①天乃屋兄弟のお話

あきすと

文字の大きさ
1 / 27

依頼屋

しおりを挟む
天乃屋の家は、代々『依頼屋』を請け負ってきた。
7代目は、兄である天乃屋月夜が継いでいる。
俺は、そんな兄の体のいいアシスタントとして日々
こき使われたりしている。

本業は、占い師でありながら他の依頼があれば兄の気分次第で
請けてしまう。
家と小さな事務所が一緒になった、治安のあまり良くない
繁華街の片隅に、ウチの事務所は一応、構えてはいる。

酔っぱらいの相手の方が多い気もする毎日だけど、有能な?
兄のおかげでなんとか、路頭に迷うことも無く今日も暮らせているのだから
感謝はしても、しきれない。

今日も、昼前まで寝ている兄を起こしに2階に上がる。
陽射しが随分と強くなって来た。夏がじわりじわりと近付いているのを
実感する日々だ。
まぁ、その前に梅雨なんだけどね。

兄の部屋は2階の日当たりのいい部屋にある。
俺は一階。両親が寝起きしていた部屋にいる。

階段を上がってすぐの窓を開けて、少し風を取り込む。
これだけで、随分とからりとした空気が部屋に入り込む。

「兄貴、起きろ~。もう昼前!」
ドアをコンコンとノックする。
起きるはずも無い。
ガチャッとドアを開けて、部屋の中に入って半裸で寝ている兄のタオルケットを
はぎ取った。
『星明…?』
ぽやんぽやんな寝起きの頭で、やっと出て来た名前が俺でまだ、良かったと思う。
いつもなら、飲み屋の姉さん方の名前で呼ばれる。

「起きろ…!?ぅわ…」
急に腕を引かれて兄のベッドに、倒れこんでしまう。
『何だぁ、星明かぁ…残念…』
笑顔で言われるから、傷つかないと思ってたけど
今まで何度言われたか分からない、この言葉には俺も結構
心が痛かった。

「他に誰かいるのかよ…」
『えーと、美紗に、レイラ、ちとせに、あやめ…』
「もー、分かったから離せよ。」
崩れた体勢で手をついてしまったせいで、何だか手首に違和感があった。

俺は、立ち上がって手首を動かしてみる。
『どうした?』
「いや…、なんか変な体勢で手ぇついたからかな。…手首が、」
急に真面目な顔に変わって、ベッドの上から俺の方に来ると
正面から覗き込む。

「わ、…びっくりした。」
『ゴメンな、痛い?』
ジッと見上げて来る兄の…顔が無駄に良いから
「大丈夫、一瞬違和感があっただけだから。」
綺麗なはちみつ色に、碧い瞳で見つめられると、言葉に詰まってしまう。
『はぁ、星明に何かあったらどうしようかと思った。』

見た目の派手さに反して、兄はめちゃくちゃ優しい。
だから、困る。そもそもが、お人よしでもありこの容姿のせいで
今まで何人の女性と付き合ったのか…。

「心配し過ぎ。でも、本当に過保護が過ぎるよ?さ、もう朝ごはんじゃなくて
お昼ご飯くらいになってるけど。準備できてるから、下で待ってるね。」

身支度を促してから、ドアノブに手をかけると
『星明…、』
呼ばれて振り返る。
『今日も、可愛いな…。』

はぁ?
「馬鹿言ってないで、ご飯冷めちゃうから。急いで…!」
部屋を後にしてから、俺は階段を駆け下りた。
また、だ。
兄の気まぐれな言葉なんて、いちいち気にしなければいいのに。
俺は、昔から兄に言われる言葉を真に受けてきてしまったから
内心凄くうれしいのだ。

でも、喜ぶところはあんまり見られたくはないから
こっそり一人で、台所でにやけてしまう。

両親が、海外に行ったまま帰って来ないので
俺と兄は10年近く、二人で暮らしている。
料理とか家の事を、最初は兄がやっていたけれど、どうにも
得意ではないのが、横で見ていてよく分かったのだ。

ならば、俺がしてみようかな?と始めた家事。

案外、料理にしても苦では無かったし兄が『美味しい』って言ってくれた時の
嬉しさが今でも続いているから、すっかり板についてしまった。
兄は、兄で人たらしで占いも出来て人の心を読むのが上手い。

人にはそれぞれ、得手不得手がある。
補い合えば、何とか生きていけるものだと子供ながらに思った。

そして、俺は数年前から実は結構大きな悩みを抱えている。
単純すぎる答えを知りながら、ずっとその答えを選べずに来た。

「兄貴には、バレない様にしなきゃな。」
着替えを済ませて台所にやって来た兄は、俺の背後に来て
『何を…?』
と、聞き返してきた。
「ぇ、何が?」
まさかでしょ?あんな小さい声が、聞こえてるはずがない。

『しらばっくれてもダメ。聞こえたからな。何がバレたらまずいの?』
兄の地獄耳が、恐ろしい。

「気のせい、気のせい…。で、どうしたの?」
『ゴムしらない?』
「ゴムってなんのゴム?」
『髪縛ってるやつ…。ん?他に何のゴムがある?』
エプロンのポケットを探れば、やっぱりあった。

「何でも良いから、早く食べないと…。1時から依頼主さんが来るんだからね。」
俺は、兄の斜め前の席について少し早い昼食を摂る。
兄は、髪を結わえるとやっと椅子に腰を下ろした。
いつもと変わらない静かな食卓。
これが天乃屋の兄弟の日常である。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お兄ちゃん大好きな弟の日常

ミクリ21
BL
僕の朝は早い。 お兄ちゃんを愛するために、早起きは絶対だ。 睡眠時間?ナニソレ美味しいの?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

お兄ちゃんができた!!

くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。 お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。 「悠くんはえらい子だね。」 「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」 「ふふ、かわいいね。」 律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡ 「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」 ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...