冥官小野君のお手伝い ~ 現代から鎌倉時代まで、皆が天国へ行けるようサポートします ~

夢見楽土

文字の大きさ
24 / 42
第3章 見習い与力の初仕事

24 焚き火

しおりを挟む
 寛政元年10月1日、西暦1789年11月17日の昼前、小野は、江戸、南町奉行所内の庭で焚き火をする若者と少年の近くに立っていた。消えるくんで姿を消し、小型翻訳機を作動させている。
 
 今回のサポート対象者は、この少年、なかはるすけだ。
 
 春之助は14歳。父親は南町奉行所でぎんかたりき、大雑把に言うと検察官兼裁判官を長く務めている中田喜右衛門きえもんだ。

 春之助は、父親の下で裁判等の仕事を学ぶため、今日から見習い与力として南町奉行所に出勤している。

 ちなみに、春之助の隣にいる若者は、同心どうしん、大雑把に言うと警察官兼裁判所職員だ。
 
「これを全て燃やすのですか?」
 
 春之助が焚き火の横に積んでいる書状の山を指差して同心に聞いた。
 
「そうですよ。これらの書状は、正式な手続きを経ずに奉行所に投げ込まれたものなんで、受理せず燃やすことになっていましてね。火が強くなりすぎないように、少しずつ燃やさないとね」
 
 同心の言葉を聞きながら、春之助が紙の山から一通の書状を拾い上げた。姿を消した小野が横から覗き込む。

 何と書いているのか分からなかったので、小野は翻訳機能のあるゴーグルをかけて見る。「お奉行様へ」と、丁寧な字で書いてあった。
 
 実は、これが春之助の人生の岐路なのだ。春之助は、この書状の中身を見ずに焼却処分するのだが、その中身に何が書かれていたのかがずっと気になってしまう。
 
 もしかすると、何か冤罪を防ぐ手がかりがあったのではないか……

 春之助は、将来、立派な吟味方の与力に成長するのだが、ずっとこの書状の中身が気になってしまう。そのため、元来の真面目な性格もあり、臨終時幸福度が下がってしまったのだ。
 
 春之助は、少し悩んだものの、その書状をそっと紙の上の山に置いてしまった。何とかして、春之助にその書状の中身を読んで貰わなければならない。
 
 小野は、いつもの「怪現象」の手を使うことにした。ちょっとした風が吹いたのを見計らって、紙の山を手で散らかし、先程春之助が拾い上げた書状が春之助の足下に落ちるようにした。
 
「何だ? そんなに強い風じゃなかったのに」
 
 春之助がその書状を拾い上げる前に、同心が散らばった書状をかき集めて紙の山に戻してしまった。失敗だ……
 
 実は、この平行世界のこの時点、何故か復原力が非常に強く、中々思いどおりに進まないのだ。
 
 過去、久場がこの時点で手を変え品を変え書状を春之助に読ませようと努力したのだが、ことごとく、この若手の同心が妨害するのだ。まあ、この同心に悪気はまったくないのだが。
 
 小野はめげずに再チャレンジした。また少し風が吹いたのを見計らって、今度は例の書状を手に取った上で、他の紙の山を上に向かってまき散らした。

 そして、やや不自然だが、例の書状が風に流されたようにして、春之助の着物の懐に差し込んだ。
 
「なんだ、なんだ? つむじ風か?」
 
 同心がまた紙の山を片付け始めた。春之助が驚いて懐に入った書状を見る。先程拾った書状だと気づき、さらに驚いた。
 
 同心が、書状を持つ春之助に声を掛けた。
 
「その書状もちゃんと焼いてくださいね。全て焼却処分したって報告書を作成して上に出さないといけないんで」
 
「わ、分かりました」
 
 春之助がかなり悩んだものの、例の書状をまた紙の山に戻した。もう! 同心め、余計なことを……一通くらい焼却しなくてもバレないのに。
 
 同心が紙の山から何通かの書状を取り上げて、焚き火で燃やし始めた。例の書状は、場所からすると、この次には焼かれてしまう。
 
 小野は、怪現象のレベルを上げることにした。例の書状の端を手で掴み待機する。
 
 同心が紙の山に手を伸ばした。例の書状を取ろうとする。小野が手で引っ張った。

 同心が驚く。
 
「ん? 何かに貼り付いているのかな?」
 
 同心がぐいぐいと例の書状を引っ張る。小野も負けじと引っ張る。

 普通は、この段階で怪現象に驚いて引っ張るのを止めるはずだが、この同心、一筋縄ではいかない。必死に引っ張り続ける。ついに、小野が持っている書状の端が破けてしまった。
 
「よし!」
 
 同心が、書状を取り上げると、焚き火に放り込もうとした。小野が思わず叫んだ。
 
「なんで、そこまでして焼こうとするの!」
 
 同心と春之助が、驚いて顔を見合わせた。
 
「い、今何か言いました?」
 
「い、いえ。私は何も……」
 
 小野がやけっぱちに叫んだ。
 
「お願いです! どうか読んでください!」
 
「わわわ」
 
 同心が驚いて書状を地面に投げ捨てた。
 
 春之助がおそるおそる書状を拾い上げた。同心が怖がりながら言う。
 
「や、焼いた方がいいですよ! 祟りがありますよ!」
 
 春之助が怖がって書状を地面に戻そうとした。この同心、焼却への思いがハンパない。小野はダメ押しで叫んだ。
 
「読んでいただければ祟りません!」
 
 春之助がおそるおそる書状を拾い上げた。書状を開こうとする。途端に同心が叫んだ。
 
「や、やめてください。やっぱり祟りがあるかもしれない。ここでは開けないでください! それに、焼かないのであれば、私は嘘の報告書は書きませんからね」
 
 同心は、春之助から後ずさりしながら言った。
 
「わ、分かりました。とりあえず、私が持って帰ることにします。上への報告書は私で作成することにしましょう」
 
 そう言うと、春之助は書状を懐に入れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。 そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。 「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。 時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。 多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。 この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。 ※医学描写と他もすべて架空です。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

処理中です...