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①放鷹

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「っはぁ、…ぁ…若…もう、無理です。」

炎天下の元、
『しっ……!』
若の大きな手のひらに息を制されて、俺は一瞬気が遠のいた。

暑い、とにかく暑い。
自分の息ですら熱いってのに。
この暑さを物ともせずに、ウチの若はまさかの元気っぷり。

草葉の陰にいつの間にか運ばれていて、意識がフッと戻ってきた気がした。
いけない、お目付け役なのに。
また若の元を離れてしまった。

『秋沙(あいさ)、戻ったか…』
陽光を遮る、勇ましい体躯に少し驚いた。
安堵した、案外と自分の傍にいてくれた事が単純に嬉しかった。
「申し訳ありません、若。逃げて行ったのでしょう?」
『俺もお前も、まだまだ一人前には程遠い。それを教えられたな。』

若は、伯父上から託された鷹を育てている。
幼鳥ながらも早く立派に育てようと、試行錯誤の毎日で
若の補佐をしながら天気のいい日には外に出て飛び方を覚えさせている。

「一服しましょう、若の…額も汗で」
まだ体がぼーっとしていて自分の体では無い気がする。
『そろそろ帰るか、あまり2羽に無理をさせてもいけない。』

2羽と言うのは、若の鷹とそして俺の名前・秋沙から来る。
秋沙も鳥だから、と若が時々こういう風に呼ぶのだ。
「しかし、かなり親鳥に近い飛び方になって来ましたね。」

上ばかり向いていて、立ち眩みを覚える。
ゆっくりと若に手を借りて起き上がる。
ぬるい風が全身を撫でていく。
若の左手には鞢(エガケ)に、放鷹が終わり拳に据えさせた。

『お前に、良い話があると父上が言っていた。』

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