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ヒロインに選ばれなかった第二王子の平凡な幸せと失恋
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彼女が学園に入学してきた時、男たちは皆心を奪われた。
貴族の令息や令嬢が通うこの学園に、平民でありながら入学してきたという時点で彼らにとっては衝撃的であった。
その上、彼女は美しかったのだ。
この国の第二王子であるアマンシオも彼女に焦がれたもののうちの一人だった。
彼には伯爵令嬢のアデラインという婚約者がいる。
アデラインは社交界の花と言われるほどに美しく、立ち居振る舞いから教養まで、何もかもが完璧な女性であった。
しかし彼らの前に現れた平民の新入生プリシラは、アデラインとは全く別種の美しさをまとっていた。
そのしなやかな肉体に宿る溌剌としたエネルギー。
瞳は空を丸ごと閉じ込めたかのように青く、見つめられれば誰だってどこまでも深く落ちていく。
わずかに開かれた唇はどこかけだるい印象を与えた。
そしてなんといっても、彼女の微笑み!
貴族の令嬢が浮かべる上品なものとは違い、そこには確かにいたずらっぽい無邪気な誘惑が込められている。
その微笑みを向けられるたび、アマンシオは何日もずっとそこに含まれた意味を考えなければならなかった。
他のことなど考えられないくらい、彼女のことで頭がいっぱいになってしまう。
彼女は僕を愛しているのだろうか?愛しているに違いない。純粋な誘惑を含んだあの唇!
彼女を僕のものにしたい。僕だけのものにしたい。
だが、物事はそううまくは進まなかった。
まずアマンシオが考えなければならなかったのは、美しい婚約者アデラインの存在であった。
アデラインは、奔放に振る舞う平民のプリシラに厳しいまなざしを向けていた。
プリシラは学園中の男を虜にし、彼女自身、それを楽しんでいるようにも見える。
貴族の娘として幼い頃から教育を受けてきたアデラインにとって、プリシラの行動一つ一つが受け入れがたいものであった。
プリシラは婚約者がいる男にも平気で微笑みかける。
アデラインの婚約者であるアマンシオに対しても平等に、その誘惑を向けるのだ。
彼女にとっては当然面白くない。
その上、平民出身のプリシラには貴族として当然の礼儀も身についていなかった。
低位の者から名乗るのはこの世界の常識だが、あろうことかプリシラは初めて出会ったアデラインに「あなた、すごくきれいね!お名前はなんていうの?」と無邪気に尋ねたのだ。
アデラインにとっては屈辱だった。
平民に対し、自分が先に名乗るなど誇り高い彼女には許せなかった。
元々、これ以上下がりようがないほどの悪印象を抱いていたのに、さらに自分の婚約者にべったりとくっついているのだ。
アデラインはプリシラを嫌っていた。アマンシオがプリシラと会話をすることさえ許さなかった。
もう一つアマンシオが考えなくてはならなかったのが、他の男たちの存在だ。
プリシラは奔放な女性であった。
複数人の男に同時に気のある仕草を見せるので、彼らは同時に悩まなければならなかったのだ。
たくさんの男たちが彼女の心に残ろうと力を尽くした。
アデラインの厳しい監視の下では、アマンシオにできることは限られている。
それでも彼は彼女に選んでもらいたかった。いざとなれば、アデラインとの関係を断ち切る覚悟だってあった。
彼女はしばらくアマンシオの前に現れないこともあったが、彼が諦めかけたころに気まぐれにまた彼を誘惑した。
いつかは戻ってくるかもしれないという思いが彼を永遠に苛んだ。
彼の青春は、プリシラにすべて捧げられてしまったのだ。
彼が生涯忘れることのない思い出を紹介しよう。
彼はプリシラを連れて、美しい湖を訪れた。
貴族たちにとって湖は眺めるもので、ボートを浮かべて楽しむためのものだった。
しかし彼女は突然服を脱ぎ始め、肌着も同然の服装で水に飛び込んだ。
しぶきが太陽の光をうけてきらきらと輝いて、彼女の笑顔をより強烈に照らし出す。
今まで見たどの芸術よりも美しい光景を、彼はただ立ち尽くして眺めることしかできなかった。
結局彼女がアマンシオを選ぶことはなかったので、この思い出は苦く切ない失恋の記憶として彼の中に残り続けた。
プリシラが選んだのは、頭脳明晰なロベルトであった。彼は今やこの国の宰相だ。
