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4章 コンカフェに 雨が滴る 歌の市

六十話 季節限定アンサー(7)

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【都心チャーザー区 グレートラウンド・ビル カラサワギ教団本部 21階待ち受けロビー】

 激痛に見舞われながらも電気クモを黒刀で解体すると、頭からシマパンを外して右足の傷口に巻き付けて出血を止める。
「リップ、ごめん、遊ぶ余裕が、なくなった」
「変身?」
「するから、イリヤの背後に退避して」
「おう」
 ユーシアが金髪ツインテール騎士ゴールドスクリーマー(10%出力)に変身したので、リップは大人しく下がって観戦する。
 変身後は時間を無駄にせずに、右足の負傷を瞬時に直して、クロウに相談する。
「ビルの中で電気系統を壊さずに、戦闘可能なオススメ機能は?」
 相談中も床から繰り出される電気の獣爪を、ユーシア(ゴールドスクリーマー)は指先から出す小型の電撃投網で迎撃して防ぐ。
『風属性のモンジロウ。全身をエアシールドで覆って回避力激増し。攻撃は風圧メインに出来るから、室内での制圧戦向きだ』
「よし、使う」
 体内に取り入れた八本の廃棄聖剣の内、意識を保っているのはクロウのみなので、使える機能はクロウに確認を取らないと知りようがない。
 普段は電撃属性が充満する武鎧が、風の流れに包まれる。
 普段は飛行能力に使う力が、室内戦闘用に再調整される。
 ギレアンヌは試しに電気の獣爪を六本に増やして攻撃したが、全て風力防御に流されて回避されたので、撤退を決める。
 そうしてその先の戦闘に入る準備をしている僅かな間に、周辺の関係者が動いた。



【コノ国外事攻動部 都心治安情報管制センター室】

 本来は広域の通報案件を巨大モニターに映して、情報を共有&指示を出す都心治安情報管制センター室に、黄金と黒のオリジナル警報が点滅する。
 ユーシアがクロウを使ってゴールドスクリーマーに変身した時に、最優先で点灯するシステムである。
 過去にユリアナが、都市機能を壊滅させかけた反動で構築されたシステムだ。
 ユーシア本人は、迷惑をかけないように10%出力を心掛けているが、公安関係者は十歳の忍者を信頼したりはしない。
 ユーシアがユリアナと同じ失態をする前提で、事態を詰めていく。
「アキュハヴァーラ警察から、公安監視対象区画内での、ゴールドスクリーマ―の出現を確認しました」
「ゴールドスクリーマーの目的不明。出力は10%を維持」
「グレートラウンド・ビル内、一般利用者の避難は始まっておりません」
「公安監視対象の教団からは、通報がありません」
「居合わせたサラサ・サーティーン特務軍曹の映像、添付します」
 情報が出揃っていく中、国家公認忍者の情報官が、指示を出す。
「ダーナはユーシアを足止め。
 レドラムはサーバーを確保。
 ネメダは封鎖線から逃亡した幹部クラスに、紐付けを」
 出した指示に、ダーナが怒声を返す。
「どういう意味での足止めだ?! 暴れさせるなって意味か? 追い出せって意味か? 隙見て始末しろって意味か?」
 国家公認忍者の情報官は、他の部署との連携中である事を吟味して、柔らかく言い直す。
「丁重に、帰宅を促せ」
 オルフェ・ベルゼルガ(三十二歳、焦茶色のポニーテール、コノ国近衛軍情報部所属中佐)は、苛立ちを背中の猛禽翼を5センチ震わせるだけに留めた。
「ムカつくであろう?」
 黒龍軍師ドマ(人間形態)が、後ろの席からオルフェの指揮に茶々を入れる。
「だが足止めという命令を、地雷で実行しようとするアホもいる業界だ。手綱は丹念に締め直せ」
 ポテチを食いながらネットでガールフレンドを口説いている最中だったので、オルフェは全く全然微塵もドマに感銘を受けなかった。
「今、ひょっとして、わしに対して『うざい上司だから、早く脳梗塞か心筋梗塞で退職しないかな?』とか、星にお願いしている?」
「貴方に会った全ての知的生命体は、そう願っております」
「うわお」



