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13話
しおりを挟む文化祭が無事に終わり、町田が家に帰ると、妙に綺麗になったリビングの床にドスンと座り込んだ。
普段から散らかりっぱなしのこの家がどうしてこんな風に小綺麗になっているのかは町田も分かっていた。
町田が晶に体を貸してから、町田は晶の生活の様子をまるで夢を見ているかの様な、朦朧とした薄い意識の中で眺めていた。
体は同じなのに、中身が晶なだけで周りの見る目が変わっていくのを見ていて、町田は改めて自分の価値の無さを感じた。
実は晶が眠る時、夢の中で町田と晶は2人、対峙していた。
しかし晶は髪を染めたことも、ピアスを5つも開けたことも、謹慎処分になったことも謝らなかった。
2人はただ、音楽のことだけを語った。
その他のことを晶が町田に質問してきたことはない。
そして町田も、特に晶に音楽以外のことを話そうとは思わなかった。
それは既に晶が身を持って体験していることだからで、町田の状況は自ら話す必要などそもそもないからだ。
初めて町田が晶と夢の中で対面した時、流石に自殺の理由を聞いてくるかと思ったが、晶は口を開くなり、町田が押し入れに隠していた楽譜のことを聞いてきた。
「お前良い曲書くな。俺のバンドに入れよ」
「は…?嫌だよ」
「なんでだよ、シンガーソングライターにでもなるのかよ」
「…そんなの、なる訳ないだろ」
「じゃあ良いじゃん、一緒にバンドやろうぜ」
「一緒にって、お前は…」
「おん、死んでるけどな」
「…じゃあ無理じゃん」
「無理じゃねーよ、生まれ変わってすぐに戻ってきてやるよ」
体を町田に返した後、自分がどうなるのも分からないはずなのに自信満々で胸を張る晶に、町田はため息をついた。
「生まれ変わったらやりたいのとが変わってるかもしれないだろ」
「変わらねーよ、俺は音楽がしたい。お前もだろ?」
「は?」
晶の唐突な物言いに町田は思わずその黒目がちな瞳を見開いた。
「俺は違う」
「じゃあなんでピアノ続けてんだよ」
「お前には関係ないだろ」
「いや、関係あるね」
「は?なんでだよ」
「お前はもうVioletのキーボード兼、作曲担当だからだよ」
「ふざけんな、俺はやらない」
そっぽを向いて心底不機嫌な顔をする町田に、晶は「じゃあこれからどーすんだよお前」と首を傾げる。
「どーするって…なんでお前にそんなこと言われなきゃなんねーんだよ」
「だってお前、俺が体返したらまた死のうとすんだろ?」
特に悪びれることもなく、かといって変に深刻そうにすることもなく、まるで「この後カラオケ行くだろ?」みたいないたって普段通りのトーンで確信をついてくる晶に、町田は眉を寄せた。
派手なバイオレットアッシュの髪に、チャラチャラとピアスを付け、日頃考えていることといえばバンドのことばかりな癖に、ふとした時に鋭い洞察力を発揮する晶に、町田は強い不快感を覚えた。
襲ってきた不快感により、町田がしばらく沈黙していると、晶も特に気にした風もなく、小声で歌を口ずさみ始めた。
晶の口ずさむそのメロディを聞いた町田は気が付けば晶を殴り飛ばしていた。
「いってぇ!なにすんだよ!」
「……人助けのつもりか?死のうとしてた俺を助けて、生きる理由を与えようってか?お前は神様か!要らねーんだよ、この偽善者が!!」
怒りに震える町田に対して、晶は何故か声を上げて笑いだした。
「何笑ってんだよ」
「いや?お前こそなんで急にそんな怒ってんだよ」
「それはお前が…!」
晶に勢いで言い返そうとした町田だったが、言いかけて言葉が詰まった。
(あれ、俺…なんて言おうとしたんだ…?)
もはや町田にも自分が何故怒ったのかさえ分からなくなっていた。
「それは…お前が…お前が…悪い…」
俯く町田に、今度は晶が「確かに俺が悪い」と何故か納得したように一人で頷き始めた。
「お前、なんでもよくねーじゃん」
「……?」
「生きる理由なんて要らねーって言ってたけど、嘘じゃん。あるんだろ、本当は」
「……何言ってんだよ、このバンド厨が」
「じゃあなんで怒ったんだよ?」
「……それはお前が偽善者だからだろ」
「ハハッ、ちげーよ!偽善者は自殺未遂した奴を自分のバンドに入れようとなんてしねーよ!お前おもしれーな」
「………うっせ、声でかい」
「自分の曲、勝手に変えられて嫌だったんだろ?」
「!?」
晶の言葉で町田は一瞬、息をするのを忘れた。
そして一度息を吐いて、晶が口ずさんだメロディを思い返してみる。
確かに一部のフレーズがアレンジされている。
「あ…俺…」
「な、お前さ、自分が気が付かないくらい音楽への拘りもプライドもあるんだよ。それなのにくだらねー意地張って見て見ぬふりして。挙句死のうとまでしやがって。どーせ、作曲に行き詰まってもうダメだーとかってなったんだろ?」
「…それだけな訳ねーだろ…」
「じゃあ、いじめか?それとも母親か?」
「……………」
「お前にとって音楽は唯一の理解者なんだろ、それが急に書けなくなって見放された気分になった、違うか?」
「…なにが理解者だ、うざっ」
「お前ってホントに素直じゃねーなー」
「うるせ」
「Violetに居れば、音楽に見放されることもねーよ。たとえお前が曲を書けなくなっても、Violetはお前を見捨てない」
そう言って晶が微笑んだところで、アラームが鳴り、晶と町田の意識は再び引き離されてしまった。
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