに考えたのは初めてかもな」
「本当ね。こんなふうに考え込む姿見たことないわよ」
 二人はお互い見つめ合って笑った。
「本当、可愛いもんだな。俺に似てるのかな」
「うん。確かにこの鼻あたりはそうかもね」
「この辺りはママかな」
「ねぇ。私ねこの子が生まれて本当に幸せなの。不安あるけどこの子がいればなんだって頑張れる気がして」
「そうだな。俺だって俄然意欲が湧いてきたよ。二人を絶対守るってなんていうの。うん。父親の威厳ってやつかな」
「自分で言う?」
「言うとも言うとも、ほんとこんなかわいい子を産んでくれてありがとう」
 女は優しく微笑んで男も照れ臭そうに笑った。
 二人の会話はこの上なく私には最高の子守歌ならぬ子守声だ。いつまでもずっと聞いていたい。ずっと三人でこうしていたいと願いながら私は眠りについた。
 

 どのくらいの月日が流れただろうか。いつからか女は家で笑わなくなった。そして男も笑わなくなった。女は時折私をとても憐れんだ表情で見つめた。私はその顔にどう答えていいのか分からずにとにかく作り笑顔をするようになった。女が笑わなくなったと同時に私と女と男と三人が揃う時間はなくなった。女は私といることが大半だが男と私がいることは少なくなった。

 そして女は突然私の前から姿を消したのだ。女が私の元に帰って来たときは女は冷たくなっていた。そして親戚中が私の家に集まった。ある人は父を非難したり、またある人は父に謝罪をした。私は冷たくなった女の顔にそっと触れた。ただ触れたかっただけなのに、そうしようとすると決まって誰か知らない大人を阻止した。そして、大人達は同じことを呟くのだ。
「ありがとう、さよならしようねって」
 私が女から離れたがらないので男は私と女と三人で川の字で寝ることになった。こんな風に寝るのは何年振りだろうか。ただ前と違うのは女が動かないことだ。その日の私はとても興奮していたのだろう。目が覚めてしまって女を見ると変わらず冷たいままの女がいた。しかし、男がいない。私は声を上げて泣きたくなったが我慢した。男を探しにそっと寝室をでると居間に電気がついていた。私はなるべく音を立てずにそっとそっと居間に足を向けた。近づくにつれ男ともう一人突然現れた女の声が聞こえた。昼間、男に謝罪していた女だ。二人の会話を聞くために私は居間のドアに耳を押し付けた。そうすると二人の会話がよく聞こえた。
「前から知ってたと?」
「はい。なんとなくはそうだろうと」
「それを聞いたことはなかったと?」
「はい。怖かったんです。認められるのが」
「堪忍してな。私もずっと気づかなかったんよ」
「もう、こうなってしまってはどうしようもできません」
「もう、なんてことしてくれたんやろ」
 女は突然泣き出した。男は泣いているのだろうか。男の声が途切れ途切れになった。
「もう、私どうしたらいいかわからん。堪忍してな」
 女が泣きじゃくる。
「それは姉さんの責任ではないので」
「あんな優しい子だったのに」
「僕も悪かったんです」
「けどな。これからどう生きていくと?」
「それは、まだどうしていいか分からないです」
「もう、私もどうしていいかわからん。あの子に母親がどう亡くなったか教えたらいいかわからん」
 男は黙ったままだ。
「どこに、自分の子を捨てて家庭を持った同士が一緒になって死んでくなんて話あるか。私はあの子にどう言ったらいいかわからん」
 私はあまりの衝撃でドアに体を預けてしまいドアが大きく開いた。その時だ。男が
「薫」
 と叫んだ。
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