短編集

ふらっペ

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うさウサ、うっさー!

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着ぐるみを脱いだらそこは森の中でした、あ??

白いウサギの大きな頭が汚れるにも関わらず、ゴトリと落として周囲を見渡す。何処だここ。見慣れた鉄の車も電気を橋渡しする線もなく、なんか歩きにくいとか思ったら整ったアスファルトの道でもない。
何処なんだここ。もう一度、今度こそ声に出して呟いた。ちょっと怖いので着ぐるみの頭をヨイショと持ち上げ砂を払い、被り直す。外してみる。被り直す。ありゃ変わんねぇな。

気候はよく分からんが、少し暑い。もこもこしている素材の所為か熱は籠もるわ汗なんて皮膚中にこびり付く始末。白耳がへちゃる。
視界も悪いしやっぱ外そうかなぁとか考えたそんな時だった。


「うささん、なんかでっかいね。」
「、うさ、?」
「おめめも大きい、不思議。」


なんつー可愛い呼び方だぁおい。

内心ツッコミながら振り返るとそこには擦り傷だらけの小さな子供が居た。ぼろ切れを縫い合わせて作ったような、そんな服とは言い辛い布を身体へ巻き付けている。え、しかも草鞋だと??うわ手編みっぽい。まじかー。
ワンチャンいつの間にか森林浴にでも来ちゃったのかなとか現実逃避してたけど、その線を見事にぶっ壊してくれたこの男の子。んっんー、仮装にお祭り舞台劇。いやあの傷特殊メイクでもないし虐待とか?いや普通に報道問題だな??

あまりの唐突さにちょっと頭がついていかない。しかし暫く固まっていたら僕ね、ヤパっていうの。なんて少年が自己紹介しだしたので考えるのを止めた。
ヤパって何だよ、完全に漢字でもねぇよ。いやキラキラネーム、とかないよねぇそうだよねぇ、日本だといいな。


「ねぇ、どうして此処にいるの?」
「、」
「もふもふだねぇ」
「。」
「うさって言ってくれないの?」
「っう、うさうさ!うっさー!!」
「えへへ。」


だめだ、まけた。何かとは言わないが完全に負けた。

サービス精神で賃金も出ないのにパレードの真似っ子をしたら大層喜ばれてしまってさあ大変だ。バク転決めポーズにステップだんす!そうよ、私はうさ。ウサなのよ。うさ、ウサうさ~!と某大人気な電気鼠を真似て男の子に戯れる。
そうだ、少しでも情報を得ねば。こんな子供を利用するのはとても邪道であるが、いかせんどうしようも無いこの状況。おや、でもちょっと待てよ?私は自業自得でウサとしか喋れないぞ。どうしよっかな。


「おーい、ヤパ。どこにおる。」
「お父さん!」


遠くの方から聞こえてくる親の声に、私の事などそっちの気で走って行くヤパ少年。取り敢えずテクテクついて行ったらお父様から化け物!って言われてしまいました。そりゃそうだ。

木の棒で殴られそうになった所、ヤパ君が必死に止めてくれる。森の妖精さんだから乱暴はだめ!そう言った少年に違うけど助かった、なんてドキドキしながらもホッとした。ついでに正座しジャパニーズ土下座なるものを行えば、パパさんはゆっくりと木の棒を収めてくれる。いい人。いやドン引きされてましたがね。

ヤパ君も一応安心したようで、私達は雰囲気で笑い合う。しかしこの父上様ってば、此方を警戒しながら息子を抱き寄せ行くぞ、なんて言っちゃうので慌てて必死に引き留めた。逃がすものか生命線!おっと違う助けてください迷子なんです!


「な、妖精とやら、まさか私達を逃がさないつもりか!」
「う、うさぁ!?」
「違うよ、きっと構って欲しいんだよ。」


ああ日本語が恋しい。無駄に作った設定の所為でウサウサ言ってたら話が全然違う方に行くんですけど。しかし突然話し出したらそれこそヤパくんからも怖がられてしまいそうなので喋るなんて選択肢は初めから無かった。
身振り手振りで説明致す。えー、気が付いたらあるー日森の中~!私は人間、あなたも人間、とりあえず人のいる所へ一緒に行きたいウサうさウサー!

まぁ伝わりませんでしたよねはい。


「いや待てヤパ。もしや木を切り続けている事を怒っているのでは。」
「?」
「しかしこれは我らの生活の糧。これで許してもらえないだろうか。それに塚をたて、毎日添え物もする様に村の者へ伝えよう。」


深々と頭を下げられてしまってはもう対処しようが無い。とりあえず美味しそうなおにぎりを頂けたので思わずコックリ頷いてしまった私を誰か叱ってくれ。
まぁ話の流れからして後からついていけば集落か何処かに着くのだろう。ペコペコするお父様と何故かポカンとしているヤパ君に手を振って十数秒。よーし後でも追おうかな!!

しかし、残念ながら問題はここからであった。ものの見事に深い森素人な私はさっそく迷子になったのである。
日が暮れて、朝が来て、泣きながらおにぎりを少しずつ食べて数日間。やっとの思いで元の場所に戻ってきた頃には簡易的な塚とすぐ食べられる様な、調理されたての魚が置いてあった。

もしかしたらすれ違いであの親子が来ていたのかも知れない。落胆は勿論あったけれど、それでも久々の人間らしい食事に涙が出た。おいしい、おいしい。ちょっと生臭いけれど、とても美味しかった。
ウサギの頭をかぶり直して、しゃがみ込む。泥だらけになった毛並みはもう見るも無惨ではあるが、虫除け位には丁度良かったのだ。

だから決して、寒いとか。心細いだなんて思ってない。


「あれ、どうしたの?」
「、!」
「お水置き忘れたから慌ててもどってきたの!お魚食べてくれたんだね!」


ふんわり温かな、お日様の匂いがした。
がさがさと音がした時獣かと思って焦ったけど、まさか今一番会いたかったヤパ少年だったとはなんという巡り合わせだろうか。とことこ近寄ってきてくれて最早あまり触り心地の良くない、頭付近の毛並みを撫でられる。

うさ、ウサ。縋りつきたい気持ちを必死に隠してそう呟いた。思わず嗚咽を上げ、叫んでしまいそうな口をぎゅっと結ぶ。少年はそのまま私の手を引いて、ゆっくりと歩き出しながらウチにおいでよ!お父さんの誤解も解けてるよ!なんて続けてくれる。

正直、天使かと思った。



〈うさウサ、うっさー!〉
(あ、でもそろそろちゃんと喋ってくれないと困るよお姉さん)
(えッ)





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