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第一章「いきなり冒険者」
第28.5話 005「悲劇の冒険者たち」
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「この子たちの親は冒険者でした」
シャルカは静かな口調で語り始めた。
今ここにカルルの姿はない。これからの話は子供には酷だろうというシャルカなりの配慮だった。
「だった」という言葉と「墓前」という言葉から連想される事柄は一つだけだ。
カルルとチャルルの両親は冒険者をしていた。
男は剣士で、女は光魔法、主に回復魔法の使い手だった。
二人は結婚を機に女は専業主婦となり、男はそのまま冒険者を続けていた。
冒険者は危険と隣り合わせの仕事だ。それは先日オレ自身で経験したばかりだ。
人は集い集落を作る。それは自衛という面でも生活という面でも大切なことだ。
人の暮らす集落は魔物たちの巣食う自然の中に異物が入り込むようなものだ。大きな町や都市ならばともかく小さな村では最悪、魔物の達の襲撃に会うことも珍しくない。自警団があったとしてもその力を上回る魔物の集団に襲われればひとたまりもない。
悲劇の始まりは小さな事件から始まった。
ゴブリンの発生。討伐するための自警団は全滅し、冒険者たちが集められた。
聖騎士への討伐依頼も行ったが聖騎士が出動するには事件はあまりにも小さく、聖騎士は動いてくれなかったのだ。それが全ての悲劇の始まりだった。
聖騎士が動かないのであれば冒険者を雇うしかない。
村で集められた資金を報酬として冒険者が雇われ、魔物の討伐が開始された。
初めは順調に進んでいた討伐もやがて陰りが見え始める。
ゴブリンはいわば討伐対象としてはそれほど難易度の高いものではない。
しかし、それは数が少数であった場合だ。
討伐は長期にわたった。
駆逐すれども数は減らず、気が付けば圧倒的だった討伐隊は数を徐々に減らし、ついには被害の方が大きくなるようになっていた。何かがおかしい……冒険者たちが不審に思い始めた矢先に事件が起こる。
ゴブリンの大量発生と村への襲撃。襲撃者たちは冒険者を全滅させ村を襲いキエムの街にまで侵攻してきた。後に「釣鐘の悪夢」と呼ばれる災害の日だ。警報を鳴らすための釣鐘の塔が破壊され、警報のはずの釣鐘がゴブリンたちによって襲撃の合図になったということが由来となっている。
キリムの街の自警団と聖騎士団の奮闘によってゴブリンの群れは討伐されたが、被害は甚大なものとなった。討伐されたゴブリンの中にゴブリンロードの存在が確認されており、ゴブリンロードの発生が今回の事件を引き起こしたとの見解がギルドより発表された。
ゴブリンロードはゴブリンの中に稀に発生する希少種だ。固有能力はゴブリンの統率能力。発生が確認されれば第一級の討伐依頼として聖騎士が動くに値する案件だった。すべては情報の遅延による誤認が始まりだった。この世界ではまだ情報の伝達手段は手紙又は口伝のみ、他国の情報などが年単位で遅れるなどざらだった。音声伝達の魔法もあることはあるが、それは国単位で運用される機密事項でありおいそれと多用できるようなものではない。
この事件を機に、交易都市キリムの城壁は強化され、周辺の村により強固な監視網が敷かれるようになった。それまで、集落単位で運用していたギルドを都市集中型ではなく支所を設け、簡易ではあるが連絡網を確立させた。一度だけだが非常事態の通信が行える魔法水晶が各村に設置されるようになったのだ。
様々な対策が構築されるようになったが、事件で失われた命が蘇るわけではない。
「釣鐘の悪夢の時にカルルとチャルルの両親は亡くなりました。私の両親も……」
釣鐘の悪夢の際に失われた命は数千人と言われていた。それほどまでに大きな災害が襲いかかってきたのだ。その中のほんの一握りの出来事だ。他にも同じような悲劇が今現在も各地で起こっている。
その悲劇を一つでも減らせるように日々努力する必要があるのだ。
