1 / 1
放課後、刺客と告白
しおりを挟む
放課後の教室は、まだ文化祭の準備でざわついていた。模造紙を切る音、机を運ぶ音、笑い声。けれど俺――篠原悠人の耳に届くのは、自分の心臓の鼓動ばかりだった。
(今日こそ、言うんだ。三年間も隣にいて、黙っているなんてもう無理だ)
隣の席の綾瀬アイ。誰もが振り返るほど整った顔立ち、黒髪のロングに涼しげな瞳。成績優秀、スポーツ万能、そして誰にでも平等に接する完璧なクラスのアイドル。
ただ、完璧すぎて近寄りがたい。まるで氷のベールに包まれた女王。だけど、俺はそのベールの向こうにある素顔を知りたかった。
三年間、彼女と席を並べ続けた。小テストの答案を交換したり、忘れ物を貸し借りしたり、たまに笑い合ったり。それだけのことが、俺の青春の全部だった。
(今日で終わりだ。俺は、勇気を出す)
夕暮れが差し込み、教室がオレンジに染まっていく。準備を終えたクラスメイトたちが次々と帰っていき、気づけば教室には俺とアイの二人きりになっていた。
「……綾瀬」
名前を呼ぶと、アイはノートを閉じ、ゆっくり顔を上げた。大きな瞳に見つめられただけで、頭が真っ白になる。喉が渇き、舌が張りついた。
「なに?」
「その、話が……あるんだ」
言葉が震える。けれど、言うしかない。
俺が深呼吸しようとした瞬間、アイは小さく吐息をもらし――ぽつりと呟いた。
「……バレましたか」
「え?」
次の瞬間、彼女は机の中に手を入れ、銀色の短剣を取り出した。蛍光灯の光を反射して、刃がギラリと光る。
「私は“異世界”から派遣された刺客。任務は――あなたを抹殺することです、篠原悠人」
耳を疑った。いや、目も疑った。俺の隣に座っていた清楚系美少女が、今まさに俺に向かって「殺す」と言ったのだ。
「ちょ、ちょっと待て!? どういうことだよ、刺客って! 異世界って!?」
「言葉通りの意味です」
彼女は感情を消した声で答える。冷たい瞳のまま、一歩、また一歩と近づいてくる。
「ま、待て待て! 落ち着け! 俺なんか殺してどうすんだ!?」
「あなたは“勇者候補”。生まれながらにして異世界を救う資格を持つ存在。だからこそ、私の世界の王は恐れ、命じたのです。勇者を芽のうちに摘み取れ、と」
「勇者候補……? 俺が? いやいや、俺ただの凡人だぞ! 部活は幽霊部員だし、テストは赤点ギリギリだし!」
「……凡人を演じているだけでしょう?」
「いやガチで凡人だからな!? 自信もって凡人やってるからな!?」
思わず全力で否定すると、アイの眉がほんの少しだけ動いた。
そのわずかな揺らぎを見逃さなかった。
「……っ」
短剣を握る手が小さく震えている。
「……本当は、殺すつもりなんてなかった」
ぽつりと、彼女は告白した。
「最初は任務だからと割り切って近づいた。でも……一緒に過ごすうちに、わかってしまった。あなたが誰よりも優しい人だと。だから――」
彼女は目を伏せ、唇を噛んだ。
「だから、好きになってしまった」
心臓が爆発するかと思った。息が止まりそうになった。
「……俺もだ」
気づけば、口が勝手に動いていた。
「俺も、お前が好きだ。三年間ずっと隣で見てきて、何度も言おうと思ったけど、怖くて言えなかった。でも、今なら言える。俺は……お前が好きだ」
その瞬間――。
アイの手首に巻かれていた黒い鎖が、バチンと音を立てて砕け散った。
眩しい光が教室を満たし、机や椅子の影が揺れる。
「っ……これは……呪縛が、解けた……!?」
アイの瞳から、大粒の涙が零れ落ちた。
「私……自由になったんだ。王に縛られて、任務に縛られて、ずっと苦しかった。でも……あなたが想いを告げてくれたから……」
震える声で、彼女は笑った。氷のベールを脱ぎ捨てたように、あたたかく。
「ありがとう、悠人」
「いや、俺の方こそ……ありがとう」
俺たちは顔を見合わせ、笑った。もう刺客と標的ではない。ただの高校生と高校生として。
窓の外には夕焼けが広がり、赤く染まる空の下で、俺は思った。
――世界を救ったのは、告白だった。
(今日こそ、言うんだ。三年間も隣にいて、黙っているなんてもう無理だ)
