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女魔王と女勇者
しおりを挟むアウィスと呼ばれた男は、初めて魔王に会った時に彼女の隣にいた片目隠し男であった。
「魔王様と女勇者の話を聞きたい?いいですよ。私から聞いたことは、魔王様には黙っておいてくださいね」
そう言いながら、アウィスはテーブルの前のイスを引いてミスティに座るよう促す。
キティも彼女の隣のイスに腰掛けた。
「女勇者…ジョアンは、当時本当の意味で悪逆の限りを尽くしていた魔王様を討伐しにきたのです。魔王様は700年ほど前まで、積極的に人間界を襲っていたのですよ」
「な、ななひゃく…?!」
彼女はどう見てもせいぜい10歳ほどにしか見えない。700年前に生きていたなんて信じられない。
「魔族は寿命が長いのです。ちなみに私は、神代から生きていますので…年齢を数えるのはやめました」
「神代って…」
「私は昔、神々の乗る馬車をひいていたのです。ですが、愛する女神を独占したくなって、彼女の馬たちを皆殺しにしてしまいました。その罰として神々の世界を追放され、ひっそりと森で暮らしていたのです。そこに現れたのがジョアンでした」
ミスティは話の展開についていけずにいた。
「あの森は今でも”境界の森”と呼ばれているのでしょうか。あの森は、異なる世界の境界となっている森なのです。人間界、魔界、神の世界…魔王討伐のため魔界に乗り込もうとしていたジョアンが、そこで私を見つけてくれたのです」
『境界の森』にそんな意味があったとは。ミスティはずっと、国境にある森だからそう呼ばれているのだと思っていた。
迷い込んだら出られないというのは、違う世界に渡ってしまうからかもしれない。
「彼女は追放の際に潰されていた私の片目を魔法で癒してくれました。恩に報いるため、私も魔王討伐にお供することにしました」
魔王討伐…とアウィスは言うが、魔王様は今も生きている。討伐に失敗したのだろうか?
「ジョアンは相手を殺さずに無力化するのがうまかった。魔王様の絶大な魔力をすべて小さな箱に封印し、彼女をただの無力な小さな女の子にしたのです」
無力な魔王様…。今はなんだか凄みがあるけど、ただの女の子になった魔王様はきっと悶絶するほどキュートだろう。
「魔力を封じられた魔王様は生活すらままならなくなりました。その上、魔族たちは次期魔王の座を狙い、無力になった魔王様の命を狙っていたのです。そのため、ジョアンは魔界に残って魔王様を守ることとなりました」
私もきっと、魔法を封じられたら生活すらできなくなるだろう。ミスティは魔力がなくなった自分を想像して身震いする。
「ジョアンは魔王様と生活を共にする中で、彼女に愛を教えました。まるで母のように、魔王様を愛したのです。魔王様もジョアンのことが好きでした」
自分を無力化した相手のことを好きになるなんて、どれだけの愛を注いだのだろう。どこまですれば、魔王様に好きになってもらえるのだろう。会ったこともない700年前の勇者に嫉妬する。
「魔王様はそこから変わられたのです。ジョアンは結局、彼女の寿命が尽きるまで魔王様と共に過ごしました。死の間際に、封印していた魔力を魔王様に託して亡くなったのです」
「ジョアンは魔王様を信頼していたのね」
胸がちくちくと痛む。700年も前の話だし、もう勇者は死んでいる。
しかし、魔王様の長い人生を大きく変えるほどの影響力を与えた女勇者がうらやましかった。
「ええ。魔王様は、ジョアンの期待に応えて立派な王になりました。人間を襲うこともなくなり、魔族たちにも愛を教えようとされています」
「愛を?」
「ええ。魔王様は、魔族の子たちを自ら育てていらっしゃいます。希望する者には子育てをさせていますが、長い歴史の中で魔族の子育てなど類を見ないものですからね。寿命が長く世代交代が進まないことも相まって、600年以上経った今でもなかなかうまくいきません」
魔王様が子育てを…?!私も魔族の子供に混ざりたい。
「魔王様が育てた一部の魔族はすでに成長し、今や立派な大臣や政務官にもなっています。彼らは外の世界との交流をすべきだと言っていますが…魔王様は強く反対しておられます」
「どうして?」
「魔族が人を傷つけることを恐れているのです」
アウィスはそう言って、小さくため息をついた。
ミスティはそれを聞き、改めて決意する。
「よし!やっぱり魔王様に私の国を滅ぼしてもらおう!」
「…話聞いてました?」
アウィスはミスティの言葉に、呆然としながら聞き返した。
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