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第33話 心の平穏
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「でも白状したあともやっぱりあたしとエッチしたから、子作り目的だけでもないんだろうけど。ほら、壱流って基本的には痛々しいほどにノーマルだし。入江くん以外にはそゆこと絶対許さないだろうし、そのくせ気持ちを裏切って体だけ疼いちゃったりして。もう大変。壱流をしょっちゅう忘れちゃう入江くんのことはいっそ諦めて、別の男で妥協出来れば楽になれるのにねえ」
「はあ……」
またひどいことを言われた気がする。けれどその口調がとても軽いものだったので、あまりひどく聞こえない。それに、言っていることは確かにそのとおりだった。
忘れる俺がその気になるのを待っていないで、違う男を選ぶことだって出来るだろう。……あ、ノーマルだから、出来ないのか。
俺だって、好き好んで男を選んだわけではない。これはあくまでも流れであり、過去の『俺』による不始末のアフターケアだ。
いや……それだけだろうか?
違うか。抱いてる時の壱流のことは、本当に可愛いと思えるし。好きかも、とか……思うこともあるし。
「壱流ってほんと難儀な性格してるよね。喜んで相手してくれそうな男は結構いるのに」
「……そうなのか?」
「あまりにも精神的に不安定なんで、前にカウンセリング受けさせたことあるんだけど。何回か通ううちにそこのカウンセラーが壱流に恋しちゃって、結局通うのやめたんだよね。優しい感じのいい男だったのに、やっぱり壱流的には駄目みたい。まあ、これはほんの一例」
「ふうん……」
そんなことがあったのか。なんとなくむっとする。カウンセラーと何を話したら恋心を抱かれてしまうのだ。
俺の記憶喪失は秘密にしておきたいと言っていたから、それは抜きにして色々話したのだろうか。
俺自身はそういうところに掛かった経験は多分ないが、映画の中で見たイメージをちょっと思い浮かべてみる。
ソファに座ってリラックス。二人きりの空間。先生と患者が淡々と会話を交わす。そんなシーンを何かで見た。
俺としたいのに出来なくて、我慢して友達に戻ろうとしている壱流。欲求不満のあまり、ベッドで見せるような切ない潤んだ目でカウンセラー見たりしてなかったか?
あの目でじっと見つめられたら、結構やばい。その気がない男でもぐらっと来そうだ。ただでさえ壱流の目は引力がある。
「心配?」
黙り込んで想像していた俺に、赤信号で停まったまひるが振り向いた。妙ににこにこしているのは何故だ。
「なんでそんなに嬉しそうなんだ」
「壱流のこと心配してくれるのが、嬉しいから。そういうの、平和でいいじゃない」
平和ねえ……。
だけど、それでまひるの心は平和なのだろうか?
俺にはまひるの心がまるで理解出来ない。どうして壱流が俺とそうなるのを許容出来るのか。形だけの結婚なんて、不幸ではないのか。子供が欲しいからって寝るなんて、歪んでいないだろうか。それとも俺が気づかないいろんな感情が、そこにはあるのか。
「来年あたり、壱流の子、産んであげよっかなあ。ねーどう思う? 入江くん」
寝ている壱流に聞こえるような大きな声で、突如まひるが俺に振ってきたが、どう答えて良いものかわからなくて、答えられなかった。
「はあ……」
またひどいことを言われた気がする。けれどその口調がとても軽いものだったので、あまりひどく聞こえない。それに、言っていることは確かにそのとおりだった。
忘れる俺がその気になるのを待っていないで、違う男を選ぶことだって出来るだろう。……あ、ノーマルだから、出来ないのか。
俺だって、好き好んで男を選んだわけではない。これはあくまでも流れであり、過去の『俺』による不始末のアフターケアだ。
いや……それだけだろうか?
違うか。抱いてる時の壱流のことは、本当に可愛いと思えるし。好きかも、とか……思うこともあるし。
「壱流ってほんと難儀な性格してるよね。喜んで相手してくれそうな男は結構いるのに」
「……そうなのか?」
「あまりにも精神的に不安定なんで、前にカウンセリング受けさせたことあるんだけど。何回か通ううちにそこのカウンセラーが壱流に恋しちゃって、結局通うのやめたんだよね。優しい感じのいい男だったのに、やっぱり壱流的には駄目みたい。まあ、これはほんの一例」
「ふうん……」
そんなことがあったのか。なんとなくむっとする。カウンセラーと何を話したら恋心を抱かれてしまうのだ。
俺の記憶喪失は秘密にしておきたいと言っていたから、それは抜きにして色々話したのだろうか。
俺自身はそういうところに掛かった経験は多分ないが、映画の中で見たイメージをちょっと思い浮かべてみる。
ソファに座ってリラックス。二人きりの空間。先生と患者が淡々と会話を交わす。そんなシーンを何かで見た。
俺としたいのに出来なくて、我慢して友達に戻ろうとしている壱流。欲求不満のあまり、ベッドで見せるような切ない潤んだ目でカウンセラー見たりしてなかったか?
あの目でじっと見つめられたら、結構やばい。その気がない男でもぐらっと来そうだ。ただでさえ壱流の目は引力がある。
「心配?」
黙り込んで想像していた俺に、赤信号で停まったまひるが振り向いた。妙ににこにこしているのは何故だ。
「なんでそんなに嬉しそうなんだ」
「壱流のこと心配してくれるのが、嬉しいから。そういうの、平和でいいじゃない」
平和ねえ……。
だけど、それでまひるの心は平和なのだろうか?
俺にはまひるの心がまるで理解出来ない。どうして壱流が俺とそうなるのを許容出来るのか。形だけの結婚なんて、不幸ではないのか。子供が欲しいからって寝るなんて、歪んでいないだろうか。それとも俺が気づかないいろんな感情が、そこにはあるのか。
「来年あたり、壱流の子、産んであげよっかなあ。ねーどう思う? 入江くん」
寝ている壱流に聞こえるような大きな声で、突如まひるが俺に振ってきたが、どう答えて良いものかわからなくて、答えられなかった。
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