オレ達冒険者もその一端を担っているといっても過言ではない。
シャルカはぐっとこらえるように手を握りしめた。
シャルカは静かな口調で語り始めた。
今ここにカルルの姿はない。これからの話は子供には酷だろうというシャルカなりの配慮だった。
「だった」という言葉と「墓前」という言葉から連想される事柄は一つだけだ。
カルルとチャルルの両親は冒険者をしていた。
男は剣士で、女は光魔法、主に回復魔法の使い手だった。
二人は結婚を機に女は専業主婦となり、男はそのまま冒険者を続けていた。
冒険者は危険と隣り合わせの仕事だ。それは先日オレ自身で経験したばかりだ。
人は集い集落を作る。それは自衛という面でも生活という面でも大切なことだ。
人の暮らす集落は魔物たちの巣食う自然の中に異物が入り込むようなものだ。大きな町や都市ならばともかく小さな村では最悪、魔物の達の襲撃に会うことも珍しくない。自警団があったとしてもその力を上回る魔物の集団に襲われればひとたまりもない。
悲劇の始まりは小さな事件から始まった。
ゴブリンの発生。討伐するための自警団は全滅し、冒険者たちが集められた。
聖騎士への討伐依頼も行ったが聖騎士が出動するには事件はあまりにも小さく、聖騎士は動いてくれなかったのだ。それが全ての悲劇の始まりだった。
聖騎士が動かないのであれば冒険者を雇うしかない。
村で集められた資金を報酬として冒険者が雇われ、魔物の討伐が開始された。
初めは順調に進んでいた討伐もやがて陰りが見え始める。
ゴブリンはいわば討伐対象としてはそれほど難易度の高いものではない。
しかし、それは数が少数であった場合だ。
討伐は長期にわたった。
駆逐すれども数は減らず、気が付けば圧倒的だった討伐隊は数を徐々に減らし、ついには被害の方が大きくなるようになっていた。何かがおかしい……冒険者たちが不審に思い始めた矢先に事件が起こる。
ゴブリンの大量発生と村への襲撃。襲撃者たちは冒険者を全滅させ村を襲いキエムの街にまで侵攻してきた。後に「釣鐘の悪夢」と呼ばれる災害の日だ。警報を鳴らすための釣鐘の塔が破壊され、警報のはずの釣鐘がゴブリンたちによって襲撃の合図になったということが由来となっている。
キリムの街の自警団と聖騎士団の奮闘によってゴブリンの群れは討伐されたが、被害は甚大なものとなった。討伐されたゴブリンの中にゴブリンロードの存在が確認されており、ゴブリンロードの発生が今回の事件を引き起こしたとの見解がギルドより発表された。
ゴブリンロードはゴブリンの中に稀に発生する希少種だ。固有能力はゴブリンの統率能力。発生が確認されれば第一級の討伐依頼として聖騎士が動くに値する案件だった。すべては情報の遅延による誤認が始まりだった。この世界ではまだ情報の伝達手段は手紙又は口伝のみ、他国の情報などが年単位で遅れるなどざらだった。音声伝達の魔法もあることはあるが、それは国単位で運用される機密事項でありおいそれと多用できるようなものではない。
この事件を機に、交易都市キリムの城壁は強化され、周辺の村により強固な監視網が敷かれるようになった。それまで、集落単位で運用していたギルドを都市集中型ではなく支所を設け、簡易ではあるが連絡網を確立させた。一度だけだが非常事態の通信が行える魔法水晶が各村に設置されるようになったのだ。
様々な対策が構築されるようになったが、事件で失われた命が蘇るわけではない。
「釣鐘の悪夢の時にカルルとチャルルの両親は亡くなりました。私の両親も……」
釣鐘の悪夢の際に失われた命は数千人と言われていた。それほどまでに大きな災害が襲いかかってきたのだ。その中のほんの一握りの出来事だ。他にも同じような悲劇が今現在も各地で起こっている。
その悲劇を一つでも減らせるように日々努力する必要があるのだ。
オレ達冒険者もその一端を担っているといっても過言ではない。
シャルカはぐっとこらえるように手を握りしめた。
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