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命尽きる瞬間を白虎はどう感じていたのかは
分からないけど、もしかしたらその後
喰らってたのかもしれないし。

神社の帰り道に聞いてみる事にした。
『俺の、役目が終わったと思った。』
まさかあの白虎と相合傘をして帰路に
つくとは思わなかった。

聞きたい事は山ほどあるのに、
想像以上に端正な横顔を見てしまうと
上手く言葉が出てこない。
『お前はまた、大きな業を背負って生まれて来たな。』

一体そんな出立ちでどこに行ってたの?
「…俺が生まれると災禍でもやって来るの?」
『場合によってはな。』
和装のコートがとてもよく似合う。
「あのさ、びゃっ『悠寅。今の俺の名前だ。』ぅあ、…ごめんなさい。そうだよな、もう本当の虎の姿じゃないんだった。」

声にさえ目を見開いてしまう。
慣れない、まだ。
『どうして、俺があの時の虎だと分かった?』

ふわりふわりと綿雪に変わる雪。
白虎は雪空に向かって顔を上げる。
「俺も、何でだかは分からない。でも、懐かしくてたまらなくなって。」

家まで送る、だなんて言われて驚いた。
意外に近い距離ではあるものの
学校区は違うせいで、俺は昔の白虎と
試験会場で会うまでは、知り合う事なく
暮らして来たんだ。

『俺は、匂い…だな。胸が苦しくなる香り。』
惹かれ合う事からは逃れられないのか。
「悠寅…くん。」
『あぁ、なに?』
「今は俺と同い年なの?」
『多分、1つだけ歳上かもしれない。』
「…なんだか、照れくさい。一応は俺の事を喰らおうとしてた相手なのにね。」

ゲームのキャラと話してる様な感覚。
悠寅はあまりにも美形で、
あんまり現実味が無い。
『喰らおうとしてた、は聞き捨てならないな。俺は…辰を護ろうとはしてた。』

よく見れば琥珀色の瞳が俺を見下ろした。
「うそだ、絶対何かしらしたに違いない。」

家がそろそろ近づいて来た。
さすがにこれ以上は引き留められないか。
『…俺は理由あってお前とはしばらくの間引き離されて輪廻の輪から外されていた。禁忌を、犯したからだ。』

俺はまだ悠寅と言う人間の中身を知らない。
触れて良いのかも分からない。

「やっぱり、俺の体は…」
『いや、俺がしたのは喰らう事では無かった。』
家の玄関前まで来て、お礼を告げた。
傘を差し出す悠寅の眼差しが
切なげに見えるのは気のせいか。

「もう、前世の事は言いっこなしだよ。春からはきっと同じ大学に通うよな?」
『おめでとう。俺も合格だった。』
「俺、さ…試験の日気になってたんだ。悠寅くんの事。ちゃんとお昼御飯食べてたのかな?って。」
『…え、あぁ。心配無い。そっか、まさかそこまで思われてたとは。』

「馴れ馴れしいかな?」
時間が惜しい。まだ話したい。
『嫌、では無いかな。じゃそろそろ…』
悠寅は軽く腕を上げて、手を振ってる。

「ありがとう、こんな事までしてもらっちゃって。」
少しだけ、悠寅の鼻が赤くなっていたのが見えた。
謎が多い。知りたい、けど
距離感がどのくらいが良いのか悩む。

入学してからかな?
もう少し仲良くなれそうなのは。


後日、驚きの写真を昔のアルバムから
見つけてしまった。
幼稚園の頃の写真に映っている、白髪の人物。
その日は休日で、仕事が休みの母親に
聞いてみたらとんでもない事が判明した。
「悠寅ってあの神社の息子なの?!」

よくよく聞いてみると親戚ではあるらしく
一緒に暮らしているのだそうだ。
しばらく同じ幼稚園に通ってはいたものの
海外で暮らす事になったらしく
数年前に帰国して来たとの事。

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