【完結】クズ男と決別した私の未来は輝いている。

カシスサワー

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第22話【自由と権力】

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 タクシーでおよそ一時間。
 都心から少し離れた場所に、幸の実家はあった。

 小ぢんまりとしてはいるが、庭付きの一戸建て。
 一般の家庭でも手が届く、いわゆる“普通の家”だ。

 タクシーを降りた幸は、門をくぐり、玄関の鍵を開けた。

「ただいま」
 そう小さく声をかけ、家の中へと足を踏み入れる。

 廊下を進み、リビングに入ると、綾乃がソファに腰かけてくつろいでいた。

「あら、幸。あなたもコーヒー飲む? 飲むなら、そこのポットに入ってるわよ」

「わかった。ありがとう」

 幸はテーブルの上に置かれたコーヒーポットを手に取り、あらかじめ用意されていたカップにコーヒーを注いだ。

 そして、綾乃の向かいのソファに腰を下ろし、ひと口だけコーヒーを飲む。

「で、幸はどうしたいの?」

 前置きもなく、綾乃は本題に入った。

「どうしたいって……圭吾の愛人になるのだけは絶対に嫌。触られるだけで鳥肌が立つの」

「生理的に無理なのね。でもその反応は正常よ。で、その彼とはどうなりたいの?」

「もう関わりたくない。彼に支配されたくない。私の人生から消えてほしい。でも、今までのことを思うと、圭吾を徹底的に懲らしめたい気持ちもある。だけど、黒田ホールディングスを相手にするなんて無謀だから。……とにかく、彼の愛人になることだけは避けたい」

 そう訴える幸の言葉を聞き終えると、綾乃は姿勢を正し、真剣な眼差しを娘に向けた。

「ねえ、幸。自由と権力、どちらかしか選べないとしたら、どっちを選ぶ?」

「またその質問なの? 節目節目で、いつもそれを聞いてくるよね」

 小学校を卒業したときも、中学、高校、大学を卒業したときも――そして社会人になってからも、
 綾乃は繰り返し同じ質問を幸に投げかけていた。

 “自由が一番”。
 それは、幸が幼いころから何度も聞かされてきた母の口癖だった。

 だから幸の答えも、これまでは何も考えずに、母と同じように“自由”を選んできた。

 けれど今は――。

「どっち? 自由、それとも権力」

 綾乃の問いに、幸はしばし黙り込んだ。

 やがて、絞り出すように口を開く。

「……権力が欲しい。黒田ホールディングスに支配されない権力が」

 その答えを聞いた綾乃は、静かに問い返した。

「幸、その答えで後悔しない? 権力を手に入れるとなると、それ相応の相手と結婚させられるかもしれないわよ。自由に恋愛なんてできなくなるけど……それでも権力が欲しいの?」

 母の言い方からすると、権力を得るのはさほど難しくないことのように思えた。
 自由に恋愛することさえ諦めれば、手に入る――そんな印象を与える口ぶりだった。

 母が言ったように、幸には、男を見る目がない。
 そして、もう恋愛にはうんざりしていた。

 だからもし、そんなにも簡単に権力を得られる道があるのなら――その条件を受け入れてもいいとさえ思う。

 なぜなら、権力を手にしなければ、圭吾の愛人になるしかないのだ。
 それだけは、絶対に嫌だった。

 幸は、決意を込めて言い切った。

「圭吾の愛人になるくらいなら、自由に恋愛なんてできなくていい。私は、圭吾に負けない権力が欲しい」

 真っすぐに母を見据え、強い口調で断言する幸。
 その瞳の奥に宿る決意を確かめるように、綾乃はもう一度問いかけた。

「本当に、後悔しない? 権力を手に入れたら、もう後戻りはできないわよ。それに、恋愛以外にもいくつかの“縛り”があるけど……それでもいいの?」

 幸は心の中で静かに答える。
 ――圭吾の愛人になることほど、最悪なことはない。

 それを回避できるなら、どんな制約でも受け入れる。

 だから、迷わず口にした。

「後悔しない。絶対にしない」

 その言葉には、揺るぎない決意が宿っていた。

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