上 下
6 / 8

名前のない関係。

しおりを挟む
※わりと初期のお話となっています。

人物紹介

美濃さん。
大地の許嫁?との噂もある
デキる美女。大地の留守を預かったりしている。

楓と、タロー。
狐と狸の、昔語り。に出ているメインキャラ2人。
同じく地方の守護職。


性別や、時間からも解放された
守護職たちのいわば、上司的な存在。
あらゆる糸引き役になっている事がある。







約束してよ、もう
どこにも行かないって。

誰のとこにも…。


目が眩むような陽射しが、
差し込んでくる季節。
「暑い…。」

夏は、大の苦手だから
座敷の隅で横になって
団扇で扇ぐ。

『光、また寝てるのか…』

今日は、大地が来てる。
夏野菜を沢山持って来てくれた。
料理は、俺の方が得意だから後で振る舞う予定。

「暑いよ。暑くないの?」
比較的軽装な大地。
俺は、甚平着てても暑いよ。
『心頭滅却すれば火もまた涼し。』

いやいや、
「精神論で涼しくなれたらエアコン要らないよ。」

じっと見下ろされ、なんだか居心地が悪い。

『一気に汗をかけば、その後は涼しくなるみたいだけど。』

「うん、でも汗かくの嫌いだ。」

眼鏡の奥の大地の瞳が
心なしか濁ったように見えた。

『光、モヤシみたいに薄暗い部屋に閉じこもってばっかりいないで、たまには出かけないか?』

何気に失礼な事を言われたけど、そこは気にしたら駄目。大地は、いつだって本気で大真面目。

「?なに、どこ連れてってくれるの。」

やっとこさ、上体を起こすと
大地が屈んで
『どこにしよう…水族館?』

にこりと笑った。

「えー…魚くさいから嫌。」

あ、しまった。

にゅ、と大地の両手が頬へと伸びてきて左右とも
頬を抓られた。

だって、潮くさいし
魚くさいし。
そんなんなら、家で一緒にダラダラしていたい。

「いはぁ…」
ちみちみされた頬を掌で摩り、大地を睨む。

『全く…。』
「嫌というか、わざわざ出かけなくてもいいじゃん。2人でいたら、いいのに。」

『いつも、そうだろ。俺は光が退屈しないかと思ったから…。』
「退屈なんかしないよ、大地がいるんだから。特別な事なんかしようとしなくていいから。…でも、気使ってくれてありがとう。」

『…光。』
きゅ、と抱き起こされて
自然と目が合う。
「まだ、昼なんだよ?」

『知ってる。』
暑くて、外は蝉が五月蝿くて…部屋なんかもジメジメしてる。
「俺ね、大地となら暑くても我慢できるんだ。」

調子の良い事、この上無い。
けど、事実だった。
腕と腕とが絡んでも
お腹と胸が合わさっても
全然暑くないの。

それは、冷たい土に身を置いているみたいに
むしろ心地いい。

『少し、痩せたか?』
不意に足首を掴まれて問われる。
「どうだろう…興味ないよ。」

薄く笑って返されて
大地は、困った表情だ。

『身体、あちこち冷たいな。肩や足が冷えてる。』
「暑がってるわりに、身体は冷えてくよ。アイス食べ過ぎかな?」

甚平の合わせを割って大地がお腹に触れてきた。

「ん…っ、何?いきなり」
びくっ、と身体が自然と防御反応を示す。

『悪い、光のお腹冷たいな。扇風機つけたまま寝てただろ?身体に悪いぞ。中から冷えてる。今日はシャワーより風呂にしといた方がいい。』

この、薬師してる兄は
無意識にそうやって身体に触れて俺の事を気に掛けてくれる。
昔、大地が別々に暮らし始めてしばらく経った頃に俺が大病にかかり、遣いの者が隣の國に移った大地の所まで薬を求めに行ったらしい。

それからだろう、
ちょくちょく此方にやって来ては健康管理をしたり
するようになったのは。

俺はね、大地がいなくなって…見限られたって思った。
だから、一時期は恨んでた。
身体には、指一本触れられたくなくて大地を避けてた。

会議で隣になる席が嫌で極力視線も合わせない。
そんな陰険な手を使っていた所、葵さまとか楓に見つかってしまった。

なんだろう、実は一度その前に肌を合わせてしまっていたのが悪かったのか。
実は、内心すごく気になって仕方ないくせに避けていたから、すぐに周りにバレたんだ。

葵さまは、誰も責めない。
ただ、俺の本心を聞きたいと言ってくれた。
楓は、(タローもいた)一時的に離れて仲が悪くなる訳じゃ無いけど、距離のあり方は悩むものだから、と言って自分達の話をしてくれた。

『大地、光の事しか実は興味ないよ?一見真面目で仕事人間だけど、だからよそ見もしないし。離れても大丈夫じゃないかな、光はここにいて…大地はいつも必ず来てくれるんでしょ?』

タローが、いつもの明るい口調で話す。

『大地の奴、傷付いてたぞ?門前払いされたって。逢いに来てくれてるのを光が拒絶してしまったら…大地の想いはどうなる?あいつは、距離が離れても気持ちが変わらないから、光に逢いに来たんだろ。』