アマンシオはというと、アデラインと結婚し、与えられた領地を治めて平凡な幸せを手に入れた。
アデラインは子を産んでもなお美しい。
良き妻として、アマンシオに尽くしてくれる。
彼は妻に対して不満などなかった。だが、彼の中には青春の象徴としてのプリシラが残り続けた。
彼は、アデラインのことも愛している。良き夫であろうとし、妾などは一切作らなかった。
それでも、彼の中に残るプリシラの存在を、アデラインも感じ取っていた。
だからといって彼女にできることは何もない。
終わったものを追及することなどできないし、アマンシオは結局アデラインを選んだのだ。
プリシラの存在はアマンシオを甘く苦しめたが、アデラインにとってもまた苦しみの種であった。
彼の恋の終わりは突然に訪れた。
彼らの領地に、王都から近衛隊長のルイスがやってきたのだ。
ルイスも学生時代、プリシラに焦がれた男の一人であった。
「アデライン嬢は今も美しいね」
ルイスとアマンシオは幼い頃から親密で、アマンシオは自分より身分が下のルイスにくだけた言葉遣いを許していた。
「あんなに美人な奥様をもらえて、アマンシオはこの国一番の幸せ者だよ」
ルイスの言葉に、アマンシオは複雑な気持ちとなった。
彼もかつてはプリシラに心を奪われ、彼女を奪い合ったライバルであったはずなのに。
「プリシラ嬢は…」
アマンシオはとっさに口に出してしまったが、続けるべき言葉を思い浮かべることができなかった。
「ああ」
ルイスは短く声をあげ、それから続ける。
「彼女はロベルトと結婚したよ。結婚式の彼女は美しかったと思う。もう忘れたけれど」
ロベルトと愛を誓う彼女を想像すると、やはりいまだに胸が苦しくなる。
その姿はきっと、あの日しぶきの中で輝いていた彼女と同じくらいに美しいだろうに…それを忘れることができるなんて。
「プリシラ嬢は結婚してから輝きを失ってしまってね。聖女のように見えていた彼女も、俺たちの母さんと同じだったのさ」
母親のような姿のプリシラを想像することができず、アマンシオは黙り込んでしまう。
「あれだけ奔放だった彼女が貞淑な妻になったんだ。ロベルトが何をしても彼女は許す。いや、彼が酷いことをしているとかではなくて」
貞淑なプリシラ、というのはひどく矛盾したような言葉に思えた。
「貞淑になったのなら、良かったじゃないか」
「ああ。ロベルトにとってはそうかもしれない。だが、なんというか…俺たちが焦がれたプリシラ嬢はもういないんだよ」
ルイスは慎重に言葉を選んで話している。
「時々、ロベルトを迎えに来た彼女と顔を合わせることがあるんだ。年相応の細かいしわが刻まれた目じりを垂らして、俺に微笑みかけてくれる。そこにはもう何の意味もないんだ」
学生時代の彼女の微笑みを思い出す。
そこに含まれた意味を考え出すと眠れなくなるほど高揚したものだ。
「彼女は幸せそうだ。でも、俺が好きだったのは多分、激しく何かを求めてもてあそぶ、満たされていない彼女だったんだ」
アマンシオには、ルイスの言わんとしていることがなんとなく分かる。
彼女のあの、若さを爆発させたような魅力はもう永遠に失われてしまったのだと理解せざるを得なかった。
その事実はアマンシオの胸を突き刺した。
彼女がロベルトを選んだその瞬間よりもずっと確かな失恋の実感がそこにはある。
彼女はもう戻らない。
「今のアマンシオを見て、結婚もいいかなってやっと思えた」
帰り際、ルイスはそう言った。
彼を見送るために集まった、小さな子供たちと美しい妻に挨拶を済ませて彼は去っていく。
その背を見つめながら、アマンシオはそっと妻の肩を抱き寄せた。
貴族の令息や令嬢が通うこの学園に、平民でありながら入学してきたという時点で彼らにとっては衝撃的であった。
その上、彼女は美しかったのだ。
この国の第二王子であるアマンシオも彼女に焦がれたもののうちの一人だった。
彼には伯爵令嬢のアデラインという婚約者がいる。
アデラインは社交界の花と言われるほどに美しく、立ち居振る舞いから教養まで、何もかもが完璧な女性であった。
しかし彼らの前に現れた平民の新入生プリシラは、アデラインとは全く別種の美しさをまとっていた。
そのしなやかな肉体に宿る溌剌としたエネルギー。
瞳は空を丸ごと閉じ込めたかのように青く、見つめられれば誰だってどこまでも深く落ちていく。
わずかに開かれた唇はどこかけだるい印象を与えた。
そしてなんといっても、彼女の微笑み!
貴族の令嬢が浮かべる上品なものとは違い、そこには確かにいたずらっぽい無邪気な誘惑が込められている。
その微笑みを向けられるたび、アマンシオは何日もずっとそこに含まれた意味を考えなければならなかった。
他のことなど考えられないくらい、彼女のことで頭がいっぱいになってしまう。
彼女は僕を愛しているのだろうか?愛しているに違いない。純粋な誘惑を含んだあの唇!
彼女を僕のものにしたい。僕だけのものにしたい。
だが、物事はそううまくは進まなかった。
まずアマンシオが考えなければならなかったのは、美しい婚約者アデラインの存在であった。
アデラインは、奔放に振る舞う平民のプリシラに厳しいまなざしを向けていた。
プリシラは学園中の男を虜にし、彼女自身、それを楽しんでいるようにも見える。
貴族の娘として幼い頃から教育を受けてきたアデラインにとって、プリシラの行動一つ一つが受け入れがたいものであった。
プリシラは婚約者がいる男にも平気で微笑みかける。
アデラインの婚約者であるアマンシオに対しても平等に、その誘惑を向けるのだ。
彼女にとっては当然面白くない。
その上、平民出身のプリシラには貴族として当然の礼儀も身についていなかった。
低位の者から名乗るのはこの世界の常識だが、あろうことかプリシラは初めて出会ったアデラインに「あなた、すごくきれいね!お名前はなんていうの?」と無邪気に尋ねたのだ。
アデラインにとっては屈辱だった。
平民に対し、自分が先に名乗るなど誇り高い彼女には許せなかった。
元々、これ以上下がりようがないほどの悪印象を抱いていたのに、さらに自分の婚約者にべったりとくっついているのだ。
アデラインはプリシラを嫌っていた。アマンシオがプリシラと会話をすることさえ許さなかった。
もう一つアマンシオが考えなくてはならなかったのが、他の男たちの存在だ。
プリシラは奔放な女性であった。
複数人の男に同時に気のある仕草を見せるので、彼らは同時に悩まなければならなかったのだ。
たくさんの男たちが彼女の心に残ろうと力を尽くした。
アデラインの厳しい監視の下では、アマンシオにできることは限られている。
それでも彼は彼女に選んでもらいたかった。いざとなれば、アデラインとの関係を断ち切る覚悟だってあった。
彼女はしばらくアマンシオの前に現れないこともあったが、彼が諦めかけたころに気まぐれにまた彼を誘惑した。
いつかは戻ってくるかもしれないという思いが彼を永遠に苛んだ。
彼の青春は、プリシラにすべて捧げられてしまったのだ。
彼が生涯忘れることのない思い出を紹介しよう。
彼はプリシラを連れて、美しい湖を訪れた。
貴族たちにとって湖は眺めるもので、ボートを浮かべて楽しむためのものだった。
しかし彼女は突然服を脱ぎ始め、肌着も同然の服装で水に飛び込んだ。
しぶきが太陽の光をうけてきらきらと輝いて、彼女の笑顔をより強烈に照らし出す。
今まで見たどの芸術よりも美しい光景を、彼はただ立ち尽くして眺めることしかできなかった。
結局彼女がアマンシオを選ぶことはなかったので、この思い出は苦く切ない失恋の記憶として彼の中に残り続けた。
プリシラが選んだのは、頭脳明晰なロベルトであった。彼は今やこの国の宰相だ。
アマンシオはというと、アデラインと結婚し、与えられた領地を治めて平凡な幸せを手に入れた。
アデラインは子を産んでもなお美しい。
良き妻として、アマンシオに尽くしてくれる。
彼は妻に対して不満などなかった。だが、彼の中には青春の象徴としてのプリシラが残り続けた。
彼は、アデラインのことも愛している。良き夫であろうとし、妾などは一切作らなかった。
それでも、彼の中に残るプリシラの存在を、アデラインも感じ取っていた。
だからといって彼女にできることは何もない。
終わったものを追及することなどできないし、アマンシオは結局アデラインを選んだのだ。
プリシラの存在はアマンシオを甘く苦しめたが、アデラインにとってもまた苦しみの種であった。
彼の恋の終わりは突然に訪れた。
彼らの領地に、王都から近衛隊長のルイスがやってきたのだ。
ルイスも学生時代、プリシラに焦がれた男の一人であった。
「アデライン嬢は今も美しいね」
ルイスとアマンシオは幼い頃から親密で、アマンシオは自分より身分が下のルイスにくだけた言葉遣いを許していた。
「あんなに美人な奥様をもらえて、アマンシオはこの国一番の幸せ者だよ」
ルイスの言葉に、アマンシオは複雑な気持ちとなった。
彼もかつてはプリシラに心を奪われ、彼女を奪い合ったライバルであったはずなのに。
「プリシラ嬢は…」
アマンシオはとっさに口に出してしまったが、続けるべき言葉を思い浮かべることができなかった。
「ああ」
ルイスは短く声をあげ、それから続ける。
「彼女はロベルトと結婚したよ。結婚式の彼女は美しかったと思う。もう忘れたけれど」
ロベルトと愛を誓う彼女を想像すると、やはりいまだに胸が苦しくなる。
その姿はきっと、あの日しぶきの中で輝いていた彼女と同じくらいに美しいだろうに…それを忘れることができるなんて。
「プリシラ嬢は結婚してから輝きを失ってしまってね。聖女のように見えていた彼女も、俺たちの母さんと同じだったのさ」
母親のような姿のプリシラを想像することができず、アマンシオは黙り込んでしまう。
「あれだけ奔放だった彼女が貞淑な妻になったんだ。ロベルトが何をしても彼女は許す。いや、彼が酷いことをしているとかではなくて」
貞淑なプリシラ、というのはひどく矛盾したような言葉に思えた。
「貞淑になったのなら、良かったじゃないか」
「ああ。ロベルトにとってはそうかもしれない。だが、なんというか…俺たちが焦がれたプリシラ嬢はもういないんだよ」
ルイスは慎重に言葉を選んで話している。
「時々、ロベルトを迎えに来た彼女と顔を合わせることがあるんだ。年相応の細かいしわが刻まれた目じりを垂らして、俺に微笑みかけてくれる。そこにはもう何の意味もないんだ」
学生時代の彼女の微笑みを思い出す。
そこに含まれた意味を考え出すと眠れなくなるほど高揚したものだ。
「彼女は幸せそうだ。でも、俺が好きだったのは多分、激しく何かを求めてもてあそぶ、満たされていない彼女だったんだ」
アマンシオには、ルイスの言わんとしていることがなんとなく分かる。
彼女のあの、若さを爆発させたような魅力はもう永遠に失われてしまったのだと理解せざるを得なかった。
その事実はアマンシオの胸を突き刺した。
彼女がロベルトを選んだその瞬間よりもずっと確かな失恋の実感がそこにはある。
彼女はもう戻らない。
「今のアマンシオを見て、結婚もいいかなってやっと思えた」
帰り際、ルイスはそう言った。
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