12 / 31
妹が見送ってくれたので Side:David
しおりを挟む
トリトニアの視察に合わせてトリトニアの王子を国賓として迎える。これは第一王子であるルーク殿下が第一線にたって進めていたことだった。
「お会いできて光栄です」
王城の謁見の間、国王陛下とあいさつを交わしている大使を他の貴族たちと並んで遠目で見ていた。
トリトニアとパラディオの交流は、大国トリトニアが発展途上である隣国パラディオに技術支援や物資支援をする形での、国家間の交流が主である。
それに加え今後、民間同士の交流を活発にしていきたいのが、第一王子を筆頭にした親トリトニア派の考えらしい。ラクシフォリア家は窓口としてかなりこき使われ、ここ一ヶ月は準備にあちこち走り回る日々を過ごしていた。昨日は深夜にレイに引きずられるようにしてなんとか帰宅し、やっとの思いで寝室に潜り込んだ。朝起きるとシャルや使用人に二人とも地を這うようなうなり声をあげて寝ていたと心配された。ラクシフォリアの屋敷にはレイの部屋も用意してあるのだ。
レイはトリトニアの外交官なのかトリトニアから出向してきたラクシフォリア家の人間なのか時々わからなくなる。
「いってらっしゃい。気を付けて。帰りを待っています」
疲れた顔をごまかして、正装に身を包み出かける私とレイを見送ってくれたシャルの笑顔を思い出す。
シャルの笑顔で目の下のくまは二割ほど減ったと思っている。
「我が友が愛するパラディオ国を直接訪れる機会を得て嬉しく思います」
謁見の間に大使の声がよく響いた。大使は王太子の息子、グレン、つまり私の再従兄弟にあたる男がにこやかに話している。
我が友のあたりでこちらに目をやらないでほしい。周りの視線が痛い。
しれっとトリトニア側の列に混ざり、案内役をしているレイもやったなこいつという顔をしている。
トリトニアにいる両親にはシャルの婚約破棄の件を報告した。祖父への直接の報告はしないでいたが、どうせすぐ伝わっただろう。
祖父に伝われば、再従兄弟に話がいくのは時間の問題だ。
若干居心地が悪そうな国王陛下に哀れみを感じるが、文字通り身から出た錆。諦めていただきたい。
つくづく、パラディオ国現国王は小心者であると感じる。息子たちに大胆さを分けすぎたのだろうか。
「視察の案内に彼らも同行する機会がございますので」
助け船のつもりか、ルーク殿下がとんでもないことを言いながら笑う。いつ、私が視察へ同行することになったんだ。
奥にいる宰相も目を丸くしている。王族が思い付きで適当なことを言うな。本当に調子がいい奴だな。父親の慎重さを分けてもらえ。
「おぉ、それは楽しみです」
グレンもいろいろ話したい事があるのですと言って笑う。国王と宰相が冷や汗をかいているであろうことが手に取るようにわかる。
その後も、何も知らなければ和やかな雰囲気、しかし実際は過酷な綱渡りのような会話を繰り広げ、謁見は終わった。
「無事に終わった……」
「……生きた心地がしなかったな」
謁見の間を出た貴族たちがそそくさと逃げ帰るように去っていく中、私の肩には宰相の手が添えられている。
「……どうされました? 私は屋敷で祖父を迎え入れる準備をしなくてはなりません」
何を言われるかは大体わかっているが、悪あがきはしたい。そう思いながら言ってみたが、宰相は鬼気迫る勢いで私の両肩を掴んだ。
「二日後の王都のガラス工房見学に同行してくれ……してください」
「……無理です」
「スケジュール的に厳しいのはわかる。せめてラクシフォリア家の手の空いているものは……」
「いるとお思いで?」
「……いや」
至近距離で宰相の顔を見続けるのはきつい。私はため息をついて肩に置かれた手を慎重に離させる。
「殿下が嘘をついたことになるのは、私も本意ではありません」
「……すまない」
「祖父に相談します。ある程度のわがままは通るでしょう。妹とともに最善を尽くし、明日返答しますので、人をよこしてください」
宰相の顔がぱっと明るくなる。こういう表情はシャルにしてもらいたい。
それにしても、シャルをかなり頼らなくてはいけない状況になってしまった。シャルに申し訳ない思いとともに調子の良い笑みを浮かべたルーク殿下の顔を思い出し、すこし腹が立ち始めた。私たちはパラディオ王家との相性が異常に悪いらしい。
「お会いできて光栄です」
王城の謁見の間、国王陛下とあいさつを交わしている大使を他の貴族たちと並んで遠目で見ていた。
トリトニアとパラディオの交流は、大国トリトニアが発展途上である隣国パラディオに技術支援や物資支援をする形での、国家間の交流が主である。
それに加え今後、民間同士の交流を活発にしていきたいのが、第一王子を筆頭にした親トリトニア派の考えらしい。ラクシフォリア家は窓口としてかなりこき使われ、ここ一ヶ月は準備にあちこち走り回る日々を過ごしていた。昨日は深夜にレイに引きずられるようにしてなんとか帰宅し、やっとの思いで寝室に潜り込んだ。朝起きるとシャルや使用人に二人とも地を這うようなうなり声をあげて寝ていたと心配された。ラクシフォリアの屋敷にはレイの部屋も用意してあるのだ。
レイはトリトニアの外交官なのかトリトニアから出向してきたラクシフォリア家の人間なのか時々わからなくなる。
「いってらっしゃい。気を付けて。帰りを待っています」
