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第4話 【命がけの追いかけっこ】
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マリンとチハルは地面に散らばる石を拾い集め、手のひらに収まるだけの数を握ると、互いに頷き合った。
「いくよ、マリンちゃん!」
「うんっ、それっ!」
丘の上から二人は一斉に黒い獣めがけて石を投げつけた。
カツン、カラカラ――乾いた音があちこちに弾ける中、そのうちの一つが見事に黒い獣の頭を直撃した。
黒い獣はフラフラとなり倒れ込む。
その隙を狙って、丘の麓に待機していたレンが飛び出して小さく震えているポータに手を伸ばしポータをひょいと抱き上げた。
「うわっ…重っ…!」
成鳥した鶏ほどの重さだったが許容範囲の重さだ。
「レーン! 言った通りに、森へ向かって!」
丘の上からチハルが大声で呼びかける。
「わかっている!」
レンはポータを抱きかかえて言われた通りに森へと向かって駆け出していく。
「それじゃ、マリンちゃん。私たちも行こう」
「うん」
二人も駆け出す。目指すは森の中――ポータが物語の中で逃げ込んだ森へと。
そして黒い獣は気が付き、遠ざかっていく人の姿‥‥レンを捉えて、まだ脳しんとうがある為フラフラになりながら追いかけた。
チハルとマリン坂を駆け下り、草を踏みしめ、風を切って突き進む。
レンも合流し、雑木林の茂みをかき分け、倒れた木を飛び越え、枝が肌をかすめるのも構わず、全身を使って前へ前へと逃げ続ける。息は切れ、足はもつれそうになる。それでも、後ろから迫る魔獣の咆哮が、恐怖を原動力に変えていた。
距離を稼いではいたが、地を蹴る音が徐々に近づいてくる。黒い獣の脚力でジリジリとその差を詰めていた。
そのとき、チハルたちの視界の先に何かが見えた。
「――あった! あれだよ、あの小屋!」
鬱蒼とした森の中に、古びた木造の小屋がぽつんと佇んでいた。壁はところどころボロボロで、屋根は蔦に覆われ、窓には板が打ちつけられている。それでも扉だけはなんとか開けそうな状態だった。
「早くっ、こっちこっち!!」
チハルの叫びに続き、三人とポータは小屋へと滑り込むように飛び込んだ。レンが最後に中へ転がり込み、後ろ手で扉を勢いよくバタンッ!と閉めた――
直後、背後から凄まじい唸り声と、爪が木材を引き裂くようなガリガリという音が響いた。壁が揺れ、今にも崩れそうなほどの圧力が伝わってくる。
マリンは壁際に後ずさり身構える。
だが、扉は破られなかった。ガリガリと引っ掻く音も次第に遠のき、黒い獣の気配がゆっくりと遠ざかっていくのを察した。
「‥‥ふぅ、助かったのかな?」
レンが窓に近づき、そっと外を覗き込んだ。
「やっぱりいるな。小屋の外をうろついてやがる‥‥」
黒い獣は獲物たちに逃げ場がないと解っているのか待ち伏せをしていた。
しかし、小屋にいる限りは襲ってくることはないだろうと、レンが息を吐き、腕の中のポータを見下ろす。
青い羽根がかすかに震え、小さく「クルル‥‥」と情けない鳴き声が漏れた。だが、その姿にどこか安心感があった。
小屋の中は薄暗く、空気は埃っぽかった。長い間使われていなかったのか、すべてが沈黙しているような空間だった。
「あ‥‥そうだ。思い出してきた。この小屋って、確か‥‥ここに住んでる木こりがポータを助けてくれるんだったよな。そんで木こりが斧で獣を追い払うんだったけ」
レンも作品内容を徐々に思い出していた。
「でも‥‥誰もいない‥‥?」
マリンが不安そうに呟く。小屋の中はもぬけの殻だった。木こりの姿どころか、生活の気配すらない。
三人の表情に焦りが浮かぶ。
原作では、ここで木こりが斧で黒い獣を追い払ってくれるものの、今度はポータは木こりに保存食として捕まってしまうが‥‥今、悠長に本筋を語っている暇はない。
ならば斧がどこかにあるはずと、その希望を探して、三人は慌てて小屋の中を探し始める。
そのときだった。
「‥‥あれ、あの本‥‥」
マリンが静かに指をさした。小屋の奥の埃をかぶった本棚。
その中央に、まるで舞台照明のように淡く光を放つ一冊の本が鎮座していた。
光は脈打つようにきらきらと瞬き、まるでずっとそこにいて、彼女たちの到着を待っていたかのようだった。
三人とポータは顔を見合わせ、黙って頷き合った。そして、ゆっくりと本へと歩み寄る。
そっとマリンが手を伸ばし、本に触れた瞬間――
ふわりと本が宙に浮き、ページがひとりでにめくれ始めた。バサバサと勢いよく紙がめくれ、やがてピタリとあるページで止まる。
次の瞬間、小屋の空気が震え始めた。本はより目眩く光を放ち、部屋全体が淡い光彩の渦に包まれる。身体が浮き上がるような感覚に三人は再び翻弄される。図書館の地下室と同じように。
「うわっ、また――!」
叫ぶ間もなく、チハル、レン、マリン、ついでに青い鳥のポータも、その渦の中へと吸い込まれていった。
