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第1章 悪役令嬢がメイドに至るまで
暗黙の期待とジゼレーナの努力
しおりを挟む「レオ様と会えず、レオ様の噂すらも聞かない牢屋の中で、レオ様と完全に離された私は、思い出したの。
彼を好きになったのは、王妃教育があったから。
好きな人のためになら、辛い事も頑張れると聞いたから。
昔から、兄も王太子も優秀で、当然のように、私にもそれが求められたわ。
暗黙の期待。
優秀なのは、当たり前で、それが普通。凄いと持て囃すけれど、それが普通。
『兄があれなら、あの王太子の婚約者に選ばれたのなら』
誰もそう口には出さなかったけれど、態度だけでも分かってしまう。
『あの家の娘なのではなかったか、本当にあの兄の妹なのか、あの王子の婚約者ではないのか』
私が優秀ではないのなら、そう言われる。それが怖かった。
だから私は必死に頑張った。私が彼を好きなのだから、仕方ないと。私が彼と同等にならなければ、私は彼と結婚ができない。私と彼の願いが叶わない。
そういうことにして。
でも、どんなに努力をしても、どうしても、彼らには追い付けないの。
そして言われる。
『兄君も王太子殿下も頑張っているというのに、無責任にも程がある』
『周りの言葉なんて気にしなくていいのよ。だからもう少し頑張ってみなさい』」
淡々と話していた彼女は、前触れもなく小さく笑った。フッと、自嘲気味に。
「少しの頑張りで追い付けるものではないの。そんな簡単なものであるのならば、私はとうにあの二人を追い抜いている。それほどの努力はしたわ。
地が違い過ぎるのよ。努力をしても努力をしても、あの二人との差は埋まることなく開いていく。
そしてあの人達は言うの。
『以前にも増して手を抜いている』
『身分に甘えるなんて、恥ずかしいと思わないのか』
私はいつの間にか、その全てを記憶から消していた」
「努力をしている噂なんて聞かなかったが」
この一言で、彼女が俺を強く睨んだ。
「努力をしているなんて言えるわけないわ。これが限界だなんて」
掠れた声で分かりにくかったが、少し怒気を孕んでいたと思われる。怒らせてしまったかとこの後どうしようか考えていると、彼女は気を取り直すように咳払いをした。……喉が痛かっただけかもしれない。
「それを思い出した後に、貴方方が来た。恥ずかしくて申し訳なくて、会いたくなかったわ。
貴方方も会いたくなかっただろうに、どうして来たの?いつものように放っておけば良かったのに」
彼女が倒れるまで、俺達は誰も牢屋に近付かなかった。
だから、彼女が倒れたと聞いた時は、レオに会いたいが為の演技だと俺達は考えていた。
ジゼレーナの反応がいつもと違っていたのには、そんな理由があったからか。
本当の話だとしたらだが。
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