疲れた顔をごまかして、正装に身を包み出かける私とレイを見送ってくれたシャルの笑顔を思い出す。
シャルの笑顔で目の下のくまは二割ほど減ったと思っている。
「我が友が愛するパラディオ国を直接訪れる機会を得て嬉しく思います」
謁見の間に大使の声がよく響いた。大使は王太子の息子、グレン、つまり私の再従兄弟にあたる男がにこやかに話している。
我が友のあたりでこちらに目をやらないでほしい。周りの視線が痛い。
しれっとトリトニア側の列に混ざり、案内役をしているレイもやったなこいつという顔をしている。
トリトニアにいる両親にはシャルの婚約破棄の件を報告した。祖父への直接の報告はしないでいたが、どうせすぐ伝わっただろう。
祖父に伝われば、再従兄弟に話がいくのは時間の問題だ。
若干居心地が悪そうな国王陛下に哀れみを感じるが、文字通り身から出た錆。諦めていただきたい。
つくづく、パラディオ国現国王は小心者であると感じる。息子たちに大胆さを分けすぎたのだろうか。
「視察の案内に彼らも同行する機会がございますので」
助け船のつもりか、ルーク殿下がとんでもないことを言いながら笑う。いつ、私が視察へ同行することになったんだ。
奥にいる宰相も目を丸くしている。王族が思い付きで適当なことを言うな。本当に調子がいい奴だな。父親の慎重さを分けてもらえ。
「おぉ、それは楽しみです」
グレンもいろいろ話したい事があるのですと言って笑う。国王と宰相が冷や汗をかいているであろうことが手に取るようにわかる。
その後も、何も知らなければ和やかな雰囲気、しかし実際は過酷な綱渡りのような会話を繰り広げ、謁見は終わった。
「無事に終わった……」
「……生きた心地がしなかったな」
謁見の間を出た貴族たちがそそくさと逃げ帰るように去っていく中、私の肩には宰相の手が添えられている。
「……どうされました? 私は屋敷で祖父を迎え入れる準備をしなくてはなりません」
何を言われるかは大体わかっているが、悪あがきはしたい。そう思いながら言ってみたが、宰相は鬼気迫る勢いで私の両肩を掴んだ。
「二日後の王都のガラス工房見学に同行してくれ……してください」
「……無理です」
「スケジュール的に厳しいのはわかる。せめてラクシフォリア家の手の空いているものは……」
「いるとお思いで?」
「……いや」
至近距離で宰相の顔を見続けるのはきつい。私はため息をついて肩に置かれた手を慎重に離させる。
「殿下が嘘をついたことになるのは、私も本意ではありません」
「……すまない」
「祖父に相談します。ある程度のわがままは通るでしょう。妹とともに最善を尽くし、明日返答しますので、人をよこしてください」
宰相の顔がぱっと明るくなる。こういう表情はシャルにしてもらいたい。
それにしても、シャルをかなり頼らなくてはいけない状況になってしまった。シャルに申し訳ない思いとともに調子の良い笑みを浮かべたルーク殿下の顔を思い出し、すこし腹が立ち始めた。私たちはパラディオ王家との相性が異常に悪いらしい。
243
あなたにおすすめの小説
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。
ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」
その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
義務ですもの。
あんど もあ
ファンタジー
貴族令嬢の義務として親の決めた相手に嫁いだが、夫には愛する人がいた。夫にないがしろにされても、妻として母として嫁としての義務を果たして誠実に生きたヒロインの掴んだ、ちょっと歪んだ幸せとは。
婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています
由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、
悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。
王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。
だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、
冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。
再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。
広場で語られる真実。
そして、無自覚に人を惹きつけてしまう
リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。
これは、
悪役令嬢として断罪された少女が、
「誰かの物語の脇役」ではなく、
自分自身の人生を取り戻す物語。
過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、
彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる