悪役令嬢、メイドさんになる~転生先は処刑待ちの牢屋スタートです~

文字の大きさ
44 / 60
第1章 悪役令嬢がメイドに至るまで

曲がり角なんて作ってはいけない。

しおりを挟む
「どこに消えたんだよ。あんな事件が起きた所なのに一人になるなんて、刺客の一味だと疑って欲しいのか襲って欲しいのか」

ぼそぼそと呟く美少年が一人。一定の速さで、黙々と廊下を歩いていた。
美少年は未だに、捜している人物と出会えていなかった。布を被った謎の人物を抱えた騎士が、その場で待つようにと言ったというのに。どこへ行ったのか。

怒りを抑えている為か、後ろから、徐々に距離を詰めてくる長髪の人物に、美少年は気付かない。

はぁ、と可愛らしい唇から溜め息が漏れ出る。
美少年は王城を歩き回り疲れていた。これも、一人の医師の所為だ。苦手な人を態々わざわざ捜し回るなんて苦境だが、これも殿下の命だ。仕方がない。王太子直々じきじきの命なんて光栄だ。

はぁ、と美少年が何度目か、数えたくもない溜め息を吐いたと同時に、背中に不自然な気配を感じた。

疲れで注意が散漫になっていたのだろうか。
美少年は反射的に振り向いたが、時すでに遅し。

これも、あの医師の所為だ。だいたい、なぜ自身が迷子になる人物だと自覚しない。何度迷惑を掛ければ気が済むんだ。お前は医者だろう。緊急事態を考えないのか。

なぜ一人になりたがる。寂しがり屋の癖に。お供や先輩医師、重鎮まで吹っ切って迷子になるなんて、意味が分からない。いったい何がしたいんだ。

美少年が相手の姿を目に入れた時には、もう逃げ場はなくなっていた。柔らかそうな、淡い紫の髪が視界に入る。
美少年の前には麗人の体。左右には麗人の長い腕があり、美少年の背中は固い壁に触れてしまっている。

身長差もあり逃れることはできない。

本当に、麗人は何がしたいのか。

せめてでも抵抗しようと、美少年は麗人の視線から逃れるように顔を背けた。

「それは君もでしょう。もしかして……私に襲って欲しかったのかな」

初め、何の話か分からなかったが、どうやら美少年の独り言を聞いていたようだ。さて、どこから聞いていたのか。

麗人は色気たっぷりに囁きながら、片手で軽く美少年の顎を掴み自分へ向けさせると、自らの端正な顔を近付けた。

黄金の瞳と、銀を帯びたピンクの瞳が交差する。

麗人の卵形の顔が、美少年の淡い瞳に映った。

固まってしまった美少年を目にした麗人は、首を傾げると、目を細め、美麗に微笑んだ。


 それを目撃する精悍な男が一人。
曲がり角なんて、作ってはいけない。





しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

逆ハーレムエンド? 現実を見て下さいませ

朝霞 花純@電子書籍発売中
恋愛
エリザベート・ラガルド公爵令嬢は溜息を吐く。 理由はとある男爵令嬢による逆ハーレム。 逆ハーレムのメンバーは彼女の婚約者のアレックス王太子殿下とその側近一同だ。 エリザベートは男爵令嬢に注意する為に逆ハーレムの元へ向かう。

【完結】悪役令嬢の妹に転生しちゃったけど推しはお姉様だから全力で断罪破滅から守らせていただきます!

くま
恋愛
え?死ぬ間際に前世の記憶が戻った、マリア。 ここは前世でハマった乙女ゲームの世界だった。 マリアが一番好きなキャラクターは悪役令嬢のマリエ! 悪役令嬢マリエの妹として転生したマリアは、姉マリエを守ろうと空回り。王子や執事、騎士などはマリアにアプローチするものの、まったく鈍感でアホな主人公に周りは振り回されるばかり。 少しずつ成長をしていくなか、残念ヒロインちゃんが現る!! ほんの少しシリアスもある!かもです。 気ままに書いてますので誤字脱字ありましたら、すいませんっ。 月に一回、二回ほどゆっくりペースで更新です(*≧∀≦*)

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

逃げたい悪役令嬢と、逃がさない王子

ねむたん
恋愛
セレスティーナ・エヴァンジェリンは今日も王宮の廊下を静かに歩きながら、ちらりと視線を横に流した。白いドレスを揺らし、愛らしく微笑むアリシア・ローゼンベルクの姿を目にするたび、彼女の胸はわずかに弾む。 (その調子よ、アリシア。もっと頑張って! あなたがしっかり王子を誘惑してくれれば、私は自由になれるのだから!) 期待に満ちた瞳で、影からこっそり彼女の奮闘を見守る。今日こそレオナルトがアリシアの魅力に落ちるかもしれない——いや、落ちてほしい。

悪役令嬢がヒロインからのハラスメントにビンタをぶちかますまで。

倉桐ぱきぽ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生した私は、ざまぁ回避のため、まじめに生きていた。 でも、ヒロイン(転生者)がひどい!   彼女の嘘を信じた推しから嫌われるし。無実の罪を着せられるし。そのうえ「ちゃんと悪役やりなさい」⁉ シナリオ通りに進めたいヒロインからのハラスメントは、もう、うんざり! 私は私の望むままに生きます!! 本編+番外編3作で、40000文字くらいです。 ⚠途中、視点が変わります。サブタイトルをご覧下さい。

悪役令嬢の取り巻き令嬢(モブ)だけど実は影で暗躍してたなんて意外でしょ?

無味無臭(不定期更新)
恋愛
無能な悪役令嬢に変わってシナリオ通り進めていたがある日悪役令嬢にハブられたルル。 「いいんですか?その態度」

処理中です...