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【伊吹視点です】




『しっつれいな奴~っ!許せんて。』
志摩はスマホで動画を見ながら、腹が立って仕方ないらしく。

たまの休みに、動画を撮影して上げたものに
ついたコメントが志摩の神経を逆撫でした様だった。

志摩と俺は忍術の事について解説したりする
個人チャンネルを作成して、そろそろ半年ほどになる。

互いに顔出しをしているせいで、俺自身に対しても
コメントなどが寄せられる場合もあった。

『伊吹の事、だれ、このオッサンって…こんな事いちいち書き込むものなん?』
「…誰って、テロップで最初に説明書きが入ってると思うけど。」
寝る前にスマホをいつまでも見ている志摩に、近頃では
なんとなく焦れてしまいそうになる。

言葉では、言いにくい事だった。
もう少し、動画ではなくて…自分を見て欲しいだなんて。

仕事がらみで、動画の編集もしだした志摩は
以前の様に一日中寝たりして過ごす事は、減って来た。
ただ、その代わりなのかは分からないが
ストレスが溜まるらしく。

『なぁなぁ~…伊吹の、余ってんなら貰ってあげても良いよ?』
とかクスクス笑って、布団からすんなりとした脚を俺の脚に絡ませてくる。
俺の幼馴染は、随分と積極的になったものだ。
猫なで声で、しまいには隣で寝ている俺の布団に忍び込んでくる。
(そっち方面は本当に、お上手と言うのか何なのか。)

「もうスマホはいいのか?」
『…!あ、あぁ~そういうコトか。ふふっ、伊吹ってば面白くなかった?』
「目が悪くなる。心配してるんだ。」
『大丈夫…俺も伊吹もそんな心配なんていらないのにさ。誤魔化すの下手なんさ、伊吹は』
可愛い、と不本意ながらも志摩に頭を撫でられた。

するすると、俺の腕の中におさまる
か細い体。
『伊吹の匂いでいっぱい…』
ぽそりとつぶやく志摩を抱き寄せる。
パジャマの上から、志摩の胸に触れる。

手のひらには、確かな鼓動を感じてたまらなく
愛おしい気持ちに呑まれる。

体格差がある為、壊れ物にでも触れる時の手つきを意識する。
腰の細さに薄さが加わると、劣情が頭をもたげようとする。
自分の本心は、ずっと隠してはいるものの薄々気が付いている。

「今にも手折れそうで怖いな…」
『…あぁ、そう?でも…伊吹になら良いよ。』
笑えない冗談を言って、悪戯っぽく志摩が唇を寄せて来た。
最近、頻度が増えて来ている。
週に数回は夜も、朝方でさえも体を繋げている。

俺が思うに、少しだけ志摩はこの世界に毒されているのだと思う。
シている最中は他に何も考えなくていい、と以前
何気なく言ったのを思い出す。

「志摩は、どうして俺を求めるんだ?」
『ぇ…そりゃぁ…、昔から好きだったし。何だよ、今頃こんな事聞いて来て。』
ついばむ様なキスをして、志摩は横になって視線を俺に向ける。
「大丈夫なのか?お前は昔から他の人からの気に影響を受けやすいだろう。」
『うん、そうだよ。だから、…伊吹の方に来ると少し中和される。』
「分かっているなら、いいんだ。」

庇護欲を掻き立てる、志摩は決して頼りない訳では無いし。
むしろ、その責任感の強さのせいで、自身まで苦しんでいる事が多々ある。
想い合っているのは大前提であり、俺は過敏な心の持ち主でもある
志摩をなんとかして負担を減らせないものかと思っていた。

『でも、びっくりした。俺さ、伊吹はこういうの…イヤかなぁって思ってたんさ。』
ぎゅ、と握り合った手と手。
やっぱり、志摩の手のひらは冷たい。
だが俺は知っている。
繋がっている最中の志摩の体は、ちゃんと熱くなっていく事も。

「消耗が酷い時は、遠慮するな…せめて家の中ではな。」
頬に触れると、きゅっと目を閉じてしまう仕草が
猫みたいで愛くるしい。

『すっごく、勇気が要るんだからな…。死ぬほど、恥ずかしいし。もし、断られたらって思うと…』
今まで、俺が志摩からの誘いを断った事は一度もない。
が、俺から言ってやんわりと断られた事があったのは
この際忘れてしまおう。
「……俺は断らないぞ。」
『ぅん、そうして…これから、も…。』
唇を重ねて、ゆっくりと志摩の口内を蹂躙する。

淫靡な湿った音が耳にやけに大きく聞こえて来る。
夜も更けて来ている。
一番、志摩が綺麗に咲く時間帯だ。

パジャマのズボンを布団の中で、脱がせていく。
志摩の瞳は、わずかに細められて散らばる微細な光が
瞬いている。
手が届きそうで、届かない輝きをゾクゾク感じる。
くるぶしから、脹脛、太腿を軽く手のひらでなぞって
内腿にキスをすると、
『ゎ…っ、くすぐったいよ…』
膝同士を寄せようとするのを、手を挟んで阻む。

修復が追い付いていれば、また志摩の後孔を解かなくてはいけない。
本人もこればっかりはどうしようもない為、俺に対して遠慮しているのは
なんとなく気配で解っていた。
「ここ、いいか?」

志摩は一瞬目を見開いて、小さく頷く。
『うぅ…、やっぱりまだ慣れない。』
志摩の手がのばされて、俺の頭や髪に触れている。
きっともどかしくて、恥ずかしいけれど求められない事に
くすぶっているんだろう。
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