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「あまがみのみこと」第一章:小さな奇跡の始まり
しおりを挟む夜は深く帳が降り闇は沈黙を抱きしめ世界を凍らせていた部屋には深い静けさの中に沈み
その深い静寂を裂き呑み込んでいたのは小さな命ただひとつ女の子の苦しげな
か細く途切れるような泣き声だけが響いていた
二歳の小さな体は高熱でうなるように焼かれ真っ赤に染まった頬からは途切れることなく涙が零れ落ちてゆく瞳は涙の霞に覆われ曇っており今にも光を手放そうとしていた呼吸は浅く細い糸いつ切れてもおかしくない頼りない揺らめき
その傍らに「あまがみ」は膝をつき座っており彼女は
その子の流れる汗を拭い頭にそっと手を添え優しく撫で続ける
普段から子どもと過ごす時間は好きだったけれど震え
繰り返される呼吸こんなにも小さな命が苦しんでいる姿を見つめながら
ただただ胸の奥を締めつけられる思いに沈んで必死に涙をこらえるのが精いっぱいだった
「どうか……この子の痛みが……和らぎますように」
その祈りは声を持たず、ただ空に届くような切実さを帯びており胸の奥から溢れ出し滲みその願いは深淵の夜空の光の粉雪と凍星に触れようとしていた気づけば彼女は自然に唇を開き柔らかで優しいかすかな子守唄けれどそれは祈りを重ね合わせた歌を口ずさみ始めた
「ば~いばい、ば~いばい……おやすみなさい……」
彼女の柔らかな旋律が空気を震わせ歌声が零れ部屋に満ちると不思議なことに
その瞬間、世界がふっと揺らぎ部屋の温度がわずかに変わった周りの空間が見えない布に包まれ広がり
じんわりと温かく夜気の冷たさが、ほどける月の光が差し込む窓辺が柔らかな金色の光に淡く星の雫のように輝き始める
その温かい光は泣き続ける女の子の小さな体を揺らめきながらゆっくりと優しく包み込んだ
すると、どうだろう苦痛に歪んできつく結ばれていた口元がほんの少し緩み
やわらぎ重く閉ざされていた瞼がゆるやかに閉じていく
やがて花が静かに蕾を閉じるように少女の体から緊張が解け
すーっと穏やかに、かすかに規則正しい寝息が聞こえ始め夜に溶けた
歌い終えた「あまがみ」は、ほっと息をつき深く安寧に浸り満たされながらも
しかし同時に奇妙な魂が乾き全身から力が抜けていく不思議な感覚に襲われた
まるで自分の体の一部が歌声となり幼子の中へと流れ出し分け与えたかのような
どこか空っぽに近い疲労を覚える体感がありながらも
それでも、むしろ安らかに眠る女の子の寝顔はひとつの答えだった
「あまがみ」の心の奥は温かい光で満たされていた彼女は小さく安堵の息を吐き微笑み、そっと囁く
「大丈夫……もう……眠れるね」
その声は静かな夜に吸い込まれ星々の間に溶けていった
まるで天がこの小さな奇跡を記憶に刻むかのように
こうして、それは確かに、この夜に生まれた小さな奇跡の始まりだった
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