【都心チャーザー区 グレートラウンド・ビル カラサワギ教団本部 21階待ち受けロビー】

 階段から、敵の土建系魔法使いの所へ攻め込もうとするユーシア(ゴールドスクリーマー)に、エリアス・アークが悲鳴のような声で報告する。
「ここを監視していた公安が、封鎖線を形成しました。ここは既に、捜査区域です」
「…変身が引き金?」
「そのようです」
 ユーシアはテンションを下げつつ、サラサに確認する。
「公安に丸投げした方が、早い。いいか?」
 教団のサーバーは犯罪の証拠として接収される流れなので、トモトのイヤンな写真データは流出されずに済む。
 もう、今回の仕事は、果たされている。
「いいよ、いいよ。もう帰ろう」
「よし、帰ろう」
 ユーシアは敵魔法使いの追撃を警戒して(ギレアンヌが無言で無許可で撤退した事を知らない)、変身を解かずに帰ろうとする。
「リップ、終わった。帰って飯」
「始まったばかりで?」
 ラスボスどころか、中ボスすら出ない状況で話を締めようとするので、リップの機嫌が理不尽に悪化する。
 話のネタに関しては、恋人にも容赦はしない。
「せめて敵の四天王の半分は、処してから…」
「ゲームじゃないから」
「せめて右足の仇を取ってから」
 しつこいので、ユーシアは元同僚たちを出汁に使う。
「捜査官が踏み込んで、根掘り葉掘り調べに来るから、居合わせると事情聴取で時間を食う」
「じゃあ、帰ろう」
 面倒なのでリップも大人しく、妥協して帰ろうとする。
「うん、いや待って、捜査官に根掘り葉掘り訊かれるという体験も、捨て難いような」
「帰ろうよ」
 リップが無駄にゴネていると、ユーシアの背後に、するっと一人の忍者が現れる。
 ユーシアと違って素顔を一切晒さない、全身忍者装束の、青年だ。
「ユーシアだけ、残れ。事情聴取がある」
「やだよ」
「五分で済む」
「それ、すぐ済むという意味? それとも、三百秒きっちり?」
「黙れ、質問にだけ答えろ、休職野郎」
 ダーナは気短に、情報官から伝達された確認事項を熟していく。
「これ以上の戦闘は、しないな?」
「しません」
「これから踏み込む捜査関係者に、申し送りは有るか?」
「実はサーバーを確保しに来ただけ」
「サーバー全部?」
「一つのデータを得る為に、全部」
「アホめ」
「終わり?」
「何で変身を解かない?」
「敵の土建魔法使いが、手強い。建物から離れてから、変身を解く」
「ここは引き継ぐ。帰れ」
「御武運を、ダーナ」
「あ~、もうちょい待て。…よし、許可が出た。帰れ」
「今の、何の許可?」
「変身を解かずに帰ろうとするから、制止の指示が出た。退去して解除するから、許可が出た」
「そんなに警戒しなくても」
「するのが普通だ。客観的に、そのエロい武鎧を見てみろ」
「谷間が凄いだろ」
「…ああ、凄い」
「だが、皮膚に擬態した装甲だから、揉むと感電するだけ」
「とっとと帰れ」



【ガーターベルト・タクシー内 後部座席】

 帰りのタクシーを捕まえると、リップが聞いてはいけなそうな事を、聞いてくる。
「トモトの彼氏は、押さえないの?」
 まだ話のネタに未練があるようで、拘泥る。
「愛車を人質に取って、写真データを消去させた。二件目は解決。もう帰る」
 パック型エナジーゼリーでエネルギー補給しながら、ユーシアは今日の仕事終了を宣言する。
「最後のミキミの件は、明日で間に合うよね?」
 サラサは、カメラの撮影を止めてから、返事した。
「ああ、大丈夫。手遅れだから、急がなくていい」
 新人声優兼アイドルの遭遇しそうな手遅れの案件が、一同の脳内で、イマジネーションされちゃう。

ユーシア「嫉妬深くなったセフレと同棲かな? 揉めるなあ~~」
リップ「出来ちゃったかな? 推しの子ルート?」
イリヤ「既に出産して三年が経っているでありますな。確かに、手遅れであります」
エリアス・アーク「事務所の移籍か独立でしょうか? 通常のデーアに載せない案件とは、相当な案件ですね」
サラサ「いい加減な憶測を口に出すな」

 サラサにだけは、言う資格がないセリフだった。

ユーシア「で、正解は誰だ?」
サラサ「全員、不正解。マグロ漁船に乗って、遠洋漁業に行ってしまった」
ユーシア「…引退したの?」
サラサ「若頭と同じで、出稼ぎしに行っただけだよ、遠くに」
 どの道、声優の仕事でもアイドルの活動でもない。
ユーシア「で、俺にどうしろと?」

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