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⑦バカな狐
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「この森の奥に、きのこの群生地がある。」
『どんなのを採れば良いんですか?』
昔から、きのこの成る場所は人には教えないとされてきたが
響翠に限っては教えても差し支えが無いだろう。
「毒々しい色は避けるのが1番だな。私が側で見ているから、大丈夫。」
『絵本に出てきそうな、真っ赤なきのこ…可愛いですけどね。』
「まぁ、食べればその絵本の世界に行けるんじゃないか。」
『…まだ、行きたくないです。』
冗談っぽく笑うと、響翠が私を見て
『伯明先生でも、そういう冗談とか言うんですね。』
「お前は、私を…機械か何かだと思っているだろう?」
ぽそりと言って笑いあった。
何てことの無い日常が今ここに在る。
物心ついた時からの知り合いなのに、記憶がほぼまっさらで
新たな関係を構築している。
この事自体が、響翠にとって良い事なのかは計り知れない。
すくなくとも、私は気が楽ではある。
堂々たる女装をして、男2人が外を闊歩しているのだから
傍から見れば異様な光景かもしれない。
でも、響翠の中での認知や認識が変わったのだから
し様が無い。
『綺麗なカサですよね。…っ…!?伯明先生…!む、虫が…』
小さな悲鳴が一瞬聞こえた。
何事かと思って、響翠の方に寄れば。
投げ捨てたのか、地面に喰われた痕のあるきのこが落ちていた。
「虫も、腹は空く。」
『分かるけど…!このテの虫は…無理!』
「ははぁ、随分と繊細だな。昔は虫でも何でも捕まえていたのにな。」
『…覚えて、ないです。』
「私が勝手に、覚えてるだけだ。」
『もしかして、幼馴染だったりします?』
スカートの裾を気にしながら身を屈めて、きのこを探す後姿を
私は沈着冷静に見守っている。
「さぁな。何だって良いじゃないか。それは…以前の関係の話だ。」
『でも、伯明先生が言いたくないなら。無理には聞きません。』
「ありがとう。」
『僕も、聞かされても…どう伯明先生に言葉を向けたら良いのか。時々分からなくて。
ごめんなさい。』
「お互い様だ。独り言だと思えばいい。」
響翠のぎこちない笑みが、私の心の咎になる。
カゴには多くの食べられるきのこが、小さな山を成している。
「そろそろ、良いか。」
『山葡萄も成っています。』
「あぁ、あれは…おそらくは酸っぱいはずだ。」
『でも…すごく美味しそうですよ?』
「では、食べてみると良い。」
葡萄の蔓を辿っていき、小さな房を採って響翠に手渡した。
じっ、と私の方に視線を向けながら響翠は葡萄の実を口に含んで
皮を指先でつまみ出す。
『すっぱ!!』
「だから、言わんこっちゃない。」
『でも、食べてみないと分からないんですもん。』
「あ、お前…ブラウスに葡萄の色が」
『…ぇ!?嘘……っ』
響翠の顔を覗き込んだ時の衝動は抑えられなかった。
あまりに無防備で、何故か心が揺れたのだ。
唇が重なったのは一瞬の事だった。
見開かれる響翠の瞳の色が、抜ける様に美しくて
やはり自分の恋慕を自覚させられる。
先程回収したハンカチで、響翠の指を綺麗に拭う。
『先生…汚れちゃう。』
「色は私は落とせるから、気にしない。」
『罪悪感が…すごいです。ごめんなさい。』
「バカな狐か、賢い狐か。私はどちらかと言えばバカな狐が好きらしい。」
何を言われたのか、とキョトンとしている響翠を手招く。
「帰るぞ。そのブラウスの染み抜きも早い方が良い。」
『…はい!』
小走りに響翠が私の傍に駆け寄って来た。
『どんなのを採れば良いんですか?』
昔から、きのこの成る場所は人には教えないとされてきたが
響翠に限っては教えても差し支えが無いだろう。
「毒々しい色は避けるのが1番だな。私が側で見ているから、大丈夫。」
『絵本に出てきそうな、真っ赤なきのこ…可愛いですけどね。』
「まぁ、食べればその絵本の世界に行けるんじゃないか。」
『…まだ、行きたくないです。』
冗談っぽく笑うと、響翠が私を見て
『伯明先生でも、そういう冗談とか言うんですね。』
「お前は、私を…機械か何かだと思っているだろう?」
ぽそりと言って笑いあった。
何てことの無い日常が今ここに在る。
物心ついた時からの知り合いなのに、記憶がほぼまっさらで
新たな関係を構築している。
この事自体が、響翠にとって良い事なのかは計り知れない。
すくなくとも、私は気が楽ではある。
堂々たる女装をして、男2人が外を闊歩しているのだから
傍から見れば異様な光景かもしれない。
でも、響翠の中での認知や認識が変わったのだから
し様が無い。
『綺麗なカサですよね。…っ…!?伯明先生…!む、虫が…』
小さな悲鳴が一瞬聞こえた。
何事かと思って、響翠の方に寄れば。
投げ捨てたのか、地面に喰われた痕のあるきのこが落ちていた。
「虫も、腹は空く。」
『分かるけど…!このテの虫は…無理!』
「ははぁ、随分と繊細だな。昔は虫でも何でも捕まえていたのにな。」
『…覚えて、ないです。』
「私が勝手に、覚えてるだけだ。」
『もしかして、幼馴染だったりします?』
スカートの裾を気にしながら身を屈めて、きのこを探す後姿を
私は沈着冷静に見守っている。
「さぁな。何だって良いじゃないか。それは…以前の関係の話だ。」
『でも、伯明先生が言いたくないなら。無理には聞きません。』
「ありがとう。」
『僕も、聞かされても…どう伯明先生に言葉を向けたら良いのか。時々分からなくて。
ごめんなさい。』
「お互い様だ。独り言だと思えばいい。」
響翠のぎこちない笑みが、私の心の咎になる。
カゴには多くの食べられるきのこが、小さな山を成している。
「そろそろ、良いか。」
『山葡萄も成っています。』
「あぁ、あれは…おそらくは酸っぱいはずだ。」
『でも…すごく美味しそうですよ?』
「では、食べてみると良い。」
葡萄の蔓を辿っていき、小さな房を採って響翠に手渡した。
じっ、と私の方に視線を向けながら響翠は葡萄の実を口に含んで
皮を指先でつまみ出す。
『すっぱ!!』
「だから、言わんこっちゃない。」
『でも、食べてみないと分からないんですもん。』
「あ、お前…ブラウスに葡萄の色が」
『…ぇ!?嘘……っ』
響翠の顔を覗き込んだ時の衝動は抑えられなかった。
あまりに無防備で、何故か心が揺れたのだ。
唇が重なったのは一瞬の事だった。
見開かれる響翠の瞳の色が、抜ける様に美しくて
やはり自分の恋慕を自覚させられる。
先程回収したハンカチで、響翠の指を綺麗に拭う。
『先生…汚れちゃう。』
「色は私は落とせるから、気にしない。」
『罪悪感が…すごいです。ごめんなさい。』
「バカな狐か、賢い狐か。私はどちらかと言えばバカな狐が好きらしい。」
何を言われたのか、とキョトンとしている響翠を手招く。
「帰るぞ。そのブラウスの染み抜きも早い方が良い。」
『…はい!』
小走りに響翠が私の傍に駆け寄って来た。
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