【完結】クズ男と決別した私の未来は輝いている【圭吾編】

カシスサワー

文字の大きさ
9 / 22

第9話【顔だけの男】

 圭吾は、待ち合わせの喫茶店へと急いだ。

 ドアを開け、店内を見渡す。

 すると、見覚えのある女性の背中が目に入った。

 ――いた。

 だが、その向かいには、顔立ちの整った男が座っている。

 ――そのまま声をかけるべきか?
 ――どうすればいいんだ?

 そう思いながらも、桜田に気づかれないよう、彼女のすぐ後ろの席に腰を下ろす。

「桜、まだ怒ってるのか?」

 男の声が、低く響く。

「なあ桜、機嫌なおして、こっちに戻ってこいって。……俺が好きなのは、お前だけなんだからさぁ」

「……克也、あんた、頭大丈夫?」

 桜田の声は、冷えきっていた。

「もうすぐ結婚するんでしょ? なのに、どうして私にそんなこと言えるの?」

「だからさ。社長令嬢の堀越と結婚すれば、金が入ってくるだろ? 
 それに、ゆくゆくは婿の俺があの会社を継いで社長になる」

 克也は、悪びれもせず続ける。

「そうすりゃ、お前を愛人として囲えるしさ。桜は働かなくても、いい暮らしができるってことだよ。なっ、いい話だろ?」

 その瞬間だった。

 桜田は、手にしていたグラスの水を、克也の顔に勢いよくぶちまけた。

「あんた、私をなんだと思ってるの!」

 店内に、桜田の怒声が響き渡る。

「女を馬鹿にするのもいい加減にしなさい。どれだけ自分がいい男だと思ってるわけ? 世界にあんたしか男がいなくても――」

 桜田は、震える声で、

「あんたみたいな最低な男、絶対に好きになんてならない。ほんと、吐き気がするくらい……大っ嫌い!」

 大きな声で克也を罵倒した。

「なんだと、てめぇ――」

 克也が、荒々しく立ち上がる。

 その瞬間、圭吾も反射的に立ち上がり、桜田をかばうように彼女の前へと立ちはだかった。

 そして圭吾は、その男の顔を真正面から見据える。

 濡れた前髪の奥で、怒りと苛立ちを滲ませた目。
 自分が“選ぶ側”だと信じて疑わない、傲慢な視線。

 ――ああ……。

 胸の奥が、ずしりと沈んだ。

 その目、その表情、その態度。

 どれもが、かつての自分と、あまりにもよく似ていた。

 ――俺は……こいつと同じだ。

『……愛人にしてやるって言ってるんだから、何が不満なんだ?生活も見てやるし、優しくしてやる。だから俺の愛人になれよ』

 桜田が受けた言葉は、かつて圭吾が幸に投げつけた言葉と、寸分違わなかった。

 あの頃の圭吾は――相手の人生を、自分の都合でどうにでもできると思い込んでいた。

 だから――

 幸からのラインも、

『どこでもいいだろ』
『帰らない』
『いらない』
『知り合い』
『無理』

 簡単にすませていた。

 それに、結婚をちらつかせて、幸を家政婦のように扱った。

 あれこれ要求する俺に、幸は困ったように微笑み、何も言わずにただ従っていた。

 幸の愛情を、俺は軽んじていた。

 ――あのときの幸も……こんなふうに、傷つけられていたんだ。

 第三者の目線で見るとよくわかる。

 今になって、ようやくわかった。
 あれは愛なんかじゃなかった。

 自分に都合のいい存在として、抱え込んでいただけだった。

 圭吾は、唇を強く噛みしめた。

「誰なんだお前は?」

 克也がけんか腰に絡んでくる。

「誰だろうと、お前には関係ないだろ」

 圭吾も負けじと言い返す。

「はぁ、お前なぁ、関係ない奴がでしゃばるんじゃないよ」

 顔を真っ赤にして、克也も言い返す。

 そこに――

「黒田くん、クズ男なんか、まともに相手しなくていいんだよ。さぁ、帰ろう」

 桜田が、いつもの口調で話に割り込み、

「木下さん、ここは喫茶店よ。いい加減、場所をわきまえたら。ホント、顔だけの男って最低」

 克也に冷ややかな視線を向けると、圭吾の腕をとり、歩きだした。

 背後では、木下がなにか叫んでいる。

 でも、それを完全に無視して、お金を払い、喫茶店を後にした。


感想 13

あなたにおすすめの小説

抱きしめて

麻実
恋愛
夫の長期に亘る不倫に 女としての自信を失った妻は、新しい出会いに飛び込んでいく。

さようなら、初恋

芙月みひろ
恋愛
彼が選んだのは姉だった *表紙写真はガーリードロップ様からお借りしています

不倫の味

麻実
恋愛
夫に裏切られた妻。彼女は家族を大事にしていて見失っていたものに気付く・・・。

愛しているこの想いが届かない

ララ愛
恋愛
大好きな婚約者には愛する人がいるらしい それを知っても諦められず自分がみじめでもどんなに悲しくても側にいたかった でも笑いかけてもらえない自分が愛されない自分が限界になった時お別れすることを 決めました

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

お飾りな妻は何を思う

湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。 彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。 次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。 そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。

見栄を張る女

詩織
恋愛
付き合って4年の恋人がいる。このままだと結婚?とも思ってた。 そんな時にある女が割り込んでくる。

【完結】シュゼットのはなし

ここ
恋愛
子猫(獣人)のシュゼットは王子を守るため、かわりに竜の呪いを受けた。 顔に大きな傷ができてしまう。 当然責任をとって妃のひとりになるはずだったのだが‥。