光が空間を包み込み、その光が消えると共に本も消えた
誰もいなくなった小屋には、再び静寂が戻っていた。
「いくよ、マリンちゃん!」
「うんっ、それっ!」
丘の上から二人は一斉に黒い獣めがけて石を投げつけた。
カツン、カラカラ――乾いた音があちこちに弾ける中、そのうちの一つが見事に黒い獣の頭を直撃した。
黒い獣はフラフラとなり倒れ込む。
その隙を狙って、丘の麓に待機していたレンが飛び出して小さく震えているポータに手を伸ばしポータをひょいと抱き上げた。
「うわっ…重っ…!」
成鳥した鶏ほどの重さだったが許容範囲の重さだ。
「レーン! 言った通りに、森へ向かって!」
丘の上からチハルが大声で呼びかける。
「わかっている!」
レンはポータを抱きかかえて言われた通りに森へと向かって駆け出していく。
「それじゃ、マリンちゃん。私たちも行こう」
「うん」
二人も駆け出す。目指すは森の中――ポータが物語の中で逃げ込んだ森へと。
そして黒い獣は気が付き、遠ざかっていく人の姿‥‥レンを捉えて、まだ脳しんとうがある為フラフラになりながら追いかけた。
チハルとマリン坂を駆け下り、草を踏みしめ、風を切って突き進む。
レンも合流し、雑木林の茂みをかき分け、倒れた木を飛び越え、枝が肌をかすめるのも構わず、全身を使って前へ前へと逃げ続ける。息は切れ、足はもつれそうになる。それでも、後ろから迫る魔獣の咆哮が、恐怖を原動力に変えていた。
距離を稼いではいたが、地を蹴る音が徐々に近づいてくる。黒い獣の脚力でジリジリとその差を詰めていた。
そのとき、チハルたちの視界の先に何かが見えた。
「――あった! あれだよ、あの小屋!」
鬱蒼とした森の中に、古びた木造の小屋がぽつんと佇んでいた。壁はところどころボロボロで、屋根は蔦に覆われ、窓には板が打ちつけられている。それでも扉だけはなんとか開けそうな状態だった。
「早くっ、こっちこっち!!」
チハルの叫びに続き、三人とポータは小屋へと滑り込むように飛び込んだ。レンが最後に中へ転がり込み、後ろ手で扉を勢いよくバタンッ!と閉めた――
直後、背後から凄まじい唸り声と、爪が木材を引き裂くようなガリガリという音が響いた。壁が揺れ、今にも崩れそうなほどの圧力が伝わってくる。
マリンは壁際に後ずさり身構える。
だが、扉は破られなかった。ガリガリと引っ掻く音も次第に遠のき、黒い獣の気配がゆっくりと遠ざかっていくのを察した。
「‥‥ふぅ、助かったのかな?」
レンが窓に近づき、そっと外を覗き込んだ。
「やっぱりいるな。小屋の外をうろついてやがる‥‥」
黒い獣は獲物たちに逃げ場がないと解っているのか待ち伏せをしていた。
しかし、小屋にいる限りは襲ってくることはないだろうと、レンが息を吐き、腕の中のポータを見下ろす。
青い羽根がかすかに震え、小さく「クルル‥‥」と情けない鳴き声が漏れた。だが、その姿にどこか安心感があった。
小屋の中は薄暗く、空気は埃っぽかった。長い間使われていなかったのか、すべてが沈黙しているような空間だった。
「あ‥‥そうだ。思い出してきた。この小屋って、確か‥‥ここに住んでる木こりがポータを助けてくれるんだったよな。そんで木こりが斧で獣を追い払うんだったけ」
レンも作品内容を徐々に思い出していた。
「でも‥‥誰もいない‥‥?」
マリンが不安そうに呟く。小屋の中はもぬけの殻だった。木こりの姿どころか、生活の気配すらない。
三人の表情に焦りが浮かぶ。
原作では、ここで木こりが斧で黒い獣を追い払ってくれるものの、今度はポータは木こりに保存食として捕まってしまうが‥‥今、悠長に本筋を語っている暇はない。
ならば斧がどこかにあるはずと、その希望を探して、三人は慌てて小屋の中を探し始める。
そのときだった。
「‥‥あれ、あの本‥‥」
マリンが静かに指をさした。小屋の奥の埃をかぶった本棚。
その中央に、まるで舞台照明のように淡く光を放つ一冊の本が鎮座していた。
光は脈打つようにきらきらと瞬き、まるでずっとそこにいて、彼女たちの到着を待っていたかのようだった。
三人とポータは顔を見合わせ、黙って頷き合った。そして、ゆっくりと本へと歩み寄る。
そっとマリンが手を伸ばし、本に触れた瞬間――
ふわりと本が宙に浮き、ページがひとりでにめくれ始めた。バサバサと勢いよく紙がめくれ、やがてピタリとあるページで止まる。
次の瞬間、小屋の空気が震え始めた。本はより目眩く光を放ち、部屋全体が淡い光彩の渦に包まれる。身体が浮き上がるような感覚に三人は再び翻弄される。図書館の地下室と同じように。
「うわっ、また――!」
叫ぶ間もなく、チハル、レン、マリン、ついでに青い鳥のポータも、その渦の中へと吸い込まれていった。
光が空間を包み込み、その光が消えると共に本も消えた
誰もいなくなった小屋には、再び静寂が戻っていた。
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