【完結】クズ男と決別した私の未来は輝いている。

カシスサワー

文字の大きさ
46 / 87

第46話【松島テクノロジー】

しおりを挟む
 社長室に入ると同時に、幸は専属秘書としての業務を開始した。

 匠からスーツの上着を受け取り、丁寧にハンガーにかけてクローゼットにしまう。

 その後、自分専用の部屋に向かい、鞄を所定の位置に置き、コーヒーを淹れるために給湯室へ向かった。

 手慣れた動作でコーヒーを準備し、再び社長室に。

 コーヒーを配り終えた幸は、村田に尋ねた。

「村田さん、朝一で総務部に行った方がいいですか?」

 村田は、社長である匠の方へ視線を向ける。

 匠が頷くのを見て、

「朝一でお願いします。戻ってきたら、社長の今週の予定と設立記念パーティーについて、
 大まかな段取りを伝えますので」

 村田はそう答えた。

「わかりました。それでは、総務部に行って来ます。あの……」

 何階にあるか尋ねようとした幸の言葉を待たず、

「総務部は、三階のエレベーターを降りたら、左側のフロアです」

 村田が先に答える。

 村田の先読みぶりに、幸は感心し、心の中で「さすがだな」と呟いた。

 *****

 総務部での手続きを終え、幸は再び社長室へと戻った。

 匠はすでにスーツの上着を着ている。

 上着を着るということは、会議か、どこかへ出かける合図だ。

 案の定、村田秘書から指示が出た。

「西村さん、今から社長と【松島テクノロジー】本社に行ってもらいますので、準備をしてください」

 ――【松島テクノロジー】

 この会社は【NexSeed黒田】と取引のある企業であり、【NexSeed黒田】が会社を立ち上げた際に、
 最初に契約を交わした相手でもある。

 社長も穏やかで、癖のない人物だ。

 自分が【水沢イノベーションズ】で働き始めて、初めて訪問する会社が、まさか【松島テクノロジー】
 だとは――。

 幸はその驚きを顔には出さず、心の中だけで静かに息をのんだ。

 ――偶然にしては出来すぎている。
 ――どこか、運命めいたものさえ感じてしまう。

 そんな思いが胸をよぎる中、幸は落ち着いた声で「はい、わかりました」と返事をした。

 *****

 匠と一緒に会社を出て車に乗り込むと、幸はすぐに口を開いた。

「社長、松島テクノロジーについて情報があります」

 幸は匠のことを、初めて“社長”と呼んだ。

 “社長”と呼ばれた匠の眉が、ほんの少しピクリと動く。

 仕事と私生活のONとOFF。

 幸は、ちゃんと切り替えていた。

 匠は、目を細め口角を上げながら、幸の話に耳を傾ける。

 そうこうしてる間に、松島テクノロジー本社ビル前に、車は停車した。

 匠と幸は車から降り、正面玄関へと歩みを進める。

 フロアの正面に受付嬢が立っており、幸は穏やかな笑みを浮かべながら、ゆっくりと歩み寄った。

 幸の姿に気づいた受付嬢は、目を輝かせながら声をかける。

「西村さん、お久しぶりです! お元気そうでよかったです」

 二年ぶりに再会した幸に、受付嬢は笑顔を浮かべて話しかけた。

「お久しぶりです、小池さん。小池さんもお元気そうで」

 幸も微笑み返す。

「西村さん、今日はどういった……」

 受付嬢の言葉はそこで途切れた。

 幸の後ろにいる男性に、思わず目を奪われたのだ。

 あまりの格好良さに、一瞬言葉を失う。

 しかしすぐに気を取り直し、幸に尋ねた。

「あの方は……?」

「【水沢イノベーションズ】の社長で、水沢匠。現在、私の社長です」

「えっ!? 西村さん、【NexSeed黒田】を辞められたんですか!?」

 小池の目は、驚きでまん丸になった。

 以前の西村秘書と黒田社長は、とても仲が良さそうに見えていた。

 だから、西村秘書が会社を辞めたという事実に、驚いてしまう。

 しかし、ここ最近の黒田社長の様子を思い出すと、西村秘書が辞めたくなった気持ちも、
 なんとなく理解できる気がした。

「小池さん、松島社長に取り次ぎをお願いします。訪問の電話はすでに入れてあります」

 小池の思考は、ハキハキとした幸の声によって中断された。

 仕事モードの幸に、小池も自然と姿勢を正す。

「わかりました。少々お待ちください」

 受付嬢の小池はすぐに内線で確認を取り、

「社長がお待ちです。そこのエレベーターから五階の応接室へどうぞ」

 そう言って、エレベーターの方へ手を差し示した。

「ありがとうございます」

 幸は小池にお礼を言い、匠のもとへ戻る。

 匠も軽く受付嬢に会釈をし、幸と共にエレベーターへ向かった。



しおりを挟む
感想 57

あなたにおすすめの小説

フッてくれてありがとう

nanahi
恋愛
「子どもができたんだ」 ある冬の25日、突然、彼が私に告げた。 「誰の」 私の短い問いにあなたは、しばらく無言だった。 でも私は知っている。 大学生時代の元カノだ。 「じゃあ。元気で」 彼からは謝罪の一言さえなかった。 下を向き、私はひたすら涙を流した。 それから二年後、私は偶然、元彼と再会する。 過去とは全く変わった私と出会って、元彼はふたたび──

今さらやり直しは出来ません

mock
恋愛
3年付き合った斉藤翔平からプロポーズを受けれるかもと心弾ませた小泉彩だったが、当日仕事でどうしても行けないと断りのメールが入り意気消沈してしまう。 落胆しつつ帰る道中、送り主である彼が見知らぬ女性と歩く姿を目撃し、いてもたってもいられず後を追うと二人はさっきまで自身が待っていたホテルへと入っていく。 そんなある日、夢に出てきた高木健人との再会を果たした彩の運命は少しずつ変わっていき……

身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~

椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」 私を脅して、別れを決断させた彼の両親。 彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。 私とは住む世界が違った…… 別れを命じられ、私の恋が終わった。 叶わない身分差の恋だったはずが―― ※R-15くらいなので※マークはありません。 ※視点切り替えあり。 ※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。

仕事で疲れて会えないと、恋人に距離を置かれましたが、彼の上司に溺愛されているので幸せです!

ぽんちゃん
恋愛
 ――仕事で疲れて会えない。  十年付き合ってきた恋人を支えてきたけど、いつも後回しにされる日々。  記念日すら仕事を優先する彼に、十分だけでいいから会いたいとお願いすると、『距離を置こう』と言われてしまう。  そして、思い出の高級レストランで、予約した席に座る恋人が、他の女性と食事をしているところを目撃してしまい――!?

これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー

小田恒子
恋愛
この度、幼馴染とお見合いを経て政略結婚する事になりました。 でも、その彼の左手薬指には、指輪が輝いてます。 もしかして、これは本当に形だけの結婚でしょうか……? 表紙はぱくたそ様のフリー素材、フォントは簡単表紙メーカー様のものを使用しております。 全年齢作品です。 ベリーズカフェ公開日 2022/09/21 アルファポリス公開日 2025/06/19 作品の無断転載はご遠慮ください。

さようなら、お別れしましょう

椿蛍
恋愛
「紹介しよう。新しい妻だ」――夫が『新しい妻』を連れてきた。  妻に新しいも古いもありますか?  愛人を通り越して、突然、夫が連れてきたのは『妻』!?  私に興味のない夫は、邪魔な私を遠ざけた。  ――つまり、別居。 夫と父に命を握られた【契約】で縛られた政略結婚。  ――あなたにお礼を言いますわ。 【契約】を無効にする方法を探し出し、夫と父から自由になってみせる! ※他サイトにも掲載しております。 ※表紙はお借りしたものです。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

処理中です...