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第1章 悪役令嬢がメイドに至るまで
陛下は、彼女を実験台にするつもりですか
しおりを挟む父といる時に鳥肌が立つようになったのはいつからだろうか。
去年『パパのお嫁さんになるんだよね』と言われた時には吐くかと思った。
父に対して返答すると気色悪い方向に話が行ってしまうので、基本的に仕事以外の話には言葉を返さないようにしている。仕事の話でも、できるだけ返答は短くしている。
今も何か話しているが聞こえない。最近聞き取らないという事が可能になった。
習得して良かった技の一つだ。
急に仕事の話に切り替わっても、そこからきちんと聞こえるので本当に良い。
幸いな事に、他人様の前では親バカの本性は現さないので、変な目で見られたりはしていない。
『あんな父親がいて羨ましい』という声を聞く度に複雑な心境にはなったが、騎士としては尊敬している。嘘ではなく。
今ちょっと揺るぎそうだが。
陛下と父は幼馴染みなもので、他人様の中に入らないようで残念だ。
微笑みながら見守る陛下の視線が生暖かく、本当に居心地が悪い。
こういう時、普段は宰相が父を止めてくれていたのだが、今回は彼の元娘ジゼレーナの件という事もあり、ここにはいない。
俺は父の話を無視して陛下に尋ねた。
「彼女の話の真偽は調査しますが、今回の件については、今後どうされるおつもりですか」
陛下は止まれと言うように軽く右掌をこちらに向けた。公の場では優雅な上に親しみも持てるような格別な威厳のある陛下だが、内々だからか、今はとても気怠げだ。力を抜いた状態でも上品に見えるから流石だ。
「調査はこちらでやるから君は気にしなくていい。彼女にはあれを使おう」
一瞬の静けさが落ちた。陛下は呑気にお茶を飲んでいる。
「……あれは国宝ですよ。愛しのヴィーくんに何かあったらどうする気ですか」
愛しのってなんだよ。
仕事の話の途中に入ってくる変な単語には対応できない。聞き取れてしまう。
俺は鳥肌を振り払い、陛下に尋ねる。
「陛下は、彼女を実験台にするつもりですか」
その頃、ジゼレーナはくしゃみをした───なんて事はなく。
アレンが出て行った時から変わらず、生気の抜けた表情で椅子に座っていた。
ジゼレーナの拘束は解かれ、左足首に縄が残るのみ。その縄は、彼女の座る椅子の細い足に繋がっており、今直ぐにでも解けてしまいそうな結び方だった。
椅子を持ち上げれば、最後の拘束も解けるだろう。
ドアの鍵は開いている。
どうして逃げないのか……。
暗部を警戒しているんだよ!
絶対見張られてる。試されてる。
意識し過ぎて何も出来ない。
逃げれたとしても黒服の所為で兵がうろちょろしてるだろうし!
絶対逃げ切れないよ。不可能だ。
不可能を可能になんて出来ない。
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