遅れてやってきたサンタクロース

夢見楽土

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遅れてやってきたサンタクロース

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 遅くなって申し訳ない! ようやく君に会うことが出来たよ。メリークリスマス! 

 どうした、そんな変な顔をして。え? クリスマスはまだまだ先? まあ気にしなさんな。サンタクロースは忙しい。1日では到底回り切れなくてな。

 何々? サンタクロースなんている訳がないだって? 君はどうしてそう思うんだい?

 なるほど、もう大人だし来る訳がない、それに、子どもだったとしても、プレゼントは両親が用意している、か……

 ははは、君は少し勘違いをしているようだね。確かに、両親がプレゼントを用意してくれている家庭もあるだろう。

 だが、サンタクロースは本当にいるよ。何故かって? それは、私がサンタクロースだからだ。

 え? 口ひげが偽物? 単にサンタの格好をした商店街のジジイだって? そんなことはないよ。私は正真正銘のサンタクロースだ。

 その目はまだ信じてないね。仕方ない。少し時間もあるし、どうして私がサンタクロースになったかを話してあげよう。


 † † †


 今から20年くらい前のことだ。私の家に突然不思議な老人がやって来た。

 立派な口ひげのスーツ姿の老人でね。彼は優しく微笑みながら私に言った。

「永らくサンタクロースを務めたが、そろそろ後任に譲ることにする。後任は君だ」ってね。

 そう言って、彼は口ひげを外した。付けひげだったんだね。

 私は驚きつつも、彼からその付けひげを受け取った。それが、今私が付けている口ひげだ。この付けひげは、サンタクロースから貰った、サンタクロースのあかしなんだよ。

 ……その顔は私の話を信用してないね。

 まあ、確かに信じ難い話だ。私自身、元々疑り深い性格だったしね。普通なら、怒鳴ってその老人を追い返すところだ。

 だが、そうはならなかった。私は間違いなくサンタクロースになったんだと納得した。この付けひげには、そんな不思議な力があったんだよ。

 その日から、私はサンタクロースとして何をなすべきかを必死に考え始めた。


 † † †


 世界には子どもがどれくらいいるか知っているかな? だいたい20億人といったところだ。

 残念ながら、私はサンタクロースとはいえただの人間。20億人の子ども一人一人にクリスマスプレゼントを一晩で手渡しすることは出来ない。

 そこで私は考えた。サンタクロースの目的は、一人でも多くの子どもにプレゼントをあげること。全て私一人で行う必要はない。目的達成のため、皆に手伝ってもらうおう。そうすれば、少しでも多くの子どもにプレゼントをあげることができる。

 そう考えた私は、優先順位を決めて動きだした。

 まず、両親等の身内からプレゼントを貰える子どもは除外した。両親等が子どもに心を込めて贈るプレゼントは、サンタクロースのプレゼントと変わらない。両親等は、言わば「サンタクロースの代理人」だからね。

 世界には、そういったサンタクロースの代理人からプレゼントを貰えない子どもが多くいる。

 例えば難民の子ども。世界に約5000万人いると言われている。また、それ以上に多くの子どもが紛争や貧困等でプレゼントを貰えていない。

 そこで、私は財団を設立し、そういった子どもにプレゼントを届けられるよう、様々な支援団体に莫大な資金を提供した。自分で言うのも何だが、私は結構なお金持ちだったんでね。

 ときには、軍事会社に依頼して、紛争地帯の子どもにプレゼントを届けたこともあった。

 また、世界中の大企業に、おもちゃやお菓子を子どもにプレゼントする慈善事業の実施・強化をお願いして回った。

 渋る企業には資金を惜しみ無く提供した。それでも動かない企業には、まだ公になっていないスキャンダル情報等をちらつかせて、無理矢理にでも動いてもらった。

 え? 脅迫? ははは、まあ気にしなさんな。私はサンタクロースだ。悪い大人よりも子どもの方が大事だからね。


 † † †


 こうして、私はお金と情報を駆使し、世界中に仲間を増やし、可能な限り多くの子どもにプレゼントを配ってきた。

 しかし、どうしても漏れが出てしまう。その漏れを少しでも埋めるのが、私の一番大事な仕事という訳だ。

 さあ、これを受け取ってくれ。だいぶ遅くなってしまったが、君へのクリスマスプレゼントだ。

 君が子どものとき、クリスマス直前にご両親が事故で亡くなったよね。その年のクリスマスプレゼントはなかった。サンタクロースは来なかった……

 それで、君は、今までのクリスマスプレゼントは両親が用意していたと気づいたんだよね。翌年からは祖父母が用意してくれていたようだけど。

 どうして私がそのことを知っているかだって? 

 さっきこの口ひげには不思議な力があると言ったよね。その力とは「情報」だ。この口ひげを付けると、子どもにプレゼントを配るために必要な「情報」が頭に入ってくるんだよ。

 この情報を使って、必要なお金を増やし、人や企業を動かしてきた。そして、君のようなプレゼントを貰えなかった子どもを探し続けてきた。

 さあ、プレゼントを開けてくれ。

 そう。あのとき、君はサンタクロースに「恐竜」が欲しいとお願いしていたね。困った君の両親は、悩んだ末、恐竜のおもちゃと図鑑をプレゼントすることにしていた。残念ながら、事故で叶わなかったがね。

 遅くなって本当に申し訳なかった。これが、サンタクロースとその代理人である君のご両親からのクリスマスプレゼントだ。

 メリークリスマス!
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