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魔王の愛
しおりを挟むうるさい。五月蝿い煩いうるさい。
音に押し潰されそうだ。涙した後の乾きも、暗くなった視野も。すべてが消えて仕舞えばいいのに。
「愛とは呪いだ。」
誰かがそう言った。
「呪いとは罰だ。」
誰かがそう言い返した。
「罰とは」
わたしがいう。
「生きる事だ。」
そうして笑った貴方に私は押し潰されたのだ。
知らないうちに、知らないフリをした隙に。世界が消えてなくなったあの日、悪すら救い出そうと圧を掛けた勇者は言葉の刃を私へ向ける。
無防備な自分はその圧倒的な善意の刃物に八つ裂きにされ、頷くしか無かったけれど。時々思い返しては乾いた空気を肺いっぱいに吸い込んだ。
ただ、死にたくないという理由だけだった。今更勇者について行くという、あの判断が間違っていたとは思わない。だけれど、
「許せない、なんて。」
彼との安穏とした日々は大いに私を癒している。けれど、確かに内側から燻っていくこの憎悪は一体どうすればいいのだろうか。
貴方は世界が光に満ちているというけれど、墨汁を半紙へ滴らしたかの如く静かに、しかし確実に。じわじわとその波紋は広がっていく。
どうすれば、いいのだろう。考えてみても答えは出ない。この怒りと悲しみは、綺麗事ばかり述べる他人の為に押し潰され殺されるしかないのだろうか。
不貞腐れても世界は何一つ変わらなくて、この感情を肯定してくれる者なんぞいなかった。勿論表に出していないもの、当然だ。
だって、そうでしょう。悪は成敗される、都合悪いものが悪と定義される。そうね、いつだって正義は大衆側にあるのだから尚更ね。
「わかってるわよ、それくらい。」
でも奪ったのは世界の方だ。うばったのは、お前らの方だ。わたしの幸せを奪ったのは誰だ。唐突にこの世界へ呼びつけたのはだれだ。
あっという間に平穏は崩れ、剣や魔法なんぞの非日常を突きつけられて。私という存在は物語の様に消費されていく。
「勇者様だ!魔族すら配下に入れるなど、なんてお心の広い方か!」
「いっそ殺して仕舞えば良かったのでは?いつ此方に牙を剥くかもわからんぞ。」
「何をいう。改心したそうじゃないか。」
「最近知恵の高い魔物が王を崇めていると聞く。裏切るつもりかもしれんぞ!」
「大丈夫だ!その時は隣国を救った勇者様がなんとかしてくれるさ!」
そんな雑音を響かせるこの世界が大嫌いだった。
裏切るもなにも、容姿が変わっただけで心は人間側であったのに。あったはず、だったのに。
「みんな他人任せ。勇者は大変ね。」
「はは、そう言ってくれるのは君だけだよ。悲しい事に。」
「理解できない。どうしてあんな奴らを助けるの?」
「生きる事は僕への罰だ。」
「罰?呪いの間違いでしょう。」
「君が言うと本当にそう聞こえるから困るなぁ。」
カラリと笑う奴に嫌味はない。だから余計に惨めになる。
ふいっと空を見上げて、雲の向こうの城を見た。彼処に町の人間達が噂をしていた魔物の王がいるのだろうか。彼処に、今の私の同族達が。
手を伸ばそうか迷ったけれど、その手を掴み、意外にも貴方が真っ白に笑うものだから。まぁ。暫くは付き合ってやらんこともないなと呼吸を整える。
憧れに似ていたのかもしれない。ただ興味があったのかもしれない。今となっては分からないけれど、こうして思い返せば燻ってた黒い感情が貴方に向かない様、努力をしていたのだと気づく。
罪人であるという身分を隠した勇者。そのくせ他人を救って綺麗な明日をカラリと語る勇気ある者。
馬鹿ね、なんていう声はいつの間にか柔らかくなっていて。それくらい、貴方にならば絆されてもいいと感じていた。
「なのに、どうして?」
「。」
「うごかない、うごかないね。どうして??」
君の身体が腐敗していく。
好きでも無いものはとっくに大好きになっていて。ここで生きていく覚悟を決め、この容姿にも罵倒にも、やっとの思いで飲み込んだ。
いつしかの波紋は静まり返り、君の隣だと息がしやすいと。そう、この地での幸福を実感した矢先に貴方は死んでしまったの。
「馬鹿な人間共だ。同族殺しなどしている暇では無いだろうに。」
「よう裏切り者!寝返るか?俺達のネコになるなら受け入れてやってもいいぜぇ?」
「王?なんだそりゃ、居ねえよそんなもん。俺達は俺達で好き勝手やってるだけだ。人間側で何か吹き込まれたんじゃねぇの?」
呆然としている私へ下品に嗤う同族は言う。
「ああ、なるほど?お前ら厄介払いされたな。お気の毒に!」
そこからは先は覚えていない。ただ一面の焼け野原に君の遺体と二人だけ。
気がつけば近隣の村が血だらけになっていたし、魔物達が頭を深く下げていた。
よくわからない。よく分からないけれどまた何処からか金切り声が聞こえる。
沢山の傲慢な者達の命乞いと、また調子良く求める次世代への勇者像。ああうるさい、煩いってば。音の濁流はもうウンザリだ。
ポツリと言葉を紡げば呪詛が出た。それを空へ向ければまた、一つの都市が闇へ沈む。
いつしかこの単語が最上級の魔術となって、世間に知れ渡るその日まで。
わたしは貴方の名を世界へ刻み続けよう。
〈魔王の愛〉
(忘れるなんて身勝手、例え世界が許してもこの私が許さない)
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