町屋の並びにある喫茶店の二階で話すような内容では無いけど。

「でも…大地と俺は兄弟みたいな関係なのに…」

クリームソーダーのアイスをスプーンでつついて
ソーダーに沈めると、湧き上がるような白がグラスに広がる。

『は?今更でしょ…何言うかと思えば。ね、ショタ神』

くすくす笑って、自然と楓にくっついたり、離れたりできてるタローが羨ましく思えた。

タローは、地があんなだから。俺がしても…ね。

『だれがショタ神だ…。光の中にも大地を想う気持ちがあるなら、少しずつそれを大地に見せていけばいい。最初から、全部見せるのはウチのタローくらいなもんだ。』

美味しそうにドーナツを頬張るタローをじっと見る。

…確かに可愛い。
ショタとかじゃなくても
頭の一つは、撫でたくなる。
『光は、光らしく無理に自分を、変えようとせずとも…大地なら光を任せられる。だから、逃げないでやってくれ。大地は今新しい地で奮闘している。時には誰かに弱音を吐きたくなる事も、これから出てくるかもしれない。光なら、そんな大地を受け止めてやれる気がするよ。』

真面目な葵さまの意見に、なんとなく心が揺れた。

俺、電話が嫌い。
メールも、嫌い。

ただ、手紙は好きだった。

想いの伝え方なんかは
分からない。
けど…どんな気持ちで大地を見てきたのかは
分かる。
それでも、いいのなら
書いてみようかと思った。

大地を目の前にすると、うまく言えないのは自分でも分かる。





「ね、大地。手紙…届いた?」
『?手紙って、なんかあったっけ。…あぁ、会議のか?』

あぁ、もう…!
この糞真面目人間は。

「違うよ、そんなんどーだっていいし。俺が、出した手紙だよ。まさか、まだ届かない?三日は経つけど。」

ちょっと不安になってきた。
内容が内容なだけに。

『…ちょっと電話してみる。』

え、え…嘘⁉︎しなくていいのに。

『あ、美濃さん。留守中ありがとう。あぁ、光なら隣にいるよ。…えっ、本当?わかった…。ん、ありがとう、じゃあ帰るまでよろしく頼むよ。』

あの…
「もしかして、大地がいつもこっちに来る時は美濃が大地の家にいるの?」

『あ、…言い忘れてたけどそうだ。留守中の俺への連絡取り次ぎも兼ねて。で、手紙は、届いてるって。行き違いだったみたいだな。』

「もー、寝る。帰れ、バカ大地。」

ポカーンと、大地がこっちを見てる。
何かしたっていう自覚無いみたいで。

『寝るって、光だいたい寝てるだろ?どうした…?お前が、手紙なんかよこすなんて。びっくりしたよ。』

恥ずかしい、恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい。

耳が熱くなるのが、自分でも判る。

「うるっさい、大地が…大地が、そんなんだから!俺はいっつも苦しいんだよ、分かれバーカ…」

慌てて立ち上がり、大地を置いて居間へと向かう。

なんで、いつもいつも
ぶつかり合うのか。

もう、正直疲れてきてた。
ぶつかり合う事にも、
いちいち落胆したり
喜んだりする事も。

「なんで…美濃に…」
ふと、顔を上げて鏡を見ると自信がない癖にプライドばっかり高い自分の顔が映った。

こんな顔じゃ、
大地の前には行けない。

昔は、良かった。
なーんにも考えずに
笑ったり怒ったり。
ただ、大好きな大地と一緒にいれる時間が嬉しくて輝いていた。

さぁ、どうしよう。
今こそ…素直になるべきなんだけど。

冷蔵庫から、ほうじ茶を出してグラスに注ぎ
一口飲むと身体の力が抜ける気がした。

『光…ちゃんと話そう。逃げるのはいつでも出来る。』
すぐそこまで、大地が来てた。

困る。話は、上手く伝えられないんだって。
意地も張るから。

「俺、大地に手紙書いてたらさ…気持ちが止まらなくなった。で、思い出したんだ。昔の事色々。今からは戻れないけど、出来れば大地とこれからも…関係が変わっても一緒にいたいって。兄弟だし、男だけど…」

『光…。もう、あまり我慢しないでくれ。不安なら、俺が安心させるようにする。抱え込むな。』

込み上げてくる涙が頬を伝う。

見かねたのか、大地に抱き締められた。
『俺は、ずっと光の隣にいる。関係が変わっても変わらなくても…そのつもりだったから。』

しっかりと抱き締められて、心が満たされる。

胸がいっぱいになる。

焦がれる気持ちが増えて…
どうしようも無くなったから、背伸びをして
大地の口に唇を重ねた。

僅かな時間の停止を感じて距離を取ると、大地がほうけて居た。

「…大地の事は、最初からずっと特別だったよ。愛だって、俺は思うんだ。だから…その、前の一回は後悔しないで?俺もしてないから。」

精一杯を、ぎゅっと込めた言葉だった。

『光…お前は、俺だけの光だ。この先も。ずっと…』
しおりを挟む

処理中です...