レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない

あつ犬

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第19話調査を始めるアサシン

「えっ? 今日の鍛錬は休みですか、師匠」

「あぁ。……今日はお使いを頼みたいんだ」

明くる日。
俺は、カイたちに“お使い”を頼むことにした。
名目上はお使いだが、ダンジョンからできるだけ遠ざけておくための方便だ。

「師匠の頼みなら断りませんって! それで、どこまでですか?」

「隣街だ。行きだけなら、昼前には着く。……ただ、お使いの都合上、帰りは明日になるだろう」

バニッシュ・ホールの罠と、モンスターの大徘徊。
ダンジョン自体、謎に包まれている部分が大きい。異常は異常でも、
何かの事故かと思っていたが。

7年前と同じ現象が起きたのなら、話は別だ。

(今日一日でどこまで調査できるかわからないが、カイたちをダンジョン内には入れられん)

「わかりました、アルマ様。……一日とはいえ、離れるのは苦しいものがありますね………このノエル……引き裂かれるような思いです」

引き裂かれるって、そんな大袈裟な。

「アルマ様っ!!」

「………な、なんだ? どうした……?」

ノエルに両手を掴まれた。
……俺が反応できない程の速度で。

……まったく反応ができなかった。
実戦なら、俺は死んでいたかもしれない。……恐ろしい子だ、ノエル。

「これをどうか……持っていてください、アルマ様」

「う、うん? これは何だ……? ゆ、指輪……?」

なんの装飾もない、銀色の指輪。
重さは無いに等しいくらいに軽い。
魔力は感じるから、たぶんマジックアイテムだ。
こんなものを俺を渡してどうしろと。まさか、持っていろとは言わないな?

「これを私だと思って、肌見放さず持っていてくださいアルマ様……私の……この身体から溢れた魔力をたっぷりと込めました」

そのまさかだった。
……あと、なんか物凄く恐ろしい科白が聞こえた気がするのだが。
自分の魔力を込めたって……通りで握っていると仄かに“ノエル”を感じるわけだ。

「あの、ノエル? それってさ……」

「カ・イ・お・兄・様・ぁ?」

(の、呪いの人形……っ!?)

ぐるりとノエルの首がカイの方に向く。動きが怖かった、まるで呪われ人形か何かのような。

「………ひぁっ……!?」 

「うわぁっ……!?」

「…………ひっ………」

(ど、どんな顔になっているんだ……!?)

カイ、ホノ、リリアの3人が悲鳴を上げる。どんな恐ろしい顔を浮かべているんだノエルは今。
普段静かなカイを怯えさせるのは相当だぞ……?

「渡すこと“自体”は自由ですよね、うふふふ?」

「そ、そう……そうだね、うん。
……ごめん、その顔やめて、本当にお願いだから……。夢に出る」

(夢に出る……!?)

「……アルマ様」

ノエルが此方を向く。
夢に出る程の顔とはどんな顔なのかと身構えたが、既にその顔恐ろしい顔は消えていたようだ。
此方を向いたノエルの顔は、見慣れたいつもの顔だった。

……残念なような、見ずに済んでよかったような。

「あ、あぁ」

「必ず戻ってまいります。……今夜はアルマ様のことを想い、枕を濡らすことになりそうですね……」

目をうるませて、悲しげにノエルは言う。枕を濡らすってそんな……泣くほど嫌なのか。
……なら、せめて。

「ノエル」

「なんでしょうか、アルマ様……ふぁ………」

「一日だけの辛抱だ。お使いが終わったら、すぐに帰ってくればいい」

頭を一撫でした。
気の利いた科白を言えればいいのだが、俺にはこうして撫でてやることくらいしかできそうもない。

「ふぉ………ぉぉ……ぉふぉ……」

奇妙な声を出しながら、ノエルがふるふると震えだす。
両の目尻どこかインモラルな雰囲気にとろんと下がって、目はぐりんっと上を向く。
分類上は悩ましげな……恍惚とした顔なのだろう。

(……すまん、ノエル。不気味だ、その顔……)

……が、果てしなく不気味だ。
どんなにノエルが美少女でも覆い隠せなさい不気味さである。
ある意味美少女だからこの不気味さで済んでいるのかもしれない。

「ついに……念願のっ……!! 私も……アルマ様の掌の感触をこの……この頭に……っ……ぉふぁ………ぁふぅ………」

何だかよくわからないが、
ノエルも頭を撫でられたかった、
ということでいいのだろうか。
頭くらい、何度でも撫でよう。

「アルマ様……!」

「う、うん……?」

「必ず無事……貴方の下へ帰ります。……ですからその指輪……失くさずもっていてくださいね」

やめなさい、ノエル。
そういう“必ず無事”に、とか“失くさずもっていて”なんて言い方をすると、大抵厄介事に巻き込まれるんだぞ。
……世界のジンクスと言うやつだ。

(……ダンジョンから安全に遠ざけるためのお使いなのだが……何か物凄く嫌な予感がしてきた。大丈夫かな本当に)

若干一名かなり浮足立っていて心配だ。
………とはいえ、
カイパーティの実力は第4階層相当。
異常な強化をされた〈邪毒のコカトリス〉も倒せているから、何かあっても生半可な手合いならば蹴散らせるだろう。

「届け先はこのメモに書いてある。………馴染みの研ぎ師でな」

カイたちに頼むお使いは、俺の二振りの短剣。〈溝鼠の黒牙Ⅱ〉を研ぎ師のもとに持っていてもらうことだ。この二振りに関しては、昔からその人に研いでもらっている。

これでも特殊な短剣ではあるから、本格的な手入れをするとなると、
時間が掛かってしまうのだ。

「お預かりします、アルマさん。必ず無事届けます」

「師匠の愛刀だもんなぁ、このニ本。……責任重大だな、これは」

「アルマ様の大切な短剣……預けて頂けるだなんて……光栄です!」

「ち、ちゃんと……持って帰ってきますね」

……気の抜ける会話が続いたが、
お陰で幾らか張りつめていた神経を緩めることができた。
浮き足立っているなどと言ったが、俺も俺で、変に張りつめてしまっていた。

「それじゃ、よろしく頼む」

街の門までカイたちを見送り、俺はギルドへと急ぐ。
……予想はついているが、その
予想を確信に変えたい。



「どうだった? ギルドマスターの反応は」

ギルドへと向かった俺は、シェリンにギルドマスターの反応を尋ねた。
ダンジョン内で起きた問題や異変は、ギルドマスターに報告される事になっている。

そのルールに則り、俺もダンジョンで起きた異変は、全てギルドマスターに報告はしてある。

「今日もギルドは大賑わい。
ダンジョンに潜る冒険者も絶えてません。……そういうことですよ、
アルマさん。何事も無かったみたいに……いつも通り」

周りをちらと確認してから、シェリンが遠回しに言う。
さすがに、直接的には言えないか。どこに目があるか分からないのだから。

(……予想的中だな)

シェリンの言葉通り、ギルドは今日も街の内外からきた冒険者や、クエストの依頼人で溢れていた。
冒険者たちはいつものように、ダンジョンへと潜っていく。

「冒険者への警告は? 特定階層への侵入禁止エリア指定や、レベルによる制限もなしか?」

「一切なしです。“完全に、いつも通りの”運営をしろとのことで。伯爵様の勅令」

「………理由は?」

「“伯爵家直属の階層観測手たちは、なんの異変も感知しなかったから”……だそうです。あとは不必要な混乱を呼ばないためとか」

「尤もらしい理由だな」

「……だから回復士さんたち、殺気立っちゃって。……7年前、『掃滅戦』が起きた時もこんな感じだったから……」

見れば、シェリンの言う通り回復士たちや古参のギルド職員たちは、酷く険しい雰囲気で仕事をしている。

「皆、嫌なんですよ。同じことが繰り返されるのは。……もう誰にも死んでほしくありませんからね」

「………そうだな。……ギルドマスターはどこに? 姿が見えないが、奥か?」

「さぁ? 早朝から出かけてますよ。……金色のモノが詰まった袋でも貰いに行ったんじゃないですか? ………はぁ」

苛立ち混じりの溜息を、シェリンは吐く。

ギルドマスターには、ダンジョンへの侵入制限やレベル制限を課す権限を与えられている。
……しかし、条件が揃うか正当な理由があればその権限を他者に一時的に譲渡することもできる。

もっとも、あの懇ろな。
ヴール伯爵の子飼いにも等しいギルドマスターのことだ。
……裏金でも貰って、今回のことに対する決定権を伯爵に譲ったのだろう。

「伯爵様の都合のいいように動いていれば、ギルドマスターに終身雇用。……いいご身分ですよ」

「仕方がないさ。
……俺が潜って調査してみるよ。
異常を感知できなかった“階層観測手たち”よりは……マシだろうよ」

「なら、アルマさん。……耳、貸してください」

シェリンが小さく手招きをする。
片耳を近づけて、話を聞く。

「……冒険者の方たち、今日はダンジョン内で伯爵直属の導士たちを見かけたそうです。……何か関係があるかも」

「………わかった。留意しておく。情報ありがとう」

きな臭いことになった。
良い噂を聞かないヴール伯爵。
俺自身、面識はないが気持ちのよい相手ではないことは……よく知っている。

(直属の魔道士たちか。……ダンジョン内で何をしているんだ?)

ふと頭に、最悪な予想が一つ浮かぶ。浮かんだそれを、今は“あり得ない”と頭の片隅に蹴り上げておく。

(〈邪毒のコカトリス〉のこともあるし、まずは第3階層から調査してみようか)

マジック・ポータルを通って、俺は第3の階層へと向かった。
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