隣の席の綾瀬アイ。誰もが振り返るほど整った顔立ち、黒髪のロングに涼しげな瞳。成績優秀、スポーツ万能、そして誰にでも平等に接する完璧なクラスのアイドル。
ただ、完璧すぎて近寄りがたい。まるで氷のベールに包まれた女王。だけど、俺はそのベールの向こうにある素顔を知りたかった。
三年間、彼女と席を並べ続けた。小テストの答案を交換したり、忘れ物を貸し借りしたり、たまに笑い合ったり。それだけのことが、俺の青春の全部だった。
(今日で終わりだ。俺は、勇気を出す)
夕暮れが差し込み、教室がオレンジに染まっていく。準備を終えたクラスメイトたちが次々と帰っていき、気づけば教室には俺とアイの二人きりになっていた。
「……綾瀬」
名前を呼ぶと、アイはノートを閉じ、ゆっくり顔を上げた。大きな瞳に見つめられただけで、頭が真っ白になる。喉が渇き、舌が張りついた。
「なに?」
「その、話が……あるんだ」
言葉が震える。けれど、言うしかない。
俺が深呼吸しようとした瞬間、アイは小さく吐息をもらし――ぽつりと呟いた。
「……バレましたか」
「え?」
次の瞬間、彼女は机の中に手を入れ、銀色の短剣を取り出した。蛍光灯の光を反射して、刃がギラリと光る。
「私は“異世界”から派遣された刺客。任務は――あなたを抹殺することです、篠原悠人」
耳を疑った。いや、目も疑った。俺の隣に座っていた清楚系美少女が、今まさに俺に向かって「殺す」と言ったのだ。
「ちょ、ちょっと待て!? どういうことだよ、刺客って! 異世界って!?」
「言葉通りの意味です」
彼女は感情を消した声で答える。冷たい瞳のまま、一歩、また一歩と近づいてくる。
「ま、待て待て! 落ち着け! 俺なんか殺してどうすんだ!?」
「あなたは“勇者候補”。生まれながらにして異世界を救う資格を持つ存在。だからこそ、私の世界の王は恐れ、命じたのです。勇者を芽のうちに摘み取れ、と」
「勇者候補……? 俺が? いやいや、俺ただの凡人だぞ! 部活は幽霊部員だし、テストは赤点ギリギリだし!」
「……凡人を演じているだけでしょう?」
「いやガチで凡人だからな!? 自信もって凡人やってるからな!?」
思わず全力で否定すると、アイの眉がほんの少しだけ動いた。
そのわずかな揺らぎを見逃さなかった。
「……っ」
短剣を握る手が小さく震えている。
「……本当は、殺すつもりなんてなかった」
ぽつりと、彼女は告白した。
「最初は任務だからと割り切って近づいた。でも……一緒に過ごすうちに、わかってしまった。あなたが誰よりも優しい人だと。だから――」
彼女は目を伏せ、唇を噛んだ。
「だから、好きになってしまった」
心臓が爆発するかと思った。息が止まりそうになった。
「……俺もだ」
気づけば、口が勝手に動いていた。
「俺も、お前が好きだ。三年間ずっと隣で見てきて、何度も言おうと思ったけど、怖くて言えなかった。でも、今なら言える。俺は……お前が好きだ」
その瞬間――。
アイの手首に巻かれていた黒い鎖が、バチンと音を立てて砕け散った。
眩しい光が教室を満たし、机や椅子の影が揺れる。
「っ……これは……呪縛が、解けた……!?」
アイの瞳から、大粒の涙が零れ落ちた。
「私……自由になったんだ。王に縛られて、任務に縛られて、ずっと苦しかった。でも……あなたが想いを告げてくれたから……」
震える声で、彼女は笑った。氷のベールを脱ぎ捨てたように、あたたかく。
「ありがとう、悠人」
「いや、俺の方こそ……ありがとう」
俺たちは顔を見合わせ、笑った。もう刺客と標的ではない。ただの高校生と高校生として。
窓の外には夕焼けが広がり、赤く染まる空の下で、俺は思った。
――世界を救ったのは、告白だった。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜
桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。
上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。
「私も……私も交配したい」
太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる