クズ男と決別した私の未来は輝いている。

カシスサワー

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第61話【安全を守るため】

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 圭吾は、匠と、その背後に控えるボディーガードらしき男たちを見て、目を見開いた。

 状況の飲み込みが一拍遅れたようで、口が半開きのまま硬直している。

「……は? なんで……お前……」

 ようやく声が出たと思ったら、瞬く間に顔が怒りで赤く染まっていく。

 幸は、匠の腕をほどき、圭吾へと向き直った。

「私が圭吾の愛人になることは、絶対にない。今日は、そのことを伝えに来ただけ。
 これ以上つきまとうのはやめて。迷惑よ」

 ハッキリと圭吾に伝えた。

 圭吾の顔が怒りでひきつる。

 幸は匠の方へと向き直り、

「匠さん、行きましょう」

 匠の腕をとった。

 幸の強気な行動に、匠の口元が緩む。

「幸!待てこら!話は、終わってない!」

 怒りで叫んでいる圭吾に、匠は冷ややかな視線を向け、幸と共に部屋を出て行った。

 *****

 今は、帰りの車の中。

 助手席に座った幸は、鞄からボイスレコーダーを取り出す。

 そして、ちゃんと会話が録音できているか、再生ボタンを押して確認する。

 ちょっとしたノイズは入っているけれど、圭吾の声も、ハッキリと聞き取れる。

「よかった。ちゃんと録音できてる」

 幸は、「ふぅ」っと安堵の息を吐く。

「匠さん、今日はありがとう」

 助手席で小さく頭を下げると、運転席の匠が視線を横に流し、

「何事もなく無事で、よかったよ」

 安堵の混じった声で、言葉を返した。

 ――これで、圭吾も終わる。

 ――そして、由紀にも、反撃できる。

 そう思うだけで、幸の胸は少し軽くなった。

 だが、匠の横顔は険しい表情をしている。

 圭吾が逆上して、何かしら仕返しをしてくる可能性を、彼は当然のように計算していた。

 いつも幸の側にいられればいいが、常に行動を共にするわけにもいかない。

 幸も、友人と出かけたりすることもあるだろうし、匠も匠で、社長としての立場や責任上、単独で出かけることもある。

 それぞれが別々の行動をとる瞬間は、どうしたって生まれる。

 それでも――幸の安全だけは、何があっても守らなければならない。

「幸、あの男は、かなり自己中心的な男だ。怒りで何をするかわからない。
 だから……君にボディーガードをつけようと思っているけど、いいか?」

 ”いいか?”と、問いかけているようだけど、その声には、圧があり、決定事項のように聞こえた。

「えっ……あのっ……」

 幸が戸惑うより速く、匠は言葉を継いだ。

「責任をもって君を守ると、君のお祖父様に約束してる。だから、君の安全を守るためにも、ボディーガードは必須だ」

 その声があまりにも真剣で、幸には反論どころか、迷う隙さえ与えなかった。

 これはもう、決定事項なのだと幸は思った。

「……わかりました。匠さんの指示に従います」

 幸の言葉を聞き、匠の目元が緩む。

 そんな匠の横顔を見ながら、幸はあることを思い出していた。

 それは、幸の祖母・文のことだった。

 文の背後には、常に黒服の男性が付き添っている。

 それは、幸が幼い頃から今に至るまで変わらない光景だった。

 文の安全を守るために、勝造が手配したボディーガードに違いない。

 そう思うと、幸の心は、なんだかホンワカと温かくなる。

 ――お祖父様と匠さんって、心配性なところが似てるのかしら。

 守ろうとしてくれているその気持ちに、幸は愛を感じ、心は満たされる。

 幸は匠へ視線を向けた。

 それに気づいた匠が、チラリと視線を向け、

「どうした?」

 と問いかける。

「匠さんといると、いつも心が温かくなる。ありがとう、匠さん」

 幸は感謝の気持ちを伝えた。

「それは、俺も同じだ」

 匠の目元が緩む。

 そして、彼は続けた。

「今日はホテルでディナーを予約している。だから、着替えたら出かけよう」

 匠からディナーへ誘われた。

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