上 下
1 / 3

僕の伯父様。

しおりを挟む

僕の伯父様は、すこし面白い。
『謎は、勝手に解くんじゃない。魅力が半減してしまう。』

こんな事を、さもあたり前であるかのように
言って来た。

僕が子供の頃の話だ。
初めて、母の兄である伯父様の家に遊びに行った時の
話だった。

伯父様の書斎に、案内された僕は
今思えば、お調子に乗ってしまっていたのだ。

伯父様は、紳士でありながら
子供にも持論を展開して、戸惑わせる程の
やや大人げなさを持っている。

11歳の僕は、伯父様の事を理解しかねる
不思議な存在として認識したのだ。

母が言っていた言葉の意味が、やっと理解できた。

『伯父さんの前で、間違ってもナゾナゾだの、クイズをしちゃだめよ。
とても、ややこしい事になるのだからね。』

母の言葉と、表情が脳裏によみがえった。

僕は、伯父様の書斎の異様さに圧倒されて
目を瞬かせているばっかりで。

書斎の奥には、古めかしいドアがある。
あぁ、駄目だ。僕の好奇心が邪魔をする。
うずうずして、思わず聞いてみたくなる。

『きみが思うような謎は、この部屋には何もない。何でもかんでも
謎が隠されているなんてことは無いのだよ。すべて、明確に説明のつく
事柄ばかりであると、念押しさせてもらおうか。』

伯父様は、母の2つ上であり家業を継いで
働いているのだと聞いていた。
薄暗い部屋の明かり、古い本の匂い、なびくレースカーテンから
見える、緑の多いお庭。

古い柱時計が、鳴り出すと伯父様は
『もう、お茶の時間だ。きみのお母さんは、きみを置いて一体どこに行ってしまった?』
落ち着かない様子で書斎から出て、僕を渡り廊下を歩いていく。
歩き方が、僕からすればかなり早い。
小走りになって、後を追う。

「待って、伯父様…」
伯父様は、人が苦手で謎を愛し
生家をとても大事にしながら、暮らしている
やっぱりちょっと変わった、僕の伯父様です。
しおりを挟む

処理中です...