DESERTの憂鬱【カシスソルベが溶ける前に】

あきすと

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あれからも交際は続いてはいる。僕はのらりくらりとまたモデルとして
活動をしながら、学生生活を送っている。

要は、酒屋で働きながら時々ボランティアで地元の子供たちに
書道を指南している。

一緒に年越しを過ごして、初詣に行き
春には近所の河川敷を何度か散歩したり
和やかな交際をさせてもらっている。

僕もそろそろ、進路について考えなければいけない。
「そういえば、もう夏休みだろ?璃端。」
連休明けで、何となくずるずると家でダラダラ過ごしている所に
要が帰宅してすぐに晩御飯を作ってくれる。

エプロンをつけて後ろ髪を束ねた姿は、とてもプライベートな気がして
心が騒ぐ。
『もう、すぐ。試験もレポートも来週には終わるよ。でも、集中講義が1つあるから…しかも来月。』
「通いだと大変だな?俺は中退した身だけど…。璃端は優秀だから、頑張って卒業して欲しい。」

お鍋から立ち込める、炒めた玉ねぎの匂い。
まな板の上には色とりどりの夏野菜。
今夜は一体どんな美味しいものを作ってくれるんだろうと期待する。

「ほんと、真夏の電車は…空いてればいいけど。」
『…電車で声掛けられないか?璃端なら。女の子に人気だろ?』

「あぁ、それは掛けられても応えられないし。公共の場だからね。写真とかはゴメンナサイ。だよ。」
『お前は、そういうルールとかマナーに本当はめちゃくちゃ厳しいよな。』
「本来はね。」
『悪い、璃端、ちょっと冷蔵庫から生姜取ってくれる?』

無水鍋で野菜を軽く炒めては、香辛料を加えていく要。
首筋には薄く汗が伝っている。

「はい…。」
要の後ろに立って、左手を腰に添えて差し出す。
と同時に、首筋にキスをした。

少し遅れて、みぞおちに要の肘がめりこんだ。
「…なんで~っ…?」
『あつい・うざい・じゃま♪』

わぁ、こんなにも分かりやすい理由は無い。
本当に、本庄要って人はいつでも素直で嘘が無い。
例え、それが恋人相手でも
はっきりと言って来てくれる。

僕は、こういう要だから助かる。むしろ、ホッとしている。
要が包丁を手にする前に仕方なく離れて、ソファーに戻った。
エアコンの風が喉を冷やすといけない。
そんな気遣いをしてくれる恋人の、繊細な一面を想いながらハーブティーを飲んだ。

しばらくして、雑穀の混じったご飯と一緒に夏野菜のスパイスカレーとサラダが運ばれて来た。
『配信、この後?』
「うーん、今夜はやめとこうかな。」
『…俺と居るから?』
「そうだね、自室で配信する方がリラックスしてるのは…確かカモ。」

春から、事務所の勧めでSNSを通じて配信をするようになった。
音声配信だから、顔出ししなくても気楽に雑談しても流せて
案外好評で驚いている。

『いただきます…っ』
目の前の要も、日付が変わる頃にスタンバイして
寝落ち配信として活用しているみたい。

「不定期だから、続けられてるのはあるね。さて、いただきます。」
要の料理は色どりがいい。味ももちろん美味しい。
見ていてどこか元気になる、そんな料理を作ってくれる。
『お前、もう少し早い時間に配信はしないの?俺、待ってるの時々キツくて、先に寝ちゃう。』

離れていても、ラジオで声が聞けることが嬉しい。
初回の放送後に、要からのメッセージを開いて僕も純粋に嬉しかった。
ただ、要の為だけには放送できないけれど…。

お互い、都合がつかなくて1週間くらい会えない時もある。
だから、配信が要と僕を繋いでいる事が実感できる。

「夜更かしは、感心しないよ。僕が居ない時は早寝しても良いんだからね。」
『…!どういう、意味だよ…バーカ。』

ほんのりと頬を赤くさせて、要は僕を軽く睨んだ。
素直に可愛いと思う。
これでセフレが居たなんて、今でも信じられない。

いや、あまりそういう目で見てはいけないとは思うのだけれど。
さっき、要に寄り添った時の一瞬の匂いが嘘みたいにいい匂いで。
「要、香水とかコロンつけてる?」
『まっさかー、酒屋でそんなもん付けられないだろ。』

僕は、趣味で集めている香水がいくつもある。
けど、それらよりも自然でほのかな香りがしてドキッとした。
きっと、要本人の匂いなんだろう。
『…ぇ、俺もしかして、汗臭かった?ゴメンなー。璃端お腹空いてるかと思って、とりあえず晩御飯作った方が良いかと思って。』

あ、いけない。また要が勘違いのループに入りかけている。
「そう、じゃ…なくて。むしろいい匂いがしたから…えーっと、」
『マジで?なら良かった。そういえばさ、最近お風呂で璃端に貰ったボディソープ使ったりしてる。』

僕の好みの匂いなのは、そのせいか。
「好きです…、あと晩御飯がいちいち美味しすぎます。」
『あははっ、びっくりした~。…ん、今日も璃端が食べてくれて俺も嬉しい。』

「要、実は今日は今後の事について…少し大事なお話をしたくて来ました。聞いてくれますか?」

要は、僕の言葉に少しだけ怯えたような表情をして
間をおいてから大きく頷いた。

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