ネコタマ-NEO-

和本明子

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 真っ白な空間が、地平線の果てまで途切れることなく広がっていた。地面には、見たこともない白い花々が無数に咲き誇り、その美しさに目を奪われそうになる。しかし、“藤宮真子”はその花々を無意識のうちに踏み荒らしながら歩き続けていた。

「‥‥ここは、どこ?」

 彼女は困惑した表情を浮かべ、周囲を見渡す。美しい花々が咲き乱れるこの場所に、彼女の足音だけが虚しく響く。
 花に対する無慈悲な仕打ちに、心が痛むはずなのに、どうしても足が止まらない。

「――でも、どうして私はこんな場所に?」

 歩き続けるたびに、無力感が押し寄せてくる。どこかで知っている景色のようにも思えるが、まったく記憶にない。

 ふと、足元に目を落とすと、白い花々の間に奇妙なものが目に入った。それは、自分の胸に開いた手のひらほどの大きさの穴だった。

「え? なんで穴が‥‥というか穴が空いているのに、私、生きている?」

 驚いて、穴を見つめる。だが、体には痛みも血もない。何も感じない。首を傾げながら、その穴を隠すように手を当ててみたが、何の変化もなく、そのままだ。

「これ、どういうことなんだろう……」

 頭の中も、まるでこの白い空間のように空っぽだ。思い出そうとしても、何も浮かんではこない。彼女はただ、どこへ向かうのかも分からずに歩き続ける。

 その時、遠くからサラサラと流れる水の音が聞こえてきた。川のせせらぎだろうか、と周囲を見回してみるが、川の姿はどこにも見当たらない。

 しかし、次の瞬間――

「ニャー‥‥」

 その音の中に、猫の鳴き声が混じっていた。真子は足を止め、音の主を探す。遠くの空気が揺らめく先に、それは現れた。

「猫‥?」

 遠目に見ても、その猫はただの猫ではなかった。銀色に輝く毛並みの大きな猫が、まるで陽炎のように揺れている。その姿はまるで蜃気楼のようで、視界に映るのは実際の猫ではなく、その場所に光が屈折して映し出された虚像のようだった。

 しかし、その猫にはもう一つ、奇妙な特徴があった。

「尻尾が‥‥二本?」

 思わず呟くと、猫が急激な速さでこちらに突進してきた。避ける暇もなく、その猫は光の粒子に変わり、真子の胸に開いた穴へと吸い込まれていった。

 その瞬間、穴から放たれた光が激しく散り、真子の周りは一瞬にして真っ白な光に包まれた。眩しさに目を閉じることもできず、数多の英数字や記号、異なる言語が次々に真子の体内へと流れ込んでいく。

 その光の先に、ぼんやりと“人の姿”を見た気がした。
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