23 / 45
23解析の魔法
しおりを挟む
叙勲式を終え、王都の公爵邸から公爵領に本邸に戻ったエミリアは、解析の魔法で細胞を観察していた。
「見えた!」
細胞小器官を姿を捉えたエミリアは声を上げた。
「何がですか、お嬢様?」
「細胞の中身よ。ようやくだわ」
「細胞の中身が見えると何ができるのですか?」
「ワクチンを作れるわ」
「ワクチン?」
「なんて言ったらいいかしら……そうね、それを打つと、実際に病気になった時の症状を軽くすることができるのですわ」
「それはすごいですね。どういう原理なのですか?」
「一度罹った病気にもう一回罹ると症状が軽くなるでしょう? それを人工的に起こすのですわ」
イリスは医学を学んでいはいない。だが、この説明であれば理解できるだろう。と、思っていたのだが――
「病気にかからなくても免疫を得られるということですか」
(なんで免疫のことだってわかったの?)
「…………イリス、あなたいつの間に医学に詳しくなったかしら?」
「確かに私はお嬢様の講義は受けておりませんが、お嬢様が研究する姿はいつもそばで見ております。ですから、簡単なことは自然に覚えてしまいました」
「なるほど、確かにイリスはいつでも私の隣にいてくれましたわね」
「お嬢様のお守りするのが今の私の使命ですので」
「ふふっ、頼りにしてるわね。それからイリス、アウレリアノを呼んで来てくれるかしら。そろそろ今日の医学講義も終わるはずだわ」
「かしこまりました」
(さて、ここからが大変ね……)
解析の魔法で細胞小器官を見ることはできた。魔法を使えば細胞小器官を動かすこともできる。メッセンジャーRNAを取り出せたら、ワクチン開発のスタートに立てたと言っていいだろう。
「頑張りますわよ! まずはインフルエンザワクチンの開発ですわ!」
エミリアが気合を入れた時、イリスがアウレリアノを連れて戻ってきた。
***
「――――という手順で作業を進めますわ」
エミリアはワクチン開発の手順を一通り説明し終え、話を聞いていたアウレリアノとイリスの方に振り返った。
「エミリア様、その手順ですと、エミリア様しかできない作業が多すぎますぞ?」
「ええ、わかってますわ。ですから、効果が確認できた後、私がいなくてもできる量産方法を検討しますわ」
「そういうお考えでしたか。出過ぎた発言をお許しください」
「気にしてませんわ。気になったことはどんどん指摘してくださって構いませんわ」
「ではお嬢様、その量産方法とやらに、目処はついているのでしょうか?」
「ええ。魔法を用いて先ほど説明したメッセンジャーRNAを量産しますわ。目に見えないほど小さなものを操ることになりますから、大変でしょうけど、補助魔法陣を使えば、実現可能なはずですわ…………おそらく」
「自信はない、と。それでジュード様をお呼びしているのですね? てっきりまた……」
エミリアは三白眼をイリスに向ける。その耳はほんのりと色づいていた。
「イリス?」
「失礼いたしました。ワクチンの量産に必要だというのが7割、ジュード様に会いたいというのが3割だと理解しておきます」
「謝る気ありませんわね!? 10割ワクチンのためですわ!」
「本当ですか? では?、ジュード様には会いたくないのですね?」
「それは……」
(実際どうなのかしら? 私はジュードに会いたいのかしら?)
とかなんとか考えながら、すでにエミリアの心は踊っている。考えるまでもなくジュードに会いたいのだ。
「………………会いたい、ですわ」
「かしこまりました。その日はとっておきのお召し物をご用意いたします」
「…………ありがとう……ですわ……」
何やら話が脱線し、その場に流れた甘酸っぱい空気を壊すように、アウレリアノは質問する。
「それで、エミリア様、実際このワクチンとやらはどれくらいでできそうなんですかな?」
「こほんっ。そうですわね……インフルエンザウイルスはすぐ用意できるはずですわ。それを加味すると……ざっと1週間ですわ」
「1週間、ですか。つまりエミリア様はこれから1週間研究室にこもりきりだと」
「あー…………っと…………そうですわ」
現在、医学講義はエミリアとアウレリアノの2人で交互に行っている。1日の講義が5時間、質疑応答を含めると6~7時間は医学講義に時間をとられるのだ。エミリアがワクチン開発に集中するということは、アウレリアノがその全てを1人で対応しなければならないということになる。
「はあ、わかりました。エミリア様がそういうことをする時は、いつもそうしなければならぬ時。このアウレリアノ、その間の医学講義はすべてお引き受けいたします」
「助かりますわ。それで、そのイリス姉様……」
「はあ、わかりました。エミリア、しばらくの間公務は任せなさい」
エミリアは領主代理でもある。医学のことだけ考えていればいいだけではないのだ。領主の承認が必要な書類の確認、式典への参加、街の視察等々、領主代理としての仕事もそれなりにある。
「いつも通り、あくまで私はあなたから全権を預けられた使用人、ということで良いのよね?」
「ええ、それで構いませんわ」
イリスは以前にも何度か、エミリアの全権代理として、公務を代わってもらったことがある。一介のメイドが領主代理の全権代理を務めることを領民が不審がらないのは、イリスが公爵の娘だという噂が流れおり、それを信じている民が多いからだ。そういう意味では、イリスの秘密は、もうバレているとも言えるかもしれない。
「任せなさい。でも、1週間以上は無理よ?」
「わかってますわ」
アウレリアノとイリスは部屋を出ていった。さっそく仕事に取りかかかるようだ。
(さて、私も頑張らないとね!)
エミリアはインフルエンザに感染させた細胞に対して解析の魔法を使い、ワクチン開発を始めたのだった。
「見えた!」
細胞小器官を姿を捉えたエミリアは声を上げた。
「何がですか、お嬢様?」
「細胞の中身よ。ようやくだわ」
「細胞の中身が見えると何ができるのですか?」
「ワクチンを作れるわ」
「ワクチン?」
「なんて言ったらいいかしら……そうね、それを打つと、実際に病気になった時の症状を軽くすることができるのですわ」
「それはすごいですね。どういう原理なのですか?」
「一度罹った病気にもう一回罹ると症状が軽くなるでしょう? それを人工的に起こすのですわ」
イリスは医学を学んでいはいない。だが、この説明であれば理解できるだろう。と、思っていたのだが――
「病気にかからなくても免疫を得られるということですか」
(なんで免疫のことだってわかったの?)
「…………イリス、あなたいつの間に医学に詳しくなったかしら?」
「確かに私はお嬢様の講義は受けておりませんが、お嬢様が研究する姿はいつもそばで見ております。ですから、簡単なことは自然に覚えてしまいました」
「なるほど、確かにイリスはいつでも私の隣にいてくれましたわね」
「お嬢様のお守りするのが今の私の使命ですので」
「ふふっ、頼りにしてるわね。それからイリス、アウレリアノを呼んで来てくれるかしら。そろそろ今日の医学講義も終わるはずだわ」
「かしこまりました」
(さて、ここからが大変ね……)
解析の魔法で細胞小器官を見ることはできた。魔法を使えば細胞小器官を動かすこともできる。メッセンジャーRNAを取り出せたら、ワクチン開発のスタートに立てたと言っていいだろう。
「頑張りますわよ! まずはインフルエンザワクチンの開発ですわ!」
エミリアが気合を入れた時、イリスがアウレリアノを連れて戻ってきた。
***
「――――という手順で作業を進めますわ」
エミリアはワクチン開発の手順を一通り説明し終え、話を聞いていたアウレリアノとイリスの方に振り返った。
「エミリア様、その手順ですと、エミリア様しかできない作業が多すぎますぞ?」
「ええ、わかってますわ。ですから、効果が確認できた後、私がいなくてもできる量産方法を検討しますわ」
「そういうお考えでしたか。出過ぎた発言をお許しください」
「気にしてませんわ。気になったことはどんどん指摘してくださって構いませんわ」
「ではお嬢様、その量産方法とやらに、目処はついているのでしょうか?」
「ええ。魔法を用いて先ほど説明したメッセンジャーRNAを量産しますわ。目に見えないほど小さなものを操ることになりますから、大変でしょうけど、補助魔法陣を使えば、実現可能なはずですわ…………おそらく」
「自信はない、と。それでジュード様をお呼びしているのですね? てっきりまた……」
エミリアは三白眼をイリスに向ける。その耳はほんのりと色づいていた。
「イリス?」
「失礼いたしました。ワクチンの量産に必要だというのが7割、ジュード様に会いたいというのが3割だと理解しておきます」
「謝る気ありませんわね!? 10割ワクチンのためですわ!」
「本当ですか? では?、ジュード様には会いたくないのですね?」
「それは……」
(実際どうなのかしら? 私はジュードに会いたいのかしら?)
とかなんとか考えながら、すでにエミリアの心は踊っている。考えるまでもなくジュードに会いたいのだ。
「………………会いたい、ですわ」
「かしこまりました。その日はとっておきのお召し物をご用意いたします」
「…………ありがとう……ですわ……」
何やら話が脱線し、その場に流れた甘酸っぱい空気を壊すように、アウレリアノは質問する。
「それで、エミリア様、実際このワクチンとやらはどれくらいでできそうなんですかな?」
「こほんっ。そうですわね……インフルエンザウイルスはすぐ用意できるはずですわ。それを加味すると……ざっと1週間ですわ」
「1週間、ですか。つまりエミリア様はこれから1週間研究室にこもりきりだと」
「あー…………っと…………そうですわ」
現在、医学講義はエミリアとアウレリアノの2人で交互に行っている。1日の講義が5時間、質疑応答を含めると6~7時間は医学講義に時間をとられるのだ。エミリアがワクチン開発に集中するということは、アウレリアノがその全てを1人で対応しなければならないということになる。
「はあ、わかりました。エミリア様がそういうことをする時は、いつもそうしなければならぬ時。このアウレリアノ、その間の医学講義はすべてお引き受けいたします」
「助かりますわ。それで、そのイリス姉様……」
「はあ、わかりました。エミリア、しばらくの間公務は任せなさい」
エミリアは領主代理でもある。医学のことだけ考えていればいいだけではないのだ。領主の承認が必要な書類の確認、式典への参加、街の視察等々、領主代理としての仕事もそれなりにある。
「いつも通り、あくまで私はあなたから全権を預けられた使用人、ということで良いのよね?」
「ええ、それで構いませんわ」
イリスは以前にも何度か、エミリアの全権代理として、公務を代わってもらったことがある。一介のメイドが領主代理の全権代理を務めることを領民が不審がらないのは、イリスが公爵の娘だという噂が流れおり、それを信じている民が多いからだ。そういう意味では、イリスの秘密は、もうバレているとも言えるかもしれない。
「任せなさい。でも、1週間以上は無理よ?」
「わかってますわ」
アウレリアノとイリスは部屋を出ていった。さっそく仕事に取りかかかるようだ。
(さて、私も頑張らないとね!)
エミリアはインフルエンザに感染させた細胞に対して解析の魔法を使い、ワクチン開発を始めたